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覚醒

(かたわの少女がここまでやるとは・・・)

少女の左腕から放たれる絶え間ない斬撃を身を捩じらせ紙一重でかわす

左右上下、縦横無尽に刃が走り、目の前を切り裂いた

まるで、右腕が無いことなど関係ないかのように

少女の橙色のポニーテールが激しく揺れる

ダガーの刃が何度も俺の頬をかすめ、血の雫が首筋まで流れていく

ふと気が付くと、俺たちは一階の広間で剣戟を繰り返していた

俺も負けじと剣を振るうがその数は圧倒的に少なく、少女の剣を防ぐので精いっぱいだった

急激な運動に体が悲鳴を上げ、細胞が強張っていくのがわかった

少女は何一つ表情を変えることなく俺に向かって剣を振り下ろす。この無慈悲な刃は間違いなく俺を殺す気だ

このままではいずれ俺の方が力尽きる

俺は少女から大きく距離を離すと、崩れた体勢を整え剣を構えなおした

肩の力をゆっくりと抜き、呼吸を整える

剣の交わり、血の流れ、死の駆け引きがなまり切った俺の体に全てを思い出させた

俺はこんな戦いを何年も繰り返していたのだ

再び少女が床を蹴り上げ、宙に舞った。あっという間に二人の距離が詰まる

少女の刃が俺の剣の範囲に入った瞬間、

「だりゃァァァァァ!!!」

獣の咆哮と共に、雷のような一振りが少女のダガーを捉えた


バァンッッ!!


ダガーが彼方へと吹き飛び、折れた直剣の破片が空中に浮かんだ

俺は怯んだ少女の胸倉を宙で捕え、そのまま地面に叩きつけた

「-ーッ!」

俺の体は止まらなかった。留まるすべを知らなかった。本能が危険と認識した相手をただ殺す

たとえそれが幼さを残した少女であったとしてもだ

少女は胸倉を掴む俺の左腕にこれでもかと爪をくい込ませるが、俺の新しい腕は決して放そうとしなかった

俺は仰向けに倒れた少女の喉に向かい、右手に持った折れた直剣を勢いよく振りかざした


ドスッ


少女の喉に刺さるより先に、俺の直剣は何かに突き刺さった

そしてそれは優位に立っていた俺を少女から強引に引きはがす

俺の体が数メートル後へと吹き飛ばされた

「ぐわッ!」

一瞬、自分でも何が起きたのかわからなかった。仰向けの少女が大男を吹き飛ばすなどありえないのだから

起き上がった俺はある異変に気付いた

匂いだ。何かが焦げたような匂い、炎の匂いだ

そして俺は信じられないモノを見た

メイド服の少女の右腕、さっきまで存在していなかった右腕

炎を纏い、太く、鋭利な爪の生えた、怪物の腕

少女の右肩の付け根から真紅の炎を上げ、異形の腕が姿を現したのだ

「俺と同じ・・・異形者キメラ

手の甲には黒く、焼け爛れた骨格がはっきりと浮き出ており

少女が刺さった直剣を抜くと、どす黒い血のような何かが傷口から床へと滴り落ちていった



「そこまで」

鈴の音が何処からともなく聞こえると、キメラ少女の炎の腕は見る見るうちに萎み、跡形もなく消えてなくなった

いつから居たのか、柱の陰から車いすがひょっこりと顔を覗かせた

「ふふ、少しは驚いたか?」

いつも通りの笑顔を浮かべ、こちらへ車いすを動かす

「あれも私の作品だ。部分的召喚魔法を右腕に彫り込んである」


ー部分的召喚魔法

ミリアが説明するには、いわゆる召喚魔法をミリア流に応用した人体魔法であり、使用する魔力の多い上級魔法である召喚術を部分的に使う事で使用コストを減らしたまま高い攻撃力を保つことのできる優れものらしい。先のあの炎の腕はイフリートの一部を召喚していたということだった


「ではご主人様、私はこれで」

少女は落ちたダガーを拾うと、ミリアに向かって深々とお辞儀をした

小奇麗だったメイド服は右袖を中心に黒く焼け焦げ、ボロ布のようになっていた

「名前は?」

「・・・アールグレイ=シェスタ」

少女は背を向けたまま答え、扉の奥へと消えていった

「アイツは少し変わっている。すぐになれるさ」

・・・どうやら俺は彼女に嫌われているらしい

「それにしても君はすごいな、もうすっかり人間の体に適応している。アルに魔法を発動させるまで追い詰めるとは・・・病み上がりとは思えんな」

ミリアは落ちた直剣の破片を手に取り、繁々と眺めた

「最初からあれで来られていたら俺は死んでいた」

俺は斬られたであろう個所を指でなぞった。不思議と血は止まっており、それらしき痕跡も見当たらなかった

「これは?」

「オークの血のおかげだ。人間の体に順応した血液が通常では考えられないスピードで君の傷を癒す。実にキメラらしいだろう?」

ミリアは意地悪そうに笑った

「明日、君を外に出す」

「本当かッ!?」

俺は興奮のあまり車いすを掴み、ミリアに顔を近づけた

「ああ、本当だ。だからもっと離れてくれないか?」

「す、すまない」

「第一、帝国を潰すとは言うが何か算段はあるのか?奴らは事実、この大陸の支配者なのだぞ?」

「・・・ない」

「全くこれだから脳筋は困る」

やれやれと溜息をつくミリア

「だが安心しろ、このミリア大先生が既にいくらか手を打ってある!」

ミリアは自信満々に言い放つ


そして


「お前は明日から冒険者ローランドだ」


・・・冒険者?


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