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プロローグ

「進め!帝国と共に!」


白銀の装飾が施された美しい回廊をその身に鮮血を浴びた兵士たちがひたすらに突き進む

その体は人間よりも大きく、鎧からはみ出た分厚い皮膚は深い緑色をしていた

巨大な斧を振りかざし、立ちはばかる兵士を盾ごと切り裂く

その圧倒的な力に恐れをなし、敵兵たちは城の中を逃げ回る

「目標は間近だ!構わず進め!」

先頭を進む男がそう叫び、後に続く兵士たちも声にならない声をあげた

男たちの咆哮が回廊に響き渡る


ー第三兵団はオークだけで形成されている

そして俺達は今、エルフ族の築いた最後の城を進攻していた

人間ヒューマン族とエルフ族が始めた数年に渡って続く泥沼の戦争を終わらせるために

どうしてオーク族が人間側についてるかって?

俺も詳しくは知らない。ただ、俺が生まれる少し前オークは人間と条約を結んだらしい

内容は2種族が互いに共存し、発展していくための素晴らしいお約束なんだとか

まあ、これのせいで俺を含めオークの若い連中は無関係な戦争に狩り出されたわけだが・・・


俺はオークだが暴力は嫌いだった

好戦的な性格が多いオークの中では珍しく、今思えばかなりの変わり者だった

子供だった頃、村のみんなが棍棒を振り回して遊んでいる中、俺は畑を耕し、妹に笛を吹いて聞かせてやった。そっちの方が武器を振り回すより何倍も楽しいと感じられたからだ

左目についた縦傷も妹を魔物から守ったときにできたものだった

こんな平和な時がずっと続けばいいと思っていた

だが戦争は起こり、帝国に徴兵された俺はモノを殺すための訓練を受けた

クワからオノへと持ち替えてから何年経ったのだろうか

俺がここまで生き残ったのは運が良かったからに過ぎない。数多の戦地を渡り歩き、人もオークも、たくさんの仲間が死んでいった

体にこびりついた誰かの血は水で流れ落ちても、匂いが落ちることは無かった


それも今日で終わる

村に帰り、ただ家族に会う事だけを考えて疲弊しきった体に鞭を打つ

ひたすらに斧を振り回し、目の前に現れる障害を叩き切る


ーそしてその時は訪れた


「おい!」


誰かが強い力で肩を掴んだ

とっさに振りほどき、素早く構えなおすとそこには立派な髭を生やしたオークが立っていた

「た、隊長・・・」

「グレン、大丈夫か」

息を切らす俺に隊長は優しく声をかける

「先ほど人間がエルフの王を殺した。戦いは終わったんだ」

隊長の言葉に俺はただ目を丸くするしかなかった。言葉の意味を理解できず、夢の中を歩いているような、不安定な感覚が体を包んだ

ふと、足元を見ると一面に血だまりが広がっていた。先ほどまでエルフだったものがそこから顔を覗かしている

広間には帝国の鎧を着たオーク達の姿しかなかった。誰もかれもがその顔に安堵の表情を浮かべていた

「我々の勝利だ」

「・・・本当に・・・終わったのか!」

「ああ、よくぞ生き残った」

隊長は崩れ落ちそうになった俺の体をがっしりと掴み、力一杯抱擁した

「今、ここに提督が向かっておられる。勇敢なるオーク戦士達に今すぐ勲章を授けたいそうだ。疲れているとは思うが、この場で待機してくれ」


・・・提督

形式上第三兵団を取りまとめている人間の総司令官だ。

いつも俺達オーク軍に泥試合をさせて、いい所だけを持っていくいけ好かない野郎だった。だが、もはやそんなことはどうでもいい

「私はもう行くが、警戒を怠るな」

「はっ!」


去りゆく隊長に敬礼し、改めて肩に溜まった力を抜いた

「戦争は終わったのか・・・」

自分に確認するかのように小さく呟く。無数の命を奪い、多くの時間を費やした泥沼の戦争にしては実にあっけない閉幕だった


ーそして

巨大な扉が音を立てて開き、黒い鎧に身を包んだ人間の兵士たちが姿を現した。肩にかかる紅の直垂には帝国のシンボルである鷲のエンブレムが描かれている。その立派な装備を見る限り、帝国の中でも屈指のエリート部隊だということがわかった。

リーダー格らしき男が敬礼する俺達に近づき、同じように敬礼をした。

「現状を報告したまえ」

「はっ!広間は既に制圧。残党はおりません」

「そうか・・・」


男は安堵の溜息をもらし、後列で足並みを揃える兵士たちに何やら指示をだした


「ところで、他のオーク部隊は?」

「奥の警護にあたっています」

「・・・ご苦労」


男は右手を前へ突き出し、ニッコリと微笑んだ。俺も微笑み、右手を差し出す。男は俺の手を力強く握り


ドンっ!


刹那、体に衝撃が走る。何が起きたのかわからなかった。ただ、次の瞬間には俺の腹に男の腰に携えてあったはずの長剣が深々と突き刺さっていた。

右手の力が抜け、同時に両膝が地面へと落ちる。剣に強力な毒薬でも塗ってあったのか、たった一刺しで屈強なオークの体は微動だにしなくなった。

広間のいたるところで一斉に血飛沫が上がった。他のオーク達も声を上げる間もなく次々に床へと倒れこんでいった。

意識が薄れていく。自分の体が末端から冷たくなっていくのがわかった

「どう・・・して・・・?」

床に突っ伏した俺の最大の疑問は後ろで起こった大きな爆発音に憚られ、やがて崩落する城と共に血の海へと消えていった。



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