安全確保編2
すぐに二手に分かれて行動を開始する。五体のカルダノ達はそれぞれ距離をとって歩いていた。まるで街を巡回しているかのように。それを俺らはあいつらが向いているのと逆斜め方向から撃てるよう移動した。
「時間だ。」
沙織さんがそう告げる。
武器を構える。
この武器は確かゲーム上だと、非常に高いレートを持っていたはずだ。レートってのは弾丸を発射する速さのことだ。レートが高い方が数多くの弾丸が撃てるのでダメージが高い。その分銃の反動が大きくなる。ゲーム上では、反動によって銃の向いている方向が変わるのでそれを直すために、銃を反動の逆向きに向けていた。
(現実も同じなのか?)
沙織さんに聞きたいが、カルダノとの距離も近いのでそうもできない。
まぁ、取り敢えずやってみよう。狙うのは奴らの右胸だ。
「ダダダダダダッッ‼︎‼︎」
沙織さんが撃ち始めるのとほぼ同じタイミングで別れたもう人チームからも銃声が聞こえる。
「ダダダダッッ‼︎」
数発撃って反動がゲームの時と同じことを確かめ、さらに弾丸を浴びせる。
他の人たちはというと、流石は軍の人たちといったところで、ほとんど弾丸を外さない。
バタバタと音を立てて倒れていくカルダノを見て、右胸が弱点であることが仮定から確信に変わった。
全員を物の数分もかからずに倒し、俺と沙織さんは立ち上がり、分かれた人たちと合流する。
「驚きだな、前の時は右胸なんて狙わずに頭ばっかり狙っていて、それにビクともしない様子を見てもう負けたと思っていた。」
「僕自身あいつらが倒れたてくれて、本当良かったです。」
沙織さんは不思議そうに死骸を眺め、再び前に進み出す。
「さらに奥まで行くぞ!」
「あのー、一つ質問してもいいですか?」
「ん、どうした薩美?」
「龍神さんが、最後の切り札となるのはわかるんですが、なんであの人に戦わせないんですか?」
そう聞いたのは先ほどの戦いから二度めの戦いが終わった後だった。数も多くはっきり言って勝てたのが奇跡なくらいだ。龍神さんが出てくれば一瞬で倒したはずなのに……
「お前、陰陽師について何にも知らんのか?」
(いや、普通の人知らないから、そんなこと)
「あの人が式神を使っていることはもう見ただろう。理由はそれだ、愚か者!」
「その式神をなんで使わないのかを聞いてるんですけど……」
龍神が動けばもっとすぐにそして広範囲に渡って制圧できるはずなのに……
「だから、式神は消耗品で使いきっちまったらさらに強い奴が来た時に、戦えねぇってんだよ」
そういうことか、そういえば龍神さんも何枚の式神を持っているのかは言っていなかったし、多くはないのかもしれない。
「なるほど、分かりました。それと、二班の方は大丈夫なんですか?連絡とか取っていないようですが……」
普通は連絡をお互いに取り合って行動するのが基本だ。
「連絡に関してはここではとらないようにしている。前に来た部隊が連絡を取り合った後、場所が見つかったそうだ。上は奴らカルダノ達は電波に反応を示すのだろうと判断をしたみたいだな。今は連絡を取らなくてもいいようきっちり、通る道とおおよその時間に関する情報を共有している。」
なら仕方ない、向こうが無事なのか心配だが……
「なんだ、向こうが心配なのか?」
心を見透かされたように言われた。
「なぁに心配するな。向こうは我々の通り、安全になった所をついてくるだけだ。何も起こらんよ。細かく調べていっているだけで、こちらのバックアップが仕事だからな。それより、自分の心配をしろ。こっちはいつ死んでもおかしくないんだからな。」
この頃から、いや彼に出会った時から俺は、もう自分たちは彼がいるから大丈夫だと安心していたんだ。
そう、龍神がこれからもずっと護ってくれると思っていたんだ。
「大体は排除したな。これも薩美が彼らの弱点に気づき、我々に知らせてくれたからだな。」
珍しく褒めてくれた。思わず笑みがこぼれる。
「おいお前ら、こんなガキに良いとことらえてて悔しくないのかぁ⁉︎」
そう言われると笑顔も引くね。今、
自分たちが住んでいた地域のほとんどを回っておよそ六十を超える敵を倒してきた。後は……
「後はここらで一番被害が大きかった、薩美達がいた高校周辺だけだな。」
ここだけはもう見たくもない場所だったんだか命令だからどうしようもないか。
「薩美、よく行けてあの道まで逃げて来られたな。」
龍神が聞く。なんか嫌味にしか聞こえないのは、彼が圧倒的に強いからだろうか?
「後少しだ、気を引き締めていくぞ!」
沙織さんの声が冷たく澄んだ風の吹く音とともに聞こえた。