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胞子の傘に包まれて・・・  作者: 矢久 勝基
ツキヨダケの妖精 静峰月夜編
6/10

第二節 世話焼きな妖精

 男は落下のショックで気絶していたのだが、程なく起きた。

 と同時に大きくもだえた。自分が先ほどの得体の知れない女に抱えられていることを知ったからだが、その瞬間はまだ飛行中である。そのままバランスを崩した月夜ごと、高層マンションの裏手にある公園の砂場に突っ込んで止まった。

「危ないでしょ!!!」

「うるせぇ死神! 寄るな!!」

 どちらも砂まみれにはなっているが、大した怪我はないようだ。彼をキャッチした後、うまくバランスが取れないで、すぐに超低空の飛行に切り替えていたことが幸いした。

「死神……?」

 腰が抜けたかのように地面に体を這わせたまま、両手両足をにじらせて必死に後ずさりしている男の言葉が月夜の耳に刺さる。

「死神だろ!? お前みたいなのが見えるなんて俺、もう終わってるんだ絶対!!」

 彼を見下ろしている月夜には相変わらず上昇気流が働いていて、ほのかに発光している髪とスカートの裏地が神秘的に……男にとっては不気味に揺らめいている。

先ほどから心が追い詰められたままの男にはその姿、恐怖しかなかった。

……一方の月夜はショックを隠し切れない。

「死神ってひどくない……?」

 どこをどう間違えたらそれを連想させるのだ。きれいといってもらえるのが大好きな月夜。死神などといわれたことなど生まれてこの方一度もなかった。

「よく見てよ。きれい、でしょ? ほらほら、スカートとかふわふわってして……。顔もほら、骸骨じゃないわよね……? どう? どう? 顔とか、チャームだと思うんだけど……」

 半ば慌てて、髪をかき上げたり、スカートのすそをひらひらとさせてみたり……とにかくものすごい気にしている。

「女の死神だろ!! 女の死神はお前みたいな奴だって俺は知ってるぞ!」

「どこの萌え漫画よそれ!!」

 最近は何でも女の子にしてしまうからこういう風に大事なところで勘違いをされてしまうのだ。生粋の妖精には迷惑極まりない。

「死神じゃないからね?」

「だって殺そうとしてるじゃないか!!」

 夜の公園は外灯がまぶしいが、先ほどの自殺未遂で人が一つ向こうのマンションに集まっているせいか二人以外は誰もいない。ほのかに輝く月夜と、いまだ名前も語られていない男の声だけが白い息となって寒々しく浮かんでは消えている。

「……そういえばあんた、なんで警察に追われてるの?」

「え?」

 話の意外な方向転換に泡を食う男。

「なんでそんなことを聞くんだよ。おまえ、もしか闇金業者か!?」

「なにそれ……」

「俺を殺しにきたんなら思い当たるのは闇金の連中しかない!!」

「しらないよ、めんどくさい子だナァ……」

「俺はお前らなんかに殺されなくても死んでやるからほっといてくれ!!」

「ちょっと……いい加減落ち着きなさいよ!」

 ぴしゃりといさめる月夜。もともと彼女に対して恐怖を抱いているこの男は、「ひっ」と息を詰めると、うってかわっておとなしくなった。街の幹線道路からも外れているこの公園。すべてが黙ると車の音すら聞こえずに、凛と冷えた空気が澄んだ静寂を作る。

 その落ち着きをまった月夜が吐いた息が、氷を溶かすような暖かさを帯びて広がった。

「始めっからちゃんと話してよ。相談乗ってあげるから」

……この娘、実は非常に面倒見のいい一面がある。


 男がここまで至った経緯は非常に単純なものであった。

 パチンコ依存症……とだけ書けば、後は今まで出てきたキーワードでコンビニ強盗までたどり着くのはたやすい。彼は金まで借りてパチンコを続け、挙句闇金業者にまで手を出した。今ではまっとうに働いていたとしても返済は困難な額にまで膨れ上がっている。

 闇金業者の追及は執拗であるところから、もし彼が警察に捕まってもその返済がなしになるということは考えにくかった。

 実刑が言い渡されて、業者に金が行き渡らなくなる状態が数年も続けば、刑務所を出たとしても人生は終わったといえる。強盗に執行猶予がつく可能性は非常に低いこともあり、ビルの屋上に追い詰められた際、反射的に死を視野に入れたのは無理もなかった。

「要するに」

 月夜は言った。

「悪いのはあんたね?」

「う、うるせーー!!」

 人間というものが、愚かだと思えばやめられる種類の動物なら「依存症」という言葉は存在しない。その愚かな人間の中でも極端な部類のこの男は、ジャケットに忍ばせていた包丁の切っ先を月夜に向けて立ち上がった。

「お前も金もってんなら出せよ! 俺はなんとしても生き延びてやる!!」

「言ってること、バラバラなのよね……」

 その安っぽいステンレスの刃におびえる様子もない月夜がため息をつく。

「あんたは生きたいの? 死にたいの? ……死にたいなら手伝ってあげるけど」

「ひっ!」

 風が、彼女の周りをいっそう激しく取り囲み砂を巻き上げると、男は再び小さな悲鳴を上げる。彼女が人間離れした働きをして自分をここまで連れてきたことをいまさらながらに思い出して、一転、その包丁を自分自身に向けてわめきだした。

「お……俺が死んでもいいのか!! 死ぬぞ! ほら!!」

「もーさぁ……」

月夜はだんだん腹が立ってきた。薄っぺらくも一貫しない主張に……ではない。

「いいよねあんたは! そうやって自分の生き死にを自分で決められて!」

「は?」

 意外な言葉でキレられた男はしばし絶句した。月夜の脳裏には空千代のいつも不安げな顔が思い浮かんでいる。

「私らなんかね! あんたみたいに悪いこともしたわけでもないのに消されちゃうかもしれないんだよ!? それに比べりゃなによ! 勝手に悪いことして勝手に生きるだの死ぬだのってずるくない!?」

……この小説の冒頭で述べたように、妖精たちは、自分の意思とは無関係に争いに巻き込まれ、消され往くかもしれない運命にある。自分たちの境遇を思えば、この男の贅沢な命の軽さが許せない。

「消されるって……?」

「あんたが知らなくてもいいことよ! とにかく死ぬんなら自分で死なないで私に殺されなさい!!」

「どういう意味なんだ!!」

「あんたが知らなくてもいいことよ!!」

「ええええーーーーーーー!!」

 その気持ちのギャップは、戦争に生きるものと平和に生きるものくらい違うのかもしれない。


「わかった! 俺が悪かった! 頼むから殺さないでくれよ!」

 包丁をその場に放った男の視線の先で、このツキヨダケの妖精は150cm近い長さの槍のようなものを構えている。先ほど空を飛んでいた矢印であり、得体の知れないそれは夜の闇に溶けるようにして異様な黒の存在感をたたえていた。

 自分を映している彼女の緑色の瞳は怒気を帯び、このまま挑発じみたことを続ければ本気で襲い掛かってきかねない。自身の得物は貧弱な包丁のみ。剣道や武道の経験もなく、互いが動けば勝敗は火を見るより明らかであることは本人が一番よく知っていた。

「たのむから! それを下ろしてくれよ!」

 この男に本気で死ぬ覚悟などない。先ほどは助かることを前提にビルの縁で足を遊ばせていた。もちろん自分では本気のつもりだったが、実際、他人に死をつきつけられると、彼の心底にある「生」への本能が慌てて働き出した。

「助けてくれよ!! やりたいことがあるんだ!!」

「やりたいこと……?」

「金を……店に返したい!!」

 やり直せる可能性があれば、まずはそこだ。第三者から見れば浅はかな考えでも、混乱した彼の思考の中ではそれが正当化されている。

「だから、見逃がしてくれ!!」

 とにかく脊髄反射でわめき散らしている男に、月夜は平然と言い返した。

「無理無理。見逃さないよ」

「そういわずに頼むよぉぉ! 死神……いや、女神様!! お願いしますっっ!!」

「……女神様……」

 土下座までして泣きそうな声で訴える男を見下ろす月夜。砂を大きく巻き上げていた"風"は、その目の感情と共に徐々に穏やかさを取り戻していった。

「ま、いいよ。お金を店に返すのは付き合ってあげる」

 その声はまるで幼い弟の頭をなでる姉のようである。


 そこへ男のスマホが鳴った。ポケットから取り出したスマホの光に照らされた男の顔が苦悶に歪む。

 しばらく画面に目を奪われたまま立ち尽くしている彼に、月夜は不思議がった。

「どうしたの?」

 という声と彼が通話ボタンを押したのがほぼ同時。

「もしもし、ボクだよん」

 電話口から陽気な声がする。

「ねぇ、今何時?」

「は……はぃ……」

「今何時? 今何時?」

「は、ぃ……19:46です」

「46分だろがぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

「はい!!!!!!!」

 陽気な声が一瞬だけ豹変する。が、すぐにコミカルに戻った。

「今どこ?」

「……」

「今どこ? 今どこ?」

「た……高松山部公園です」

「えーーー、おかしいなーー、集合場所と逆だよねーー?」

「スミマセン……。ちょっと事情が……」

「お金はもってるのーー?」

「はい……」

「じゃあそこにいてねっ! 絶対動くなよ……?」

 そのまま、画面が通常の待ち受けに戻る。その時男を通り過ぎた風が、一瞬で彼の体温をすべて奪ってしまったかのようであった。もちろん月夜は事情を知らない。

「おわったの? さ、お店に行くよ」

「ぜったいだめだぁぁぁぁ!!!!!」

 身を翻して先ほどの包丁をもう一度拾う男。

「この金は俺んだ!! 誰にも渡さねえ!!」

 思い切り腰の引けた構えで包丁を突き出し月夜を威嚇しているが、その喉元に月夜の矢印が突きつけられる。

「ひっ!」

「大サービスで付き合ってあげるって言ってんだからとっとと準備しなさい」

「はぃ……」

 この男にとって、人生最悪な日という日があるとしたら、今日だろう。


 男が強盗を働いたコンビニはこの公園から行くと先ほどのマンションを挟んで向こう、駅へ通じる商店街の玄関口にある。

 その男と、奇妙なナリの女がその店の入り口に降り立った時、中には見覚えのある顔がいた。事情聴取らしい。パトカーも止まっている。

「やべ!!」

 男は走り出そうとしたが、その襟をつかんだ月夜が男を半ば引きずるようにして店のガラス扉をくぐり抜けた。

 店内はクリスマス一色だ。赤と、緑と、星に彩られ、店内放送がサンタクロースを連れてきそうな雰囲気に浮かれている。、

「!!」

 そんな、暖炉のようなやわらかい雰囲気とは裏腹の鋭利な視線が、二人が店に入るなり一点、男に向けられる。そのいずれの目にも、観念したかのようにうなだれている男の様子が映し出された。

「君が捕まえてくれたのか?」

 刑事、高成田の声はなにを言うかを迷っていたかのようだったが、とりあえずそう切り出した。

「この子、お金を返したいんだって。あ、近寄らないで」

 後ろに控えていた警官が動き出そうとするのを制す月夜。男はバツが悪そうに下を向いたまま、店頭にある買い物カゴの中へと内ポケットのものを吐き出した。

「一応謝っときなさいよ」

「スミマセンでした……」

「はい、じゃあそういうことで、さよなら」

「まてぃ!!」

 あまりに段取りよく店を去ろうとする二人に、一瞬見送りそうになった刑事の声が店内に響く。

「それで許されるわけじゃないんだよ、君」

 至極当然なことを言い放つと「事情は取調室でね」と添え、つかつかと歩み寄ろうとする。

 その首元に月夜の矢印が据えられた。

「連れて行かれるの困るのよ。私この子に用があるからね」

 その意外な凶器に高成田も少々面食らったが、明るいところで見ればそれは貧弱そうな木製の棒である。一応立ち止まり、落ち着いた様子で彼は言った。

「心配しなくても君も一緒のところに行くんだよ」

 男とは面識がありそうだから、この場合事情聴取の対象となる。共犯の可能性もありえる。

「さっきの飛び降りのトリックを聞きたいしね。君を捕まえたいわけじゃない。さぁ、この 棒を下ろしてね」

 彼の温和な笑顔には余裕が感じられる。月夜には相変わらず上昇気流が巻いているが、このベテランの刑事に言わせればこれもトリックのうちであった。

「私はね、あんたには用はないの」

「そういわずに……」

 高成田は陳列棚においてあるのど飴の袋に手をのばすと、おもむろに封を開けて月夜に差し出した。

「飴でも食べるかい?」

「くれるの?」

「いいよ」

「ありがとうー!」

……その後ろで、後輩警官が謝りつつ飴の代金を払っていたりするが、月夜は矢印を下ろすと笑顔を浮かべて飴に手を伸ばした。

 その手をつかむ高成田。

「馬鹿! なんでそんな単純な手に引っかかってんだよ!!」

 後ろの男にツッコまれて、月夜ははじめて自分が捕まったことに気がついた。

「え、なにこれ、セクハラ?」

「君にはいろいろ聞きたいことがあるからね。……おい」

 後ろに目配せをすると後ろの二人の警官が動いた。

「くっ!」

 店の外へ走り出す男。二人がその後を追う。

「逃げちゃったじゃない!!!」

 月夜の恨み節ががらんと静かになったコンビニに舞った。

「すぐ捕まるよ。さぁ、一応君は公務執行妨害ってことで逮捕しておくね」

「逮捕……?」

 月夜にとって、その警察権の発動は腹に据えかねたらしい。

「ふ……ざ、ける、なーーーー!!」

 彼女を取り巻く風がまるで破裂したかのように大きく渦を巻き始める。その風は店の商品やおでんを巻き上げ、買い物カゴの金を巻き上げて、その場に残る人間たちを阿鼻叫喚の世界へ巻き込んだ。

 一際まばゆい光に輝く緑色の妖精。高成田の腕も振りほどいて全身をヒステリックに逆立てながら、まるで竜巻のように猛っていた。

「人間のルールは人間だけにしてよ!!」

「人間だって!?」

 レジのテーブルに必死にしがみついて身をかがめた高成田がやっとのことで口を開く。

「そうよ!! あんたたちのルールのせいで私たちがどんな目を被ってると思ってんの!?」

……キノコの妖精たちの"競争"。敗者は消え去らないといけないなどという理不尽な"競争"を強要されているのは、自分たちの住処を脅かしている人間の勝手なルールが元凶にある。

 実はこの国の毒キノコは今、人間たちの都市開発と保全計画により絶滅の危機に晒されていた。ある者は建築物により住む場所を追われ、ある者は「観光地の安全化」を理由に「駆除」と言う形で追われ、彼女たちの居住地域は圧迫されいてる。

彼女たちが少しでも生き残れるように、キノコ議会……通称「キノコの山」で長い話し合いが行われた結果、「競争により、優れた毒をもつ一族を優先して残し、あとは間引く」という結論に至った。

 彼女たちはだから、現在、仲の良し悪しかかわらず、ライバルとなって争いを行っている。月夜は、それが心底馬鹿馬鹿しいと思っているが、その"馬鹿"を引き起こしているのは他でもない、人間の身勝手なルールであると信じている。

 ただ、月夜の面白いところは、「罪を憎んで人を憎まず」というか……それだけ人間の傲慢に嫌悪感を抱いていながら、「人間自体が嫌いというわけではない」というところだろう。

 ともあれ、その怒りはひとしきり店内を荒らしきるまで続いた。


 ようやく"風"がほのぼのして来た頃、月夜は高成田を見下ろして言った。

「だから、私のことは放っておいてね」

 店内はまるで大地震のあとのように商品が乱雑に瓦礫を作っている。すべてが声も上げられずに黙ってしまっている店内で、月夜はレジの前まで来ると、冷蔵庫の脇の柱にしがみついていた店長らしい中年の男に言った。

「お金、返したわよね?」

「はい!」

「あの人、強盗犯じゃないよね?」

「もちろん!」

「じゃあ、もう、犯人じゃないね?」

 その言葉は高成田に向けられていた。

「……」

 高成田はふてくされたようにそっぽを向いている。

 強盗は未遂でも犯罪だから「犯人じゃない」と言えばそんなことはあるまい。だが、被害者側が折れてしまっては起訴にも至るまい。……いや、脅迫された証言とすれば書類を引き渡すこともできるだろうが、高成田の関心はすでにそこにはなくなっていた。

「君はなんなんだ……」

 のど飴やガムに半分埋もれた身体を上半身だけ起こすと、髪とスカートを緑色に揺らめかせた女を見上げた。人間でない……などと思えるほど彼の脳はもう若くない。だが、人間だとして、どういう説明をされればこの存在と惨状を納得するだろう。頭をめぐらせながら返答を待てば、"ノーサイド"といわんばかりの勢いで微笑むと、くるりと一回転をしてまったく脈絡のないことを言った。

「そこから見えるアングル、パンツも見えてセクシーでしょ?」

 いたずらっぽい笑みを浮かべる彼女の下腹部を覆っているのは、まったく色気のかけらもない黒くて大きなかぼちゃパンツである。


 その時、けたたましく店の扉が開かれて店内はもう一度騒々しくなった。

「うわ! なんだこれは!!」

 第一声はそれであったが、用件は違う。

「高成田さん! あの男、さらわれました!!」

 制服警官の二人だ。息せき切って戻ってくるなり、また面倒なことを言い始めた。

「人が多くて巻かれそうになって……右に折れた道の先でバンに押し込められているのを見つけまして……」

「ナンバーは?」

「跳ね上げられていました。で、なんですかこれは……」

「あぁ、何でもねえよ……」

 ひっくり返った店内を呆然と見回す彼らに、高成田はレジ台に手を掛けて立ち上がりながら疲れた声を上げた。

「今日はなんて日だ……」

 ぼやく高成田の視界に映る妖怪女が、とことこと出口に向かって歩き出している。

「姉ちゃん、片付けていかないのかい?」

「追わなきゃ」

「何か事情を知ってるのか?」

「知らない」

 月夜はあまりそういうところ、物を考えないタチだから、さらわれた話が闇金業者と結びつかない。いや、どうでもいいともいえた。

「……けど、あの子はターゲットだし」

「ターゲット?」

「なんでもない」

「行った場所がわかるのかい?」

 なぜかそんな気がした。ベテラン刑事の根拠もない勘だったが、この女は案の定、うなずいている。周波数はそのままで、いまだに強い波長が月夜のアンテナに当たっていた。

「僕らもついていっていいかい?」

「ついて来れるならどうぞ」

 そして店の外に出た少女を慌てて追いかけた高成田は、彼女の腰が、黒い矢印に乗ってほのかに宙に浮いているのを見た。

「お前ら、乗れ!」

 4人が乗り込むパトカーのサイレンが鳴ったのと、月夜の身体がはじかれるように中空に舞ったのは同時であった。

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