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黄色い竜

お久しぶりです。

間があいてすみません。

ネタが降ってきたんで書きました。

「みのり~。ま~だかいのう~。」



「出来たわおじいちゃん。さ、焼き立てだから、気をつけて食べてね。」



 香ばしい香りと甘い香りが部屋中に立ち込める。

 今日のお昼の献立はパンプキンパイ。



 パイ生地はおじいちゃんの好物だから、数日に1度は使うようにしている。

 おじいちゃん用のパイ生地となると準備が大変だから、毎日は難しいんだよね。



「おお。いい香りじゃのう~。あま~い香りじゃあ。」



「パンプキンパイよ。かぼちゃって言うのに似てるのを見つけたの。果物じゃなくて、お芋みたいな野菜なのよ?甘くすると美味しいの。」



 そう言って、今日取ってきた黒いボールラグビーボールみたいなのを見せる。

 すると、おじいちゃんは大きな目を真ん丸に見開いて驚いている。



「何じゃと~?それは硬ぁくて、あんまし上手くないはずなんじゃがなあ~?みのりはすごいのう~。」



「これは煮たりして火を通すと、柔らくなって甘みが出るの。蜜も入れて甘みを強くしてみたわ。」



「ほほぅ。火を通すと味が変わるんか~。どれ。」



 大きなお口にパクリと大皿ひとつ分のパイを丸ごと放り込む。

 かなり大きく作ったけど、おじいちゃんにとってはひと口にもならない。



 しばらくもごもごしてたけど、かっと目を見開いて、それからとろけた目になった。

 気に入ったみたい。よかった。おじいちゃんの好みの味だったのね。



「美味いのう~。果物とは違うが、これもまた美味い。みのりは天才じゃ~。」



「もうやだわおじいちゃんったら。パイくらいで。」



 手で軽くぶつ真似をして、二人でくすくす笑う。

 ある日異世界に来た時は途方にくれたけど、こうして笑って美味しいものを食べていられるのもおじいちゃんのおかげだ。



「メイリンちゃんにも食べさせてあげたいなあ~。甘いの好きだもんね。」



「おお。喜ぶじゃろうなあ~。じゃが、緑の里まで遠いからのう~。みのりを乗せて行くと、ひと月はかかるぞい~。」



「ひと月もかかるの?それは遠いわね。」



 メイリンちゃんはしばらく前に友達になった緑の竜の女の子だ。

 魔力の調節が上手くいかなくなって極端に太ってしまったので、現在ダイエット中。



 一日の終わりに今日食べたものや魔力調整の訓練の成果なんかを聞いて、後はおしゃべりしている。

 ひとりでダイエット頑張るのって辛いもんね。



 お肉大好きな子なんだけど、お肉は太るから半分は果物にしてもらっている。

 最近は目に見えて痩せていってるのがわかるらしくて、一日にあったことを嬉しそうに話してくれる。



 応援してる私も嬉しくて、できれば、傍に行ってお肉より美味しいと思ってもらえるようなパイなんかを食べさせてあげたいなって思ったんだけど。

 おじいちゃんの羽でひと月じゃあ、かなり遠そうだ。



「普段はそれくらいなら離れても問題ないんじゃが、今は他のとこも代替わりがあってのう~。あまりここを動くことは出来んのよなあ~。すまん、みのり~。」



「そんな気にしないで。出来ればいいなって思っただけなの。それより、他のところも代替わりがあるってことは、またお使いの竜が来るってこと?」



 竜は基本バラけて暮らす生き物だそうだけど、種族ごとに集まる里という場所があって、そこの代表者が変わると方々へ知らせなければいけないそうだ。

 そのお使いは若い力のある竜が行い、顔と名前を覚えてもらうのだそうだ。



 言い換えれば、お使いをすれば力のある竜だという証明になるわけ。

 そのせいで、前に若い青い竜が勝手に来て、ばったり出会った私は食事と間違えられてあやうく丸焦げにされそうになったことがある。



 まあ、正式なお使いじゃなきゃ認められないみたいだから、その青い竜のやったことは意味がないんだけどね。おじいちゃんにお仕置きされたし。

 むしろ、他所の縄張りに勝手に入ったら殺されるから、事前に知らせるものらしい。



 おじいちゃん曰く、青い竜は脳筋らしいから、そこまで頭が回らなかったのかもしれない。

 でも、後からちゃんとしたお使いの方が来たけど、その方はすごく礼儀正しくて、私に対しても丁寧に接してくれて脳筋という感じはしなかったなあ。



 個体差があるのかも。

 いくらなんでも種族みんなが脳筋ってことはないよね。



 だから、ちゃんとしたお使いの竜に悪印象は持っていない。

 お使いに来る竜はおじいちゃんのことをとても尊敬してるみたいだしね。



「そうじゃ~。たしか、黄のとこがそろそろ代替わりのはずじゃのう~。青のとこは一番強くて賢いのが長になるから、しょっちゅう変わるがのう~。黄のとこは長いこと力ある竜が納めとったはずじゃ~。じゃが、そやつもそろそろ引退したいと前々から言うとったからのう~。」



 次に来るのは黄色の竜かあ。

 おじいちゃんは長生きでとても物知りだから、「黒の長老」と呼ばれてどの種族からも一目置かれてて、こういう代替わりの時は一番に知らせがくるみたい。



 だから、おじいちゃんは代替わりがありそうな時はあまり巣から動かないようにしてるそうだ。

 お使いがちゃんと出来ないと、若い竜が困ってしまうからね。



 でも、竜の『そろそろ』というのはスパンが100年単位と長いから、正直いつ来るかわかない状態だ。

 メイリンちゃんに会いに行きたいけど、私が生きてるうちは無理かもなあ。残念。



「みのりや~。おかわりはあるかいのう~。」



「あ。待ってね。そろそろ次が、ああ、焼けてるわ。」



 おじいちゃんの催促に慌ててオーブンを見ると、丁度いいくらいの焦げ目がついていた。

 お皿に出してると、何かが聞こえたような気がした。



「…ろう~。ちょ~ろ~。」



 ん?黄色く光ってるのが近づいて来る。

 あ。もしかして、さっきの話のお使いの竜?



「おじいちゃん!お使いの竜が来たわ。たぶん黄色い竜。」



「ん~?もう来たんか~。誰じゃ~?」



 私は慌ててテーブルとお皿を片付け始める。

 おじいちゃんはパイに未練がありそうだったけど、冷めてもそれはそれで美味しいからと伝えると、ぐっと我慢したみたいだった。



「お~じゃま~。」



 ちょうど片付け終えた頃に到着したのは、おじいちゃんに近いくらい大きな竜だった。

 竜は年を経るごとに大きくなるから、この竜はかなり年配の竜だ。



 お使いは若い竜がするはずなのに、珍しいな。

 それにしても、胸元の石がきらきらしてるんだけど、あれってルビーよね?



「は~い。おひさしぶり~。黒の長老さま~。」



 ひっくい声にお姉言葉。オスだよね?

 竜にもお姉っているんだ。



「なんじゃあ。おんしが来たんか~。使いは若いやつじゃろうに~。」



「だあってえ。娘が出来たんでしょう?可愛い子だって言うから、見に来たのよお。」



「しょうがないのう~。みのりや。この黄色いのが黄の一族の長、いやあ、もう元長じゃなあ。名はガートルードじゃ。ガートルード、この子が娘のみのりじゃ。」



 長!長って、え、お使いに来て大丈夫なの?

 そんな疑問と驚きで一杯のまま、とりあえず挨拶をする。



「初めまして。こんにちは。おじいちゃんの娘になったみのりです。」



「あら。礼儀正しいのねえ。ちゃんとした子は好きよ。私。初めまして、こんにちは。私はガートルードよ。ちょっと前までは黄の長をしてたわ。」



 ちょっと前まで、ってことは今は違うってことだよね。

 え。でも、元長の竜がお使いに来るってやっぱり変じゃない?



「おんしも変わっとるのう~。みのり見たさにここまで来たんか~?」



「だあってえ。可愛い娘が出来たって自慢するクセに姿は見せてくれないじゃなあい。それに料理がとっても上手なんでしょう?ごちそうになろうと思って。それにねえ、長を変わるって宣言して、ちゃんと根回も準備もして代替わりしたのに、まあだ私を長にって言うアホがいるのよお。」



 信じられる?と言うガートルードさんはぷりぷりして怒っていた。

 ご馳走うんぬんの所はいいとして、代替わりは結構大変だったみたい。



「寂しくなっちゃったんでしょうね。今までと変わっちゃうから。」



「…そうね。そうかもしれないわ。私も寂しい。でも、そろそろあの子たちも親離れしないとね。だから、里を出て来ちゃった。」



 私のつぶやきにガートルードさんは頷いて寂しそうに笑った。

 親離れかあ。私もいつかはおじいちゃんの所から巣立つことがあるのかしら?



「ほんじゃあ、しばらくはここにいるんか~?」



「ええ。ホントはもっと里の近くに新しい住処を探す気だったんだけど、それだと私の方に来る子が出来ちゃうから。新しい住処が見つかるまで、しばらくお世話になるわ。あ、新しい長はリアンヌよ。あの子にはここに来ること教えてあるから。」



「そうか~。みのりや~。ガートルードも一緒に暮らしてもいいかのう~?こやつは自分で狩りが出来るから、食事の心配はいらん~。」



 どうやら、これからガートルードさんも一緒に暮らすことになったらしい。

 にぎやかになるだろうなあ。



「あら、私には自慢の料理は食べさせてくれないの?」



「わしの分だけでも大変じゃのに、お前の分まで用意してたらみのりが倒れるじゃろが~。」



「あ、あの、大丈夫よおじいちゃん。食べる量全部を作るのは無理かもだけど…。」



 喧嘩腰になるふたりの間に慌ててはいる。

 広いっていっても洞窟なんだから、暴れないでね?



 おじいちゃん、尻尾、尻尾を収めて。

 壁にガンガンぶつかってるよ~。



「ん~。たしかに、私よく食べるしねえ。でも、食べたいし…。じゃあ、一つだけ用意してもらっていいかしら?小さくなって食べるから。」



「あ、はい、それくらいなら、大丈夫です。…小さく?」



「そうよ。ほら。」



 目の前でするすると縮んでいくガートルードさん。

 首を挙げると私と同じくらいの身長になるまで縮んでストップした。



「すごいですね。」



「ふふ。そう?これなら、一つもらえれば満足できるわ。足りない分は本体で狩りをするし。」



 びっくりしたけど、なんでも黄色い竜の里は台風みたいな嵐が多いんだけど、森はあっても岩山みたいな場所はないから、大きい身体では隠れるのに不便なんだって。

 だから、魔法で身体を小さくする方法を身につけたんだとか。



 この大きさなら、たしかに一つ用意すれば満足感を味わえるだろう。一つくらいなら増えてもどうってことはない。

 おじいちゃんクラスの量を用意するとなると、パイにしたって、1つも2つも準備の手間はあんまり変わらないもんね。



「決まりね!ところで、さっきからすごく良い匂いがするんだけど、これって何の匂いかしら?」



「ん?おお、そうじゃあ。みのりや~。パイをおくれ~。」



「は~い。あ、ガートルードさんもおひとつどうぞ。」



「あら。食事の途中だったのね。ごめんなさい。パイっていうの?是非いただきたいわ。」



 さらに住人も増えて、おじいちゃんの巣はにぎやかになった。

 洞窟も拡張して、部屋も増やしたんだから、おじいちゃんもにぎやかになるのは歓迎みたい。



 ガートルードさんとは狩りにも一緒に行くけど、どうやらこっちの植生を覚えたいらしくて、くーちゃんにしょっちゅう質問してる。

 黄の里とは植生が違うから、どれが食べれるか、どう使えるか知って置きたいんだって。

 


 新しい仲間も増えて、狩りはますます順調だ。

 クーちゃんとも仲良くなれたようだし。



「あら。あの実って爪を染めるのに良さそうね。」



「毒は無い。味はないが、色が着くと中々取れない。」



「ぴったりじゃない~。」



 うん。仲良きことは美しきかな。

 私も久々にマニキュアじゃないけど、爪に色を付けてみようかな?


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