4「新米とジャバウォック」
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一部文章を改変。
理科室の棚でよく見かけるホルマリン漬けの瓶に似た硝子容器が、畳六畳程の縦に長い部屋の奥に並んでいる。
中には蛙の発生過程の様な生物に、海毛虫を彷彿とさせる細かい足の生えた大腸、鼠の剥き出しの脳にカナヘビの身体を張り合わせた爬虫類と言った表現が妥当と思われる具現化した狂気の全身か其の一部が詰め込まれており、採石用のベルトコンベアーに機構が似た縦型回転式の棚に大量に並んだ様子は異様その物だ。
そして、更に異様なのはエジプトの壁画の様に腕と足をカクカクに曲げた恰好をした青年であった。
「ぐねぐねした・・・、こんな感じの、こういう・・・・」
あやふやな言葉で補足を試みるが、どうも心許無い。
別に遊んでいる訳ではない。検査に当たって必要な事なのだが、やっていて矢張り恥ずかしい物が在る。
青年から離れた位置には狂気の入った瓶が簡素な机の上に置かれ、其の横に設置された脚立の上ではトランプ兵が記録用紙を挟んだバインダーと筆記具を持って立っていた。
小一時間程続いていた視力検査も佳境に入り、トランプ兵が棚から持ち出して来る狂気の瓶詰は、青年の眼には愈々(いよいよ)何とも形容し難いカオスな物体が鮨詰めになっている様にしか見えない。
取り敢えず、簡易検査の時でもやったジェスチャーと指示語での回答を試みている所だった。
青年の回答を聞いたトランプ兵は、「ぴゅひぃ」と子供用のビニル製アヒルを鳴らした音に似た溜息を吐いて肩を竦めた後、手元の用紙に検査結果を書き込んでいく。かつかつと鉛筆の黒炭が規則的な音を立てていたが、暫くして終わりの合図の様にコン、と芯のぶつかる音が一度したと思うと、鉛筆はバインダーのクリップに挟まれていた。
検査はあれで終了したのか、トランプ兵は瓶を棚に戻すと、結果を書き込んだ用紙を小脇に抱えて廊下へ続くドアに向かって歩いて行く。
付いて行った方が良いのだろうか?
そう思って、付いて行こうと歩き出した青年をトランプ兵は、バスガイドがバスを静止させる時にする手の合図と「ぴゅひっ」という強い語調で止めるとドアをパタンと閉めて出て行った。
「・・・・・暇だ・・・・・」
青年は薄暗い検査室の中で、椅子に座って待っていた。
あれから三十分、何の音沙汰も無い。
女王が言っていた教育係もまだ来ておらず、独りで待つ時間はとても退屈である。
しかし、待てと言われた以上・・・、正確には手で制されただけだが、部屋の外に出る訳にはいかない。かと言って暇潰しに、職場で携帯を弄る(いじる)のも気が引ける。
青年は狂気の瓶詰が並んだ奥の棚を見た。
其れ等は如何考えても観賞に耐えうる物ではなく、ゲテモノ、グロ、スプラッタと評するに相応しい品々である。検査の為に仕方なく見ただけであって、暇潰しに見たいとは思わない。
それに、硝子容器の底付近には何か機械的な装置が付いており、触ると何か起きそうだ。採用されて初日に、へまは出来るだけ避けたい。
と、なると何もする事が無い・・・。
余りの暇さと薄暗さから青年は何時しか眠り扱けていた。
どすり、と鈍い音が響き、長く暗闇の中に在った意識が後頭部の激しい痛みと共に引き戻される。
「ふぐぅ・・・っ・・・」
絞り出すような呻き声が口から押し出され、青年は盛大に打ち付けた頭を手で押さえて床の上でのたうっていた。
どうやら船を漕いでいる内に、身体が後ろに傾いて椅子から転がり落ちた様である。
頭の内側まで響きそうな衝撃に、眼の端には涙が浮かびそうだった。
暫く床の上でじっとしていると、外から扉が開き、廊下の明かりと共に背の高い影が青年の上に落ちた。
「大丈夫か?」
低く通った男の声が青年を案じ、彼のものと思われる硬質な足音が、かつかつと室内に進み入る。
青年は丁度、ドアとは反対の方を向いていた為、誰が来たか分からなかったが此の状態は非常に不味い。不可抗力とは言え、結果的に背を向けているのは何だか失礼・・・。と考えている場合では無かった。
「だっ・・大丈夫です!」
青年は急いで居住まいを直し、立ち上がった。
――――えっ・・・と・・・――――――
視線の先に居る人物の頭頂部に付いた、縦に長い両耳の片方が少しだけピョコリと動く。
――――可愛・・・いくは無いな・・・―――――
耳の左右其々の付け根に嵌められた、大きい十露盤玉の様な金色の耳環。下顎の無い髑髏を簡略化した様な白い仮面が付いた顔。赤いネクタイに装甲の厚い銀色の鎧。黒いベルベッドに似た毛並みの表皮・・・。
青年を迎えに来たのは大きな黒兎だった。
「Under ground A班の大和だ。今日から君の教育係を務める事になったので宜しく」
「此方こそ、宜しくお願いします」
慣れた様にさらりと握手を交わし、兎は手に持っていた真眼の検査結果が書かれた資料に目を落とした。
「ふむ、真眼の力はまだ弱いようだな・・・。これから技術部に眼鏡を取りに行く。付いて来なさい」
そう言うと、黒兎は青年を連れて歩き出した。
兎の履いているブーツのヒールが規則的に大理石の廊下を鳴らしている。
「真眼については聞いたかね?」
此方に少し顔を向け、兎が訊ねた。
「はい、少しだけですが・・・。仕事の事や、其の他の事については貴方に聞く様にと言われました」
「そうか。此処の敷地は無駄に広いからな、技術部に着くまで時間が掛かる。其の間に仕事の説明諸々をしておくから、質問が有れば其の場でしてくれ」
そう言って彼は話し始めた。
「此処、Under groundは地上から集まり具現化した狂気を狩る場所だ」
「狩る?」
BAR ARICEの店主がやった様に海鼠の様な異形の物を駆除するという事だろうが、地下とはいえ一応銃刀法の及ぶ範囲で、更に猟友会でもないのに銃火器等々を使用しても良いのだろうか?
まぁ、数多くある人の一生の内、此処の存在を知る事になる者など殆ど無いのだろうから、心配する必要など無いのだろうが・・・。
「基本的には捕獲が主流だが、場合によるな。では、先ず捕獲対象についての基礎知識について話そう」
狂気は生在るものから生まれ、時に形を成し、害を為す。
原初の生命が現れてより、狂気は少なからず姿を現してきた。
捕食される苦痛と恐怖から発生する感情の一部として含まれていた狂気が時を掛けて寄り集まり、超常的な力を誇るようになったものが最も古い種類の狂気である。
俗に精霊や地霊、土着の神々等と畏れ崇められてきたものの多くが其れに当たるが、自然の流れの一部として発生する此れ等は生物一体 当たりに発生する狂気の量が少ない為、具現化するまでに多くの時間を要する。また、自縛霊の様に発生しても活動するエリアが限られている事に加えて基本的に野生動物の様な性質をしており、強力ではあるがテリトリーを犯すか刺激しなければそう危険な物ではない。
こういった捨て置いても良い狂気と対照的に、厄介なのは人から生み出される狂気である。
愛憎、妬み、暴力性、怒り、不満・・・。鬱屈した感情から成る其れ等は具現化する割合と速度が速い場合が多く、狂気の質によって異なるが総じて強力なものになる。
人類が繁栄するようになってからは其の発生数も莫大に増えていった。見えないながらも人々は理屈に合わない現象を悪鬼や亡者、妖怪、化け物、憑き物等として歴史に存在を残してきた。
形を得れば他の存在を害し、心に巣食えば凶行に走る。
嫉妬に狂い、生き霊となって恋敵を屠った女達。有能さを妬まれ、陥れられ、死して鬼と化した男。自らが生み出した狂った心に呑み込まれ、殺戮を楽しむ者達・・・。
大抵、そういった何処かが壊れてしまった人間が作り上げた狂気は、生み出される原因となったものを殺したとしても破壊衝動が収まる事は殆ど無い。理性を無くし、周囲に当たる様に全てを滅ぼしていく。
此の侭狂気を野放しにすれば世界のバランスは崩壊する。しかし、常人には対抗する手段も力も無い。狂気が具現化する前に誘蛾灯の様に其れ等を引き寄せる役割を担っているのが此の地であり、地上に出ない様に捕獲・管理する為にUnder groundは組織された。
「此処は誰が組織したんですか?」
長い説明の間を縫って青年が質問した。
組織の上下関係を見れば女王がトップである事は明白なのだが、あの性格で誰かを護る為に狂気を狩る組織を立ち上げたとは思えない。
「我々を“狂気を狩る側”として選んだのは此の地自体だ」
かつかつと兎がヒールで床を叩いた。
此の土地自体が意思を持って何かをするという事が有るのだろうか?
「正確には星自体が持つ自浄作用の様なものだ」
かく言う大和達も具現化した狂気である。しかし、毒は毒によって制する事も出来る。癌細胞の様に身体に蔓延る狂気に浸食され、疲弊していた此の地は、己に害有る狂気を効率よく纏め、押さえつける為に此の場所を作り出し、同じ狂気で在る彼等を討伐役に選んだのである。
差詰め、此の空間は腎臓、有害な狂気は毒素、彼等は分解用酵素と言ったところだろう。
「着いたぞ」
丁度話を終えた所で、二人は技術部の研究室に辿り着いた。
全体的に薄青い色をした暗めの空間で、室内は天井、床面積共に広く、見た目は全面コンクリート製の体育館と言った所だろうか。
奥には三つの重厚そうな鋼鉄の扉が並び、右側には天井から吊り下げる形の工具用コンセントやバーナー、製造業用ロボットアーム、SFに出てきそうな円柱型の機械的な水槽等々が設置されている。部屋の中央付近には幾つかの事務机とキャスター付きの椅子が置かれ、其の中の一つに髪を腰まで伸ばした人物が旧式の箱型パソコンの前に座っていた。
カタカタと旧式の分厚いキーボードが規則的に音を立て、ブラウン管の画面が細かくちらつく。
「少し、邪魔するぞ」
兎が此方に背を向けた金髪のロン毛に声を掛けた。
研究者らしく白衣を纏った男が先程まで向かっていたパソコンから眼を離し、回転式の椅子から振り向く。パソコン画面の光に照らされて浮かび上がった其の顔は、鯵に似た魚の頭部だった。
「大和か。それと・・・」
ぬらりとした眼がぐるりと動き、黒兎に向いていた視線が青年の方に向いた。
「ああ、君が二代目アリスだね」
「アリス?」
自分の名前は読み様によっては、そう読めるが「アリス」では無く「ゆうじ」である。
「そうか、君は知らないか。アリスと言うのは役職名だよ。先代はかなり個性の強い人だったからね・・・、前の真眼の持ち主の名前が其の儘使われている。そうそう、先代と言えば昔、噂で大・・・・・。ああ、そうだ、二人共眼鏡を取りに来たんじゃないか?」
兎の憤然とした態度に気付き、魚は話を逸らした。
「施設と装備の説明も有るが、まぁ、そうだな。で、何処に置いて在る?」
虎挟を思わせる、凡そ草食動物らしからぬ鋭利な歯列をギリギリと鳴らしてお喋りな魚を威嚇していた兎は歪めていた相好を仕事の顔に戻した。
「あっちの机だ」
魚が指差す先には、ごちゃごちゃとした夢の島の一区画を切り取った様な塵っぽい品々の集合体が鎮座した机が幾つも置かれており、奥まで続いていると思しき其れ等はバリケードの様に見える。多分、眼鏡はあの物体の先に在るのだろう。
「研究品の残骸くらい掃除しておけ」
兎が嫌そうに顔を顰める。
「慣れれば、移動に一分も掛からない。其れに、自堕落さの中に規則性を持った此の造形美が分からないとは・・・」
魚は意に介した様子も無く、何処吹く風といった顔で応じた。
「・・・・・・・・有子、行くぞ」
「はい」
塵で出来た迷宮の様な研究品の山に向かって歩いて行く黒兎の広い背中を追って、青年は早足でついて行く。机の下に潜るがたついた音が二つ鳴り、暫くすると遠くなっていった。
学習机と時々事務机の混ざった土台の下に出来た空間は、ステンレス製の脚と板の枠組みで構成された迷路の様である。範囲が広く、似た様な見た目の通り道は、迷ったら片手を付きながら進んで行くという一般的な攻略法では抜けられなさそうだ。青年は先頭の黒兎を見失わない様に後を付いて行った。
移動速度は遅くはないが、黒兎は体格の大きさから進むのに難儀している様だ。幅の広い肩を出来るだけ狭めている。しかし、其れでも窮屈なのか、次のブロックに進む前に机を押し上げる動作をしているのが見えた。
外側から見た際、隙間が無いだろうと思っていた机の配列は所々に魚男が作業か何かをする為に空けたと推察される隙間が有り、其の都度上の様子を確認したが、目的の物は見つからない。進んでは確認する、其の繰り返しが暫く続いた。
「あの・・・、見つかるんでしょうか」
在ると言われたのだから確実に在るのだろうが、一向に限の付かない作業に対して青年がそう思うのも当然である。
「今、確認中だ」
兎は相変わらず机を押し上げる様な動作を繰り返している。
「此れも違う」
そう言って黒兎は手を下ろし、次の机の下に進んだ。
「あいつの置き方には一応、法則性が有るんだ」
作業を続けた儘、彼は青年に説明し始めた。
「巨大な物で無ければ一つの机に一つ、物が乗っている。だから、こうやって下から持ち上げれば・・・」
べちゃっ・・・・
嗚呼、可哀想に・・・。
「乗っている物が大体分かる」と言い終わる前に、押し上げた机の隙間から緑色の物体が滑り落ち、不運にも兎の顔を直撃したのだった。話している途中の半開きの口に壱部が入ったらしく、状況は最悪だ。
異臭を放つ二等辺三角形をした其の物体は付着している物の形から推察するに食べ残しのサラミピザであろう。
青年は不憫に思う反面、自分に鉢が回って来なかった事に安堵してもいた。
黒兎はと言えば、愚図ついたチーズに視覚と嗅覚、味覚を遣られたのか其の場に蹲り、時折嘔吐く様な呻きを上げ、肩はわなわなと震えている。一通り吐き気が収まった所で疲労感漂う息切れとストレスの籠った歯軋りを立てていたが、其れに混じって、ぶちりと何かが切れる音が聞こえた様な気がした。
無言の儘、陽炎かどす黒いオーラが沸き立つ様にゆらりと立ち上がった兎は机に乗っていた紙ナプキン等々(とうとう)を払い落し、ダイナーの給仕係が盆を運ぶ時の様に片手で持ち上げると、間髪入れずに放り投げた。
綺麗な放物線を描く机が塵の壁を飛び越えて数秒の後、向こう側から、「ぐえっ」と言う呻きが聞こえたが、多分あの魚男に直撃したのだろう。
机の下を潜っての不毛な探索を続けて、ピザ事件にぶち当たるまでに一時間、二人が眼鏡を見つけたのは其れから更に一時間してからの事であった。
「おい、起きろ」
研究品の山から生還して一番に、兎は持っていた大剣の切っ先で腐敗したピザと机の直撃を受けて失神した魚男の頬を突き起こすと、青年用の備品を見せるように指示した。
こちらは眼鏡の時と違い、円柱の金属製ポッドの中に収められている。どうせなら残骸置場も整理しておいてくれれば、あんな苦労をせずに済んだのに。と二人が思っているのを余所に、魚男はポッド横のボタンを押してスライド型の戸を解錠した。
シュッと空気の抜ける音と共に開いた戸の隙間から樟脳の臭いが漂って来る。
「仕事着は之だから」
「えっ・・・・」
魚がそう言って紹介した物を見て、青年の顔が引き攣った。
修道女が付けている様なシンプルなタートルネックまでは許せる。しかし・・・セミロングのスカートは如何にも許容し難かった。
「せめてズボンにして下さい」
「あ、ごめん此れ先代が昔使ってたやつだった。君のはこっち」
そう言って、隣に在ったもう一つのポッドを開けると其処にはフォーマルスーツ風の至ってまともな服が在った。
「ジャバの倉庫に続く区画の戸を開けておくから、二代目の準備が出来たら入ってくれ」
カタカタと音を立て、パソコンに電子錠を外すパスワードを打ち込みながら魚男が兎に言った。
青年が机の影で着替えている間に、部屋の奥に在る分厚い鋼鉄製の扉の一つが幾重にも張られた内側の扉と共に重厚な音を立てて開いて行く。
真眼の矯正用に設えられた楕円形のレンズが嵌め込まれた地味目の眼鏡を掛け、準備を整えると、青年は兎が待っている倉庫の通路に向かって小走りに駆けて行った。
通路の奥に在る回しハンドル式の鉄戸を何度か潜り抜けて辿り着いたのは最奥部に在る倉庫で、紅い照明が何とも言えず此の先に重要そうな物が保管されている様な緊張感を醸し出している。
兎が入口の横に設置された操作パネルに歩み寄り、手を置いた。スキャナに似た棒状の光が掌の形と狂気の質を認証し終えると倉庫の戸が開き、二人は中に入って行った。
倉庫内の電気を手動で点け、暗闇に包まれていた中の様子が照らし出される。
見れば、重要そうな武具や文書の類は無く、何だかホラー映画に出て来る様な黒い肉塊らしき丸い物体が中央に鎮座しているのみであった。
発生しかけの胎児の面の皮を球体に被せた様な顔と並びの悪い歯列。ぶよぶよした固まり掛けのスライムを思わせる歪な体。時折浮かんでは消える三段重ねのアイスの様な不定形の瘤。然も薄らと開けた二つの目は老人の様に黄色く濁り、瞳はゆらゆらと宙を泳いでいる。
彼はこんな趣味の悪い物を見せたかったのだろうか。青年は恐る恐る訊ねた。
「此の塊は何ですか」
「ジャバウォック。あらゆる物に変容する生ける武器だ」
用途といえば投げ付ける位しか思い付かない其の物体が武器だとは到底思えないのだが。
「んヴぉ」
突然詰りかかった排水管を無理に流れる水の様に、ごぽごぽという音の混じった淀んだ声を出し、黒い塊がプルプルと身体を震わせた。
「怒ってるみたいだぞ」
兎は先程の呻き声の意を酌み取った様である。
何故判る。と逆に問いたかったが、その内慣れれば判るのか、それとも人間とは耳の機構が違うのだろうと判断して、青年は訊くのを止めた。
「それに、こいつが塊位にしか見えないとなると今日から実戦は無理だな・・・。おい、もっと目を凝らして見てみろ」
青年は言われた通り目を凝らした。
・・・・・・・・剃刀。一瞬、畝っていた肉塊が収束し、薄い柄無しの剃刀刃になった様な気がした。
チャリン
塊の居た場所に、硬く高い金属音を立てて剃刀刃が床に落ちた。
「まぁ、何と言うか・・・・・・しょぼいな」
其れに関しては同感だが、眉間に皺が残るまで頑張って之なのである。
「こいつは真眼を持つ者の力量に応じて姿を変える。相当視力が足りないな。先代はどでかい火炎放射機だったぞ」
そんなに言うなら先代とやらに仕事を頼めば良いではないか。
そう思い、青年は少しいじけた。
<四話内で使用したアリスの要素>
今回出て来た魚の頭をした研究者は、元ネタのアリスに出てくる女王の従者をモチーフにしたものです。
謎かけの様な歌だったジャバウォックは挿絵を描く人によって姿がまちまちな上、翻訳版だが記述を読むとどうとでも取れそうな姿で書かれている事から、此の2点を踏まえて作中では「見方によって変わる物」として表現しています。
後は、前回に引き続き兎が要素として入っているくらいかな。