竜のダイエットー2
「魔力調整に幼竜も成龍もないぞい~。練習するのは、無意識でも出来るようにするためじゃあ~。それが出来んかったら、成龍とはいえんのう~。」
「…飛べるようになったら、やらなくていいんだと思ってました。」
「ん~。なら、余分な魔力が貯まって、身体が膨れたんじゃの~。しかし、飛べるようになったらやらんでいいとは、ユーリン、どういうことかいのう~?」
太った理由はわかったけど、認識が全然違うことにおじいちゃんも驚いているようだ。
話を振られたユーリンさんも頭を抱えているから、彼女だけの認識みたいだけど。
「訓練の意義はきちんと教えております。ですが、この子は理解していなかったようです。申し訳ありません。」
「メイリンちゃんってどうすれば痩せるのかしら?」
「…あなた誰?」
おじいちゃんへの質問が彼女にも聞こえてたようだ。
慌てて私は画面の竜に挨拶をした。
「私、おじいちゃんの娘になったみのりです。こんにちは。」
「こ、こんにちは。緑の里のメイリンです。」
この子も礼儀正しい子みたい。
緑の竜は礼儀正しいのかもしれない。
「そうじゃの~。魔力調整の訓練をきちんとこなせば、自然と痩せるはずじゃが、身体が魔力を溜め込むのを覚えてしまっとるかもしれんのう~。」
「え?え?」
「そっかあ。メイリンちゃん。食事から変えないといけないかもね。あ。そうそう。食べないとかえって太るって知ってる?」
「ええっ!?」
私の話に目を見開いて驚くメイリンちゃん。
これ、知らないひと結構多いんだよね。
そりゃ、まったく食べなかったら痩せるだろうけど、生き物には生存本能ってやつがあるから、完全な絶食は難しい。
だから、バランス良く最低限の栄養を取って、「これでも大丈夫なんだ。」って身体に覚え込ませて痩せる方がリバウンドの危険も少ない。肌もあれないしね。
「生き物は食べ物が無い状態が続くと、死にかけてるって勘違いして、身体に栄養を溜めておこうってするの。ドラゴンの場合は魔力ね。もちろん、おじいちゃんが言ってたように余分な魔力を外に出すことも必要だけど、魔力の多すぎる食べ物はしばらく避けて、魔力を取り過ぎないようにして、それで大丈夫だって身体に覚えさせるのよ。」
「魔力の多い食べ物って、た、たとえば、何を?」
食べ物を魔力で判断したことのない私は、おじいちゃんにお伺いをたてる。
おじいちゃんはちょっと考えて、「そりゃやっぱり肉じゃろ~。」と教えてくれた。
「えええっ!?お肉食べれないの?」
「全然食べないんじゃないの。少しずつ減らすのよ。メイリンちゃん、普段は何食べてるの?」
私の質問にメイリンちゃんは考え込んで「お肉、かな。」と答えた。
もしかして、この子お肉しか食べない子?それは人間でも太るかも。
「他には?果物とか、卵とか。」
「あ。果物は食べるわ。甘くて美味しいから。卵は飛べなくなってからは取りに行ってないけど。」
「そっかあ。ねえ、おじいちゃん、果物とか卵なら魔力は少ないかしら?」
「そうじゃのう~。動くものの方が魔力が高いもんじゃからな~。肉よりは少ないじゃろう~。」
う~ん。果物を食べるなら、お肉の割合は減らしてもらえるかも?
甘いものって満足感があるから、それなら、彼女も頑張れるかもしれない。
ダイエット初心者は無茶をして挫折しがちだから、緩めの目標をたてないとね。
「メイリンちゃん。まずは今食べてるお肉の半分を果物に変えられる?もちろん、たくさん食べるのはだめだけど、お肉より少し少ないくらいの量なら大丈夫。後、良く噛んで食べてね。丸飲みは厳禁よ。」
「それなら何とか…。果物は里の周りに一杯あるし、大丈夫だと思う。後、よく噛むのね。意識してみる。」
うん。これだけでもずいぶん違うと思う。
それが当たり前になったら、次の段階に進めるだろう。
「うん。訓練と一緒に意識してやってみて。上手くいってもいかなくても、また様子を教えてね。ダイエットは誰かに見られる方がうまくいくから。」
私がそう言うと、メイリンちゃんは目を潤ませて「うん。がんばる。ありがとう。」と頷いてくれた。
きっと誰にも相談出来なくて、怖かったんだろうなあ。
「どうにかなりそうじゃの~。様子を見るなら、わしが通信を繋げちゃる。どれくらいの間隔がいいかのう~?」
おじいちゃんに聞かれて、私もちょっと考えた。
竜にダイエットの概念が無いなら、緑の里にメイリンちゃんの理解者はいないだろう。
それなら、頻繁に連絡を取って、愚痴を聞いてあげる方がいいかもしれない。
ダイエットの時ってイライラしちゃうしね。
「おじいちゃん、毎日って出来る?ダイエットの最初は辛いから、話を聞く相手がいた方がいいと思うの。」
「おお。出来るぞい~。メイリンや。それでいいかのう~?」
「は、はい。よろしくお願いします!」
「じゃあ、明日から、早速。時間は、日が沈んだ頃がいいわね。1日にあったことを聞かせて?私も何があったか話すから。」
「うん。わかった。」
これで話はまとまった。
後はメイリンちゃんのダイエットを応援するだけだ。
それまで横で話を聞いていたユーリンさんは「ありがとうございます。私の方でも、出来る限りサポートしてみます。」と言ってくれて、通信は終了した。
きっとこれからユーリンさんが訓練を監督するんだろうけど、メイリンちゃんにはそれくらいがちょうど良さそうだ。
「やれやれ。しかし、何であんなことになったんかのう~。緑のやつらは知性を重んじるんじゃがのう?」
通信を終えたおじいちゃんは、メイリンちゃんの状況に首をひねっていた。
私の言うことに納得してたみたいだから、メイリンちゃんは理解力があると思う。
とすると、教えたひとが問題だったのかも。
頭がいいことと、教え方が上手いってことはイコールじゃないし。
「知性を重んじるってことは、言葉遣いとか難しいのかしら?」
「そういや、小難しい表現が好きなやつらじゃのう~。ユーリンはそうでもないが、年取ったやつは特に頭が固いんじゃあ~。青のやつらには嫌われとるのう~。」
青い竜は以前に家出してきた若い竜にあったことがあるけど、脳筋って言葉がぴったりな性格だった。
小難しいことを言う緑の竜とは合わないだろうなあ。
「それじゃあ、説明されても子供にはわからないかもね。」
「そうじゃのう~。その辺もまた聞いてみんとなあ~。ん?みのりや~。岩ヘビがよんどるぞ~?」
「え?あ。待ち合わせしてたんだった。いけない。行ってくるわ。おじいちゃん。」
おじいちゃんに教えられて、くーちゃんの存在を思い出す。
話し込んでてすっかり時間が遅くなってしまった。
「くーちゃんごめんっ。」
「何かあったのか?」
「うん。ちょっとおじいちゃんのお手伝いしてて。」
事情を話しながら、頭に乗せてもらって、近くの果樹園に行く。
もう日も傾いてきてるし、今日の夕飯は果物の盛り合わせになりそうだ。