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墜落地点へ


 翌朝、頭上で木々の葉がざわざわと揺れる音で透は目を覚ました。透は目を開けてから驚いた。なんと自分が眠っていた木の頭上で巨大な恐竜が木の葉を食べているのだ。


 隣で眠っていたはずの聡の方を見てみると、聡は既に目覚めていたようで、頭上でのんびりと木々の葉を食べている首の長い恐竜の姿をぼんやりと退屈そうに眺めていた。透の視線に気がついたのか、聡は振り返ると、

「起きたか」

 と、声をかけてきた。


「ああ」

 と、透は返事をしながら、再び視線を頭上の恐竜の方へ戻した。すると、


「こいつはアパトサウルスだよ。大きさから見ると、まだ子供だな」

 と、聡も恐竜の方へ目を戻しながら言った。


 前方に目を向けてみると、昨夜透たちが過ごした川辺で数匹のアパトサウルスが水を飲んでいるのが見えた。草食恐竜なのでそれほど危険はないとわかっていても、身体がかなり大きいので、透はやはり恐怖を感じないわけにはいかなかった。子供といっても、体調は優に十メールは超えているだろう。突然、暴れ出したりしたら、自分等ひとたまりもないだろう、と、透は思った。


 その後、透と聡のふたりは一夜を過ごした木の上から降りると、使い捨てのコンロで湯を沸かして簡単に朝食を作って食べた。メニューはパンとインスタントのコーンスープだ。


 朝食を食べ終えると、ふたりはひとまず、昨日の謎の爆発があった地点を目指してみることにした。ここに留まっていてもそう簡単に救助が来るとは思えなかったし、大破したタイムマシンに戻らなくても、食料はまだ数日分は残っていた。


 ふたりはシダやソテツといった植物が生い茂る森のなかを、昨日の爆発があった地点を目指してゆっくりと歩いていった。いつどこから恐竜やその他の生物が襲いかかってくるかわからないので、常に熱線銃を構えていなければならなかった。幸い、昨日のうちにエネルギーのチャージは完了していた。


「それにしても、あれはなんだったんだろうな」

 透は聡の背中を追うようにして歩きながら半ば独り言を言うように言った。透のなかで昨夜の出来事はかなり気になっていた。夜空を飛行していた、未確認飛行物体。そしてその墜落。


「……わからないが」

 と、聡は言った。

「ひょっとして、あれは恐竜の一部が進化して作った文明のものだったりしてな」

 聡は冗談めかした口調で言った。


「恐竜の一部が進化したもの?」

 と、透は聡が言っていることの意味がよく飲み込めなくて反芻した。


「考えてみると不思議だとは思わないか?」

 と、聡は黙々と前に向かって足を動かしながら続けた。


「恐竜は人間よりも遥か長い時間、地球上で栄えていたんだ。だから、そのなかに、人間と同じように知能が発達した種がいたとしても、俺は可笑しくないと思うんだ」


「……それは俺もそう思わないでもないが」

 と、透は言った。道は緩やかなこう配になっていて、透は多少息が乱れ始めていた。


「だが、今のところ、そのように進化した恐竜の化石や、文明の痕跡のようなものは発見されていないじゃないか?」

 透は疑問に思ったことを口に出して言った。透たちが滞在していたジュラ紀の地球には基地局が建設されており、そこには多くの学者が留まって恐竜の生体等を詳しく調べていた。だが、今のところ、そのような発見がなされたという報告は聞いたことがなかった。


「あるいはまだ見つかっていないだけなのかもしれないし……もしかすると、既に見つかってはいるが、そんな事実があると、これまでの常識が覆ってしまって困ってしまうことになるから、一般的には伏せられている可能性もある」

 と、聡は問題提起をするように言った。聡は透とは違ってまるで息が乱れている様子はなかった。


「俺、個人的には、ラプトルあたりは、その可能性が高いんじゃないかと思う」

 聡は更に言葉を続けた。透は黙って聡の言葉に耳を傾けながら、昨日、大破したタイムマシンのなかで格闘した、二匹の小型恐竜の姿を思い出していた。


「透も知っていると思うが、やつらはかなり頭が良い。集団で狩りを行ったりするし、コミュニケーション能力も高い。その一部が進化して、やがて人間と同じように文明を持つに至ったとしても、俺は不思議じゃないと思うんだ」


「……レプテリアン。爬虫類人か」

 透は呟くように言った。


「そう。爬虫類人さ」

 聡は自分でもかなり飛躍した考えだと思っているのか、どこか戯けた口調で言った。


「そしてこのあたりは人間の世界で言うところの保護区のような場所で、ここから離れた場所には爬虫類人の作った都市があったりするのかもしれないな」

 と、聡は言ってから、少し笑った。つられるようにして、透も微笑した。



 ふたりは歩き続け、ちょっとした小高い丘のような場所に出た。木々の切れ目があり、そこからは昨日未確認飛行物体が墜落したと思われる地点を確認することができた。


 飛行体が爆発炎上したことによってできたと思われる炎の影響で、森の一部は黒こげになっており、周囲には飛行体の残骸と思われる、銀色の物質が散在していた。


 今、透たちがいる場所から墜落地点まで歩いていくには更に一時間以上はかかると思われ、ふたりは現在いる見晴らしの良い場所で小休止を取ることにした。


 ふたりは倒れた木の幹に腰を下ろすと、リュックのなかからペットボトル入りの水を取り出して飲んだ。穏やかな風が吹いていて気持ちが良かった。


「……仮に、聡の仮説が正しかったとして……」

 透は水を飲むと、少し離れた場所に腰掛けている聡の顔を見て言った。名前を呼ばれた聡も透の顔を見た。


「昨日の飛行物体に乗っていた生物が恐竜から進化した生物が乗っていたのだとして、彼等は何らかの理由で争っているんだろうか?」


 聡は透の問いかけに対して考えように僅かな間黙っていたが、

「……あるいは単純に、警察のような組織が犯罪者のようなものを取り締まっただけだとも考えられなくはないだろうが、恐らく、その可能性は少ないだろうな」

 と、やがて静かな声で答えた。


「というのは」

 と、聡は足下のあたりに視線を落として続けた。


「常識的に考えて、犯罪者があのような空を飛行する機械を所有しているとは思えないからだ。……だとすれば、もっと大きな組織と組織の争いなんじゃないかと思えるんだが……」


「たとえば国家間の争い……」

 透は聡の顔を見つめながら、聡の言葉を引き継ぐように言った。聡は透の言葉にそうだというように短く顎を縦に動かした。


「まあ、そもそも爬虫類人という考えがバカバかしいかもしれないが、もし仮に、爬虫類人のような種族が存在していたとすれば、それはいずれ国家のようなものを作ったと考えられるし、当然国家はひとつだけではないはすだから、そこには何らかの争いがあったと考えられる」


 透は聡の意見に耳を傾けながら、アメリカとロシアのようなふたつの超大国が争いを繰り広げているところを思い浮かべた。


「いずれにしても」

 と、少し間をあけから、聡は苦笑するような笑みを口元の端に浮かべて言った。

「これはただの俺の憶測……というか、妄想の類に過ぎないがな」


 確かに、と、というように透も口元を綻ばせて首肯いた。


「あるいは昨日俺たちが見たUFOは文字通り、地球外文明のもので、その地球外生命体どうしが何らかの理由で争いをしているのかも、だな」

 と、聡は軽く戯けた調子で続けた。そしてそう言うと、さてもう議論の時間は終わったという感じで、それまで腰掛けていた木の幹から立ち上がった。続いて透も立ち上がった。

 


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