防衛編4
「綾月、いつからそんな手際が良くなったんだ?」
沙織さんが、綾月さんの負傷者への手当の動きを見て言う。
「避難所にいるときに救護をする者へ、という映像があったんですよ。外人の綺麗な女の人が、順番、方法、注意点などを分かりやすく教えてくれたんです!」
「もしかしてその女の人の名前は、シャルロット=ヴィーナスだったか?」
「な、なんで知ってるんですか?」
綾月さんの表情が変わる。
「あいつは世界最高の軍医だと聞いたことがある。なんでも、爆撃で医療道具をなくした後でも、自然にある物と持ち合わせていたもので治療をしたとか聞いたことがあるぞ。」
「そんなすごい人だったんですか⁉︎……今その人はどこにいるんですか?」
綾月さんが目を輝かせる。
「痛っ!う、腕がぁぁぁぁ」
ちなみに今は金作の治療中だ。綾月さんが興奮したせいで巻いていた布がきつく締まったようだ。
「あ、ごめん!」
すぐにやり直す。
「全く戦いの最中にこける奴があるか。」
「す、すんません。」
戦っている最中に瓦礫に足をかけ、バランスを崩して破片で腕を切ったのだ。
「はい、終了!」
「おう、サンキュー!」
「おい、薩美!そっちはどうだ?」
「なんとか龍神と俺で抑えてます。」
かくいう俺は金作達にカルダノを近づけさせないようスナイパーライフルで戦っていた。近距離は龍神と他の隊員8人で倒してくれるので、安心して戦えていた。
「ん?」
なんだあれは。サソリのような形をした金属の塊がこっちに向かってきている。ちょうど針のあたりに砲台のようなものがついている。
「沙織さん、なんかまずいですよ。」
「何かあったのか?」
沙織さんにスナイパーライフルのスコープを覗かれせる。
「おいおい、まずいぞこれは……あれを近づけたらとてもじゃないが生き残れん。おい金作、すぐに本部に連絡しろ!見たところ一台だけか……よし、敵が気付いていないうちに破壊しに行くぞ。」
「本部に連絡完了!空爆の準備もしておくってよ。」
「よし、空爆が来るなら大丈夫ですね」
「何がよしだ!空爆だと!そんなもの今の状況で来るまで何分かかるかわからんぞ。」
「それまで耐えてくれ、って言ってたぜ。」
チッ、と沙織さんが舌打ちをする。
なるほど時間がかかるようだ。
「おい真壁、出来るだけこの近くの兵士を集めろ!」
「イエッサー!」
真壁はすぐに兵士を使い周辺から動けるものを集めてきた。
「数は15か……よし、では策を練るぞ!」
「あの兵器は恐らくうちらの星でいうところの大砲だろう。まさか重火器が出てくるとは思ってなかったから、皆地雷やロケットランチャーなんかは持ってきていないんだろ。そうなると……龍神か。」
沙織さんが龍神を見る。
「俺の式神も残りわずかだが、あれを吹っ飛ばすぐらいはのこっている。」
「よし、ここから誘導部隊と攻撃部隊に分かれる。誘導部隊はぎりぎりまで近づいてから、龍神をメインとした攻撃部隊から相手の注意を引いてくれ。」
誘導部隊は真壁さんが金作などの兵士8人を率いていくことになり、攻撃部隊は沙織さんが俺や龍神、綾月さんなどの7人を率いることになった。
そして、すぐに作戦は開始された。
スナイパーライフルのスコープでサソリ型の兵器をよく見ると、ゆっくりとではあるが、確実に近づいているのがわかった。
遂に後100メートルほどのところまで来たタイミングで、二つの部隊に分かれた。誘導部隊は大回りして次の角の右側に隠れ、攻撃部隊はその向かい側の左側に隠れた。
「ガタガタガタガタ……」
という音がだんだん近く付いてくる。
今まさに誘導部隊が作戦を開始しようとしたその時、
「スパーーン!」
その音と同時に俺の横にいた兵士が倒れた。