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未確認飛行物体

 そのあと、ふたりは手分けして周囲の森のなかから焚火に使えそうな木の枝や枯れ葉を集めて回った。聡はさすがに以前軍隊に所属していたというだけあって手際が良く、最後に聡がライターで火を点けると、集めてきた薪は勢い良く燃え上がった。


 ふたりは薪が安定して燃え続けるのを確認すると、今度は夕食の準備に取りかかった。といっても、使い捨てのコンロで湯を沸かし、その沸いた湯をカップラーメンに注ぐだけの簡単なものではあったが。


 腹が減っていたということもあって、口にしたカップラーメンは普段食べているカップラーメンよりも何倍も美味しく感じられた。


「……しかし、さっきからずっと考えているんだが、俺たちのようにタイムトラベル先で遭難して助かったような人間なんているんだろうか……そもそも、タイムトラベル中に遭難したという話なんてあまり聞いたことがないような気がするんだが……」

 カップラーメンを食べてひと心地つくと、透は焚火の火を見つめながら、疑問に思ったことを口に出した。


「……いや、案外、そうでもないさ」

 と、聡は透とっては意外ともいえる言葉を口にした。透は少し驚いて隣にいる聡の顔を見やった。


「それはほんとうなのか?」

 透は目を開くようにして言った。

 

 聡は黙って首肯した。

「ああ。特に初期の頃は……タイムトラベルの技術が完成したばかりの頃は、しばしばそういうケースがあったらしい。過去の世界に行ったはいいものの、もとの世界に戻れなくなったりするようなことが」


「彼等はその後、どうなったんだ?」

 透は食いつくような勢いで訊ねてみた。


 聡は透の問いに、焚火の火に眼差しを落としまま、小さく頭を振った。

「恐らく、そのタイムトラベルした先でみんな死亡したんだろう」

 聡は少し間をあけてから、いくらか小さな声で述べた。


 透は帰ってきた聡の言葉に絶句して黙っていた。パチパチと音を立てて薪が爆ぜた。


「……じゃあ、タイムトラベル先で遭難した連中はみんなひとり残らず死んでしまったんだろうか」

 透は打ちのめされて言った。そして俺たちもここで死ぬことになるのだろうか。透は絶望的な気分に駆られた。


「いや、決してその例は多くはないようだが、助かった例もあることは、あるらしい」

 聡は薪に目を落としまま、どちらかというと淡々とした口調で告げた。透がほんとうか?というように聡の顔を見つめると、聡はちらりと透の顔を一瞥すると、また薪の方に目線を落としながら続けた。


「俺が知っている一番最近のケースだと、軍が行った実験がそうだ。当初、今の俺たちのいる、遠い過去の世界へ行くのは技術的にかなり難しかった。そして先発隊としてはじめて恐竜が生きている時代にタイムトラベルした連中がやはり俺たちと同じようにタイムトラベル先から戻ってこられなくなった。そして彼等は重力波ビーコンを使った。未来側の人間も届いた重力波ビーコンの位置をなんとか懸命に割り出して救援に向かった。遂に彼等は発見され、助かった。といっても、知っての通り、重力波ビーコンの精度は良いとは言えないから、彼等が救出されたのは、遭難してから一年程が経ったからだったようだが」


「……なるほど」

 と、透は頷いてから、少し気になったことがあって聡の顔を見た。


「しかし、彼等を発見したのが、彼等が遭難してから一年後だとわかったのであれば、そこから更に一年前に戻れば良いんじゃないのか?そうれすれば、彼等が遭難した瞬間に、彼等を救うこともできたはずだと思うんだが?」


 透の疑問に対して、聡はそんなことナンセンスだというように首を振った。


「それは不可能だ」

 聡は言った。


「俺たちの時代のタイムトラベルの技術もまだ完璧とは言えない。俺たちが仕事場にしているジュラ紀の時間に関してはある程度詳細なデータが揃っているから、何度でも正確にタイムトラベルすることが可能だが、他の時代に関してはまだ未知数なんだ。任意の場所にタイムトラベルできたり、できなかったりする……それにこれは透も知っていることだとは思うが、我々が行っているタイムトラベルというのは、実は我々が知っている世界に限りなく良く似た、パラレルワールドへ移動する技術なんだ。正確に、我々がいた世界から過去へ遡れるわけではない。そこには常に誤差といえるほどの違いがあり、毎回俺たちはタイムトラベルするたびに違う世界へとたどり着いているというわけなんだ。そしてはじめて行く過去というのは常にその誤差が多くなる可能性があり、たどり着いたその世界が、遭難した人間が一年過ごしたあとの世界だったからといって、またそこから彼等が遭難した直後の世界へ遡るというわけにはいかなんだ。そうするにはかなり正確な計算が必要になってくるし、時間がかかりすぎる」


「……なるほどな」

 透は聡の理論整然とした説明に黙り込むしかなかった。


「だが、心配するな」

 と、透がやはり未来からの救助は来ないのかもしれないと項垂れていると、聡が励ますように力強い声で言った。

「いつになるかはわからんが、そう遠くない先に、必ず救助はくるさ」


「……そうだな」

 透はそう言った聡の顔を見ると、口元で弱く微笑んで頷いた。静まり帰った闇のなかに爆ぜる音だけ聞こえていた。




「おい、なんだあれは?」

 聡が大きな声を出して宙を指差したのは、透が眠る準備をはじめようとしたときだった。透は誘われようにして聡の指差している方向を見つめてみた。


 すると、驚いたことに、そこには二機の白く光る円盤形の物体が夜空を飛行していた。見ていると、どうやらその二機の円盤形の物体は、一方がもう片方を攻撃しているようだった。後方の白い円盤形の物体が前方を飛ぶ円盤形の物体に対して青白いレーザー光線のようなもの発し、攻撃を受けた円盤形の物体は際どいところでそのレーザー光線のようなものを回避していた。


「一体、あれはなんなんだ!?」

 透は理解できなかった。今自分たちがいるのは遥か遠い過去の世界のはずである。それなのに何故空を飛行する物体があるのだろうか。あるいはあれは未来から自分たちを救助に来た人間たちが乗っている乗り物なのだろうか。だとしたら、どうして真っ直ぐにこちらへ来ず、それどころか、空中戦のようなことを繰り広げているのだろうか。透が疑問に思ったことを口に出すと、


「それは俺が訊きたいところさ」

 と、聡はまだ空を滑空している、白く光る、二機の円盤形の物体に目を向けたまま答えた。


 透は同僚の顔に向けていた視線を再び空へ戻した。


 攻撃を受けている片方の円盤形の物体はかなり追いつめられていた。二機の円盤形の物体が直線に並んだと思った直後、前方を飛んでいた飛行物体は後方を飛ぶ飛行物体が発射したレーザー光線をまともに受けた。攻撃を受けた機体からオレンジ色がかった炎のようなものあがるのが見え、攻撃を飛行体は透たちがいる森からさほどはなれていない場所へと墜落していった。そしてその直後、ドオンという爆発音が闇のなかに轟き、いくらか離れた森の方で火球のようなものがあがるのが見えた。


 透は今目の前で起こったことが信じられないような気持ちで、隣にいる聡の顔を見やった。聡も透の方を振り返った。


「一体、何がどうなっているんだ」

 そう言った透の問いには聡は答えずに、飛行体が爆発したことでできたと思われる森の炎へ再び眼差しを向けた。


「……とにかく、何か大変なことが起こっているようではあるな」

 と、聡は軽く目を細めるようにして言った。


「何が起こっているのか、見に行くか?」

 透は聡の顔を見つめながら言った。透は言いながら、一体何が起こったのか、飛行体が墜落した場所まで駆け出して行きたい気持ちで一杯だった。空を飛んでいた飛行体はなんだったのか?そして何故撃墜されることになったのか?彼等は何者なのか?


 聡は透の顔を見ると、諫めるように首を振った。

「……いや、今は止めておいた方がいいだろう」

 と、聡は言った。


「あの爆発ではどうせ乗組員は即死だろうし、この闇のなか森のなかを移動するのは危険だ。いつどこから危険な生物が襲ってくるともわからないからな」


「……そうだな」

 透は頷いた。ほんとうは何が起こったのか、確かめに行きたくてしょうがなかったのだが、確かに、聡の言う通り、今この闇のなか移動するのは危険だと思われた。昼間のように移動しているところを恐竜に襲われたのではたまったものではない。透は遠い場所でちらちらと見える炎をじっと見据えた。


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