戦闘準備編1
「あの龍神家の方ですか?」
ヘリに乗っている他の隊員も一斉に振り返る。
「龍神家の生き残りか?」
「まじかよ、今まで隠れていたって聞いたぞ」
「かわいそうにな、両親を小さい頃に亡くしたんだろ」
様々な声が混じり合う。
「あぁそうだ。龍神家最後の1人、龍神響だ。」
こいつの家はそんなに有名なのか?まだ20才にもなっていなそうな奴だぞ。
「ねぇ、龍神くんって有名なの?」
俺が思っている事を綾月さんが代わりに聞いた。
「そりゃあもう有名ですよ。天才陰陽師龍神家と言ったら太古の昔から数多くの妖魔に対して戦われて、それらに勝ってきた一族なんですよ!」
「多くの犠牲を払ったがな……」
龍神の過去はなんかすごそうだな。でも今は……
「あの!」
今度は俺に全員の視線が移る。
「どうしたんだい?」
「今街の人はどうしているんですか?あの公園に来る時に人陰が見えなかったんですけど。」
街に家の明かりが一つもないのは不気味だった。
「一応避難してもらっている。死んでしまった方もいるがね。避難に間に合った人たち、特にここの地域の人達は今自衛隊第三支部に集まっている。」
(良かったぁ)
素直にそう思えた。町全員が死んでいないならまだ被害者数は少ないはずだ。うちの母親も恐らく避難しているだろう。
「龍神さん!」
突然隊員が龍神に話しかける。
「もし良ければ、我々に力を貸しては頂けないでしょうか?今こちらの状況はかなり悪いのですが、あなたのお力があればなんとか盛り返せるかもしれないんです!」
確かに、この隊員の言っていることは正しい。今相手が何も重機のようなものを持っていないのにこれ程までに押されているのは対抗策が少ないからだろう。もともとこの国は戦争国ではないしな。
「あぁ、初めからそのつもりだ。だがこいつらはどうする?」
龍神が俺たちを指して言う。
「もちろん、彼らは我々が守らせ……」
「もちろん俺らも戦うぜ!」
金作が声を大にして言う。
(って、えぇぇぇぇ⁉︎)
確かにワクワクする事のように感じるし世界を守るために戦うヒーローになれるかもしれないが、だけれど死ぬかもしれないんだぞ。
「き、君死ぬかもしれない、という事を分かっているのかね。」
隊員の人も思いもよらぬ発言に驚いている。
「あぁ、あったりめぇだ!なぁ凌!」
「へ?あ、あぁ。」
しまったぁ。思いもしていない金作の発言に狼狽えてしまい、考えてもない賛同したような事を言ってしまった。
「そうか、分かった。」
分かったじゃねぇよ、分かっちゃいけないとこだろ今のは!だいたい戦うために必要な武器だってままならないってのに、どうやって戦うんだよ!
「龍神さんがそう仰るなら……今人手が足りない部署に連絡をしておきます。ただし、お嬢様は我々がお父上の所まで……」
「わたしも行くよ!」
急に今まで黙っていた綾月さんが口を開いた。
「わたしだって何かの役に立てるかもしれないからね。」
「し、しかしお嬢様⁉︎」
「お父さんには『いつまでも守ってもらわなくてもいいから!』って言っといて。」
「は、はぁ」
綾月さんのお父さんも大変だなぁ、今守ってもらってるのに、そう思っているうちに第三支部に到着した。
第三支部に着くとそこに広がっていたのは、数多くの戦車とヘリコプターだった。ぱっと見20台くらいか。
「これだけあっても足りないんですか?」
思わず隊員に聞く。俺がやっていたゲームでは戦車2台が来るだけでもかなりの脅威だった。
「えぇ、カルダノ達は数が多く普通の銃では効きません。やむなく戦車の主砲を使っているのですが、そうするとなかなか数が足りなくて……」
銃、という言葉を聞いて大事なことを忘れているのに気づいた。
「あのう、もしかしたらなんですけど、俺達助けてもらった公園で戦っていたんですけど……」
「あぁ、龍神さんは強かったでしょう」
「え、えぇそれもそうなんですけど、俺モデルガンで戦っていたんですね……」
「それは無駄ですよ。あいつら普通の銃でも効かないんですから。」
この人話の腰を折りまくっていて、全然言いたいことが言えない。
「モデルガンで倒せたんですよ‼︎」
入った途端、隊員が目を見開いた。
「え、あ、あのう、モデルガンであいつらを倒せたんですか?」
「初めは頭とかを狙っていたんですが確かにそこは効かなかったです。でも右胸を打った時には急にガックリと倒れたんです。」
「なんでもっと早くに言ってくれなかったんですか⁉︎」
「龍神龍神言っているのを聞いてて、忘れてました。」
「すぐに上に伝えます!」
隊員は走り出した。そして振り向き際に
「あ、部署は決まりましたが、今日はあちらの建物でお休みください。」
隊員が指差したのは3階建ての公民館のようなところだった。
「それでは!」
兵士とは思えない軽快な足取りで消えていった。
(最後まで元気いい人だなぁ)
とか思っているうちにその建物に着いた。
そこには多くの人がいた。おそらく町から逃げてきた人なのだろう。うちの母親を探すか。
「明日の朝、8時にここに来いって言ってたよ〜。」
綾月さんがそう告げると、
「うっしゃ、明日からハードな日々が続くだろうから今日はしっかり寝ようぜ」
と、修学旅行の先生のようなことを金作が言う。
「じゃあ、明日!」
そう言って母親を探しにその場を離れた。
建物の中はあまり明るいわけではなかったが、奥の方で誰かが歩いているのが見えた。
(あの人に聞いてみよう)
俺の町の人たちがどこにいるのかを聞ければいいなぁ、と思い聞く。
「あのー、ちょっといいですか?」
振り返った人物は、自分と同じくらいの身長で、そして……
「てっちゃん⁉︎」
よく知っている人物だった……