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13「流行病(はやりやまい)と赤パンツ」

3~12話より先に13話がきっちり纏まったので、UP。

3話に登場予定の有子の上司、大和が既に出ていますが、本編にそこまで影響のある話ではないので大丈夫だろう(多分)


イラストUP出来たら見栄えも良くなりそうだが、此のシステムに対応している画像投稿サイトに新規登録するのはめんどくさそうだなぁ。ピクシブ対応しないかな。


身体中がだるい。頭も痛い。熱い・・・。

平日の昼下がり、自分の部屋のベッドに青年は寝ていた。

ここ最近残業続きで体力的にも弱っていた事と、先の氷原に於ける戦闘で身体を冷やした事が原因で風邪をひいてしまった。初日は市販の風邪薬を飲んでやり過ごしていたが、次の日も熱が酷かった為、病院に行くと季節外れのインフルエンザと診断された。冬でも無いのに何故、と思ったが、聞けば(ちまた)でも地味に流行(はや)っているらしい。

当たり前だが治るまでは安静にしなければならず、ここ数日学校は休んでいた。

高熱に体力と気力は奪われ、料理もまともに出来ず、ベッドの周囲には即席麺や冷凍食品の残骸が放置されている。洗濯物も大量に溜まり、其処を苗床に新たな病原菌でも誕生するのではないかと思った頃、仕事終わりの大和が訪ねて来た。

自分の中で不精(ぶしょう)だと決めつけていた彼は掃除も料理も普通にこなし、氷枕まで作ってくれた。

只、洗濯に関しては手洗いで洗濯すると言って聴かず、大きな樽と洗濯板を持って風呂場に(こも)ってしまった。妙な所で戦中の習慣が出る様だ。


歌が聞こえる。風呂場からだ。聞いた事があるフレーズ。ああ、そういえばメ○ーズパンツのCMの・・・。あれも兎が出ているから親近感でも湧いたのだろうか。しかし、よく聞く歌詞とは何か違う。風向きの所為かリフレインした歌が今度ははっきり聞こえた。

「有子のパンツはぴらぴらパンツ~♪」

「ふぉあっ!?」

ちょ、何を歌っているのだ。

39℃の熱も忘れ、青年は風呂に走った。


「パ♪パ♪・・・」

パーン!

風呂の戸を勢い良く開けた青年は息も荒く叫んだ。

「なんて事言うんだよ!」

見れば、換気の為に窓は全開にされ、さっきの歌は既に御近所へ大公開されていた。よく喋るおばちゃんが斜向(はすむ)かいに住んで居るから、もう歌の噂は広がっているだろう。明日のゴミ出しの日に周囲から向けられる白い目の事を考えると胃が重くなった。

「おっ、有子。熱は下がったのか?」

「下がって無いよ!それより、其の歌何なの!」

多感な青年期の若者に何たる汚辱。しかし、年中色欲動物は意に介した様子も無い。

「私としては配慮して染み染みパンツ~♪とは言わなかったぞ」

「言ってるじゃん!それに染みてない!」

変態に何を言っても仕方ない。頭がクラクラしてきたから布団に戻ろうとした其の時ドアチャイムが鳴った。


「おっ、来客だ」

「大和は出なくていいからね」

洗濯で濡れるのを最小限にする為にパンツしか付けていない其の恰好で出て行かれたら困るどころか警察沙汰である。それ以前に二メートルもあるマッチョな兎だなんて現実離れしたものを他人に見られたらツイッター大炎上。Under groundの存在が明るみに出る恐れがある。

急いで玄関の方へ走ろうとしたが、先の言い合いで熱がぶり返し、足元がぐらついた。

「まだ寝ていた方がいい」

床に倒れる前に青年を抱き止めた大和の顔が上から覗き込む。判りにくい表情だが多少心配してくれているのだろう。只、どうでも良いが濡れた手で抱えるのは止めて欲しい。残った洗剤がじっとりとパジャマに染み込み、何ともいえぬ不快なヌルヌル感である。


「大丈夫だ。パンツの儘では出ない」

信じていいのだろうか。

立つ事も儘ならなかったので、屈辱だがお姫様抱っこでベッドに寝かされると、大人しく待った。


「有子くん居ますかぁ?」

玄関のドア越しに聞こえる少女の声。あの鈴を転がす様な声はクラス委員の佐藤さん。風邪で出る事が出来ないのが残念だが、彼女にうつしたら申し訳がないので、大和に出てもらったのは正解かもしれない。

学校のマドンナが自分の為に来てくれたという夢の事態が起きている幸運を噛み締めている時だった。

「きゃぁっ」

玄関から彼女の悲鳴が上がった。


とうとう本性を現したか変態め。

青年は気力で体を動かし、玄関に向かった。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


玄関に見えたのは肩にタオルを掛けた以外は半裸の大和の姿と逃げ帰る佐藤さんの後ろ姿だった。

何をやっとるんだ貴様は。

パンツの儘では行かないと言ったが、肩にタオルをプラスすればよいとは誰も言っていない。矢張り変態に任すんじゃなかった。


「何て事したんだよ。次に学校に行ったらどんな事になるか・・・」

多分変態と同居しているとか、風邪に(かこつ)けて、そっちの住人とにゃんにゃんしていたとか有らぬ噂が立つのだろう。最悪だ。どうしよう。

今から佐藤さんを追いかけて、整合性のある言い訳を伝えるしか道は無い。青年はマドンナに風邪をうつさないようにマスクを三重にして家を飛び出した。

「待って。佐藤さん」

「あ、有子くん」

流石は優等生のクラス委員長。あんな事が有ったのに、青年の必死な呼び掛けに彼女は止まってくれた。

「あの、さっき玄関に出た人は、その・・・叔父さんなんだ。外国育ちで、ちょっと感覚がフランク過ぎてああなっちゃったけど、変な人じゃないから」

我ながら嘘臭い言い訳である。

「そう、叔父さんだったの」

此れで納得してくれるとは到底思えないが納得して欲しいところである。

「叔父さん、名前・・・何ていうの?」

「へっ?」

名前?

「大和・・だけど」

いきなりの事に、つい本名を言ってしまった。

「大和・・・さん」

えっ、何か嫌な予感がする。

「有子君の叔父さんって恰好良いね」

でえええええええええええええええええええっ

「独身なのかな?」

やめろおおおおおおおおおおおおおおおっ

心の中で血反吐が出た。


へ・・、変態に負けた。


「如何したの、有子君?」

一瞬のうちに失恋と人としての敗北というダブルアッパーを食らい、打ちひしがれる青年を余所に彼女は頬を赤らめていた。


「・・・・・ただいま・・・・・・」

「おっ、どうだった?さっき怒られたから今度はちゃんとTシャツとズボンを穿()いてみたぞ」

くそぅ、失意の中に居る私の心などコイツには到底判らないだろう。


それにしてもこんなパンツ一丁の兎の何処が良いのか。矢張り筋肉か、筋肉なのか?まさか、(つら)な訳・・・。

屈辱の相手の顔を見ると、表面に「イケメン(人間)」と書かれた以外は何も無い(めん)を被っていた。

「何、其れ」

「之か?技術班の新製品だ。この面になりたいものの特徴を書けば、内部に組み込まれたICチップにストックされた大量のデータから近い物をピックアップ及び修正して、見る者に其の姿を見せる事が出来る。まぁ、真眼を持つお前には滑稽に見えるだけだがな」

「そっか・・・」

だよね、兎の大和を見て「素敵❤」だなんて云う筈無いよね。変態だし。

面で負けた訳じゃない。

しかし、マドンナはイケメンが好きという事が分かり、片思いのハードルは遥か上空に上がってしまった。



この日の一悶着の所為で病状は更に悪化し、高熱から来る気だるさと息苦しさに悩まされた青年が眠りに就いたのは夜も更けた頃である。




その夜、夢を見た。


Under groundへ初めて来た時に初めて()った二体の狂気が自分を覗き込みながら、ゆらゆらと周りを歩き回っている。

「ああ、此の目は未だ青い」

「でも、じきに熟すだろう」

「可哀想に・・・」

「真実が見えてしまう」


真実が見えて何がいけないのか。真眼が前より見えるようになれば、皆の役に立てるのに。


!!!!っ


何時の間にか地面が黒い海に変わり、足元から飲み込み始めた。


「おいで、こっちに」

「残酷な眼を消してあげよう」

一つの塊になった狂気達は大きく口を開け、青年を頭から飲み込もうとしている。


「やめろ・・・、来るな!」


誰か、助けて・・・。



「有子?」

「大和・・・・」

ぼんやりと霞んだ視界の中に、心配そうに此方を覗き込む黒兎の姿が見える。

「ごめん、起こした?」

「いや、起きていたから別に気にする必要はない」

そう言って兎はベッドの端に腰を下ろした。

片手にビール缶を下げている所を見ると、また勝手に酒盛りでもしていたのだろう。

息が少し酒臭いし、煙草の匂いもする。普段なら文句の一つでも言っていただろうが、今は何故か落ち着いた。

「・・・嫌な夢だった。凄く怖くて・・・」

全てが消えてしまいそうな・・・。

「大丈夫。傍に居るから」

黒い大きな手が優しく青年の額を撫でた。




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