目覚め
つい10日前、俺は目を覚ました。ミリアによると俺は2か月間眠り続けたらしい
起きた直後は視界がぼやけ、何も見ることができなかった
どうやら被検体に俺の血が順応するまで体の機能が上手く働かないらしい
長く寝すぎたせいか常に激しい頭痛に苛まれた
寝ている間、回復魔法をかけられ続けていた為、魔法中毒になり、食事も喉を通らなかった
だが、俺は生きていた。あの狂気の実験は無事成功したのだ
そして7日前、ついに生まれ変わった自分の顔を見た
鏡に映った自分の姿、そこにはあの慣れ親しんだ深緑色の皮膚も、大木のように太い腕も、岩のように硬い拳も、左目の傷もなかった。あったのは髪と髭が乱雑に生い茂る肌色の皮膚をした男の顔だった
「体が随分小さくなった気がするな・・・」
「25歳、184cm、85kg。人間の中では十分大きい検体を使用したんだが、やはりオークの時と比べると小さく感じるものか」
ぼやく俺を見て、ミリアは愉快そうに笑った
そして昨日、俺は体中の穴という穴を調べられ、身体的異常が無いこともはっきりした
髪を短く整え、髭をすべてそり落とすと、そこには戦士の姿があった
肌には若さがみなぎり、実際の年齢よりも少し若く見えた
鈍っていた力を取り戻すため、借りた直剣を何度も振り上げる
長い眠りで筋力こそ衰えていたものの、鍛えればすぐに元の屈強な体に戻りそうだった
「気分はどうだい?ロラン君?」
ローランド=ウォーカー
それが俺についた新しい名前だった。ミリアはいつも略してロランと呼んでいる
「ああ、悪くない」
俺はベッドに座り、サイドテーブルに置いてあった林檎を手に取ると少しだけ力を入れた
するとすぐさま林檎からあふれ出た果汁が俺の手を伝い、下へ流れていった
「うーん完璧だ!」
手を叩いて子供の様にはしゃぐミリア
俺の実験が成功したからか、ここ最近はずっと興奮しっぱなしだ
「先生、俺はもう戦える。契約通り外に出してくれ」
施術をする前、俺はミリアとある契約を交わした
1 ミリアへ危害を加えないこと
2 ミリアはローランドの復讐に協力すること
3 実験の材料や魔導書の収集を手伝うこと
特に一か条に関しては絶対的なもので、右肩に刻まれた消えない紋章がその証だった
これはミリアの施術した魔法陣の一種で、俺がミリアに対し何かしらの攻撃した場合に発動し
俺の血液を死ぬまで沸騰させるらしい
「まぁ待て、腕試しといこうじゃないか」
ミリアはポケットから小さなベルを出すと、大きく左右に振るった。可愛らしい音色が部屋に響く
すると大きな扉が音を立てずにゆっくりと開いた
「お呼びでしょうかご主人様」
この屋敷にミリア以外の人間がいるとは意外だった。白と黒を基調としたメイド服に身を包んだ小柄な少女がそこから姿を現した
いつも適当な服装なミリアを見ていた為か、その少女の格好は随分改まったものに見えた
しかし、メイド服の右袖には腕が通っておらず、袖は力なく垂れ下がっていた
「その子は?」
「私専属の使用人といったところだな。ちなみに寝ていた君の世話をしていたのはコイツだ」
物静かな少女は一瞬だけこちらの方を見たが、即座にミリアの方へと向き返った
「さて、君の血が何処まで体に順応したか、コイツで見せてもらおう」
「俺にこの子と戦えと言うのか?」
「そうだ」
「・・・俺はガキと戦えるほど器用じゃない。まして片腕が無いならな。」
俺はベッドから立ち上がり、扉の方へと歩を進めた
車いすの横を通り過ぎ、少女に背を向けた直後、得も言われぬ悪寒が全身を貫く
その直感は即座に俺を少女の方へ振り返らせ、顔面を右腕で覆わせた
次の瞬間には冷たい何かが腕に突き刺さっていた。深々と刺さったそれを力任せに抜き取り、その正体を確かめる
それは普段食卓に置かれているようなナイフだった。食事にて肉を裂き、食らうためのナイフ
引き抜いた個所から痺れるような痛みが右腕に広がる
あの少女が放ったというなら、正確さ、力、全てにおいて油断できない
ミリアがテーブルの上に置いてあった直剣を放り、俺はそれを鞘から抜き放った
「この屋敷に普通の少女がいると思うか?」
「くッ!」
少女も腰から巨大なダガーを引き抜き、それを逆手に持つと床を蹴り上げ、俺との距離を一瞬で縮めた