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闘技場へ

「気分はどうだ?」

実験台の上で目覚めた俺に魔導士が語り掛ける。


ドラゴンを何とか倒し、鱗を必要な分だけとった後、

俺はさっそく実験台にされていた。

アルにはもちろんこっぴどく叱られた。

日頃の慢心がどうのとか、油断がどうとか、

まさかこの年になってまで人間の、しかも少女に怒られるとは・・・


あの時アルが召喚したのはリヴァイアサン。

アルの腕が無限の水脈となり、

ドラゴンの火炎を防いでくれたからよかったものの、

本当に危なかった。

これでまたアルに貸しが出来てしまった。

もう俺自体尻に敷かれてる、と言っても過言ではないかもしれない。


改めて自分の体を見て見るが、今までと何ら変わっていない。

身体の表面を触ってみるが、特に違和感はない。

鱗らしさはゼロだ。

ドラゴンの鱗を移植すると言われていたから、

てっきりグロテスクな見た目になると思っていたが、

これは嬉しい誤算だった。

「新鮮な鱗を使用したからね。見事に体になじんでくれたよ。」

「凄いな、本当に移植したのか?」

「私は天才だからな。」

ミリヤは高らかに笑った。

「まあ、成功したかは実際に試してみればわかる」

そう言うとミリヤはおもむろに俺から距離を取った。

「なんだ?」

「動くなよ。」

ミリヤは俺に手のひらを向けて、何やら呪文を唱えた。

「なっ!」

ミリヤの手から豪速の火球が俺へと放たれた。

避ける暇もなく、俺の体に火球が打ち付けられる。


ガォン!


凄まじい衝撃が俺をベッドから吹き飛ばし、

俺は地面に転がり落ちた。

石のベッドを覆っていたシーツは跡形もなくなり、

僅かな燃えカスだけが辺りに舞い散った。


「なにすんだ!」


・・・あれ?

確かにミリヤの火炎魔法が当たったはずだが、

俺には火傷どころかかすり傷一つついていない。

即座に顔を覆った両腕の側面が少しだけ赤くなっているだけだ。

そういえば痛みも全くない。

あれだけの魔法を至近距離で喰らったらかなりの痛手になるはずだ。


「竜の鱗には攻撃魔法をカットする性質がある。それを移植されたお前にもその恩恵が現れているんだよ。下位魔法ぐらいなら直撃しても痛くも痒くもないはずだ。」

そうだったのか。

「ただし顔は覆ってないから顔面には受けるなよ」

顔面に受けることの方が少ない気もするが・・・

気を付けておこう。

「それと強力な魔法は普通に痛いから気をつけろよ?」

「ああ、心得ておく」


これで魔法攻撃に気を取られることなく思う存分戦える。

俺には自分が怪物へ変貌していく恐れよりも、

優位に戦えるようになった事への喜びの方が大きかった。

「帝国は強い人間を探している。クオーリヤに行ったらまず闘技場に戦士としてエントリーしろ」

「冒険者の次は剣闘士か」

「ふふ、対人戦を鍛えるいい練習場所じゃないか」


俺は服を着て、再び装備を整えた。

大斧を振るうのも板についたものだ。

暫くは向こうで生活する事になるだろう。

黒い甲冑に会うためには闘技場でとにかく目立つ必要がある。

腕の見せ所という事だ。


「おっと、言い忘れたことがあった。」

「?」

「おーい、入ってきてくれ。」


ミリヤがそう言うと、研究室の扉がゆっくりと開いた。


「ホホホホホホ」


研究室に姿を現したのは一人の男。

整ったグレーのスーツにいかにもなシルクハットをかぶったその男は、

杖をつき、薄気味悪い笑い声と共に姿を現した。

帽子を深くかぶっている為、男の表情を見ることはできない。

「彼は、言うならば剣闘士ローランドのオーナーさ」


「初めましてミスターローランド」

男は白い手袋をはめた手を俺に差し出した。

握手をしろと言う事なのか、

その異様さに飲まれ俺は一瞬手を出すことをためらった。

「おっと失礼」

男は気づいたように嵌めていた手袋を外す。

目の前に現れた手は

黒く焼け爛れ、手というには形容しがたい何かだった。

「改めてミスターローランド」

帽子の奥から見えた顔は手と同様に焼け爛れ、

見る者に嫌悪感を与える。

まさに髑髏のような男は再度手を差し出し、

ニッコリと笑った。


この館には普通の人間はいない。

俺はそんな言葉を思い出していた。


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