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脱出

「来るぞ!」

 という聡の叫び声と共に、暗がりにいた複数の茶褐色の二本足で歩行するトカゲ型の生物が、透たちがいる方向に殺到してきた。


 透は襲いかかってくるトカゲ型の生物に向かって無我夢中で熱線銃を乱射した。そして気がついたときには、倉庫の床に全部で五匹のラプトルと呼ばれる、小型の肉食恐竜の死骸、死骸というよりも熱線銃で半ば粉々になった恐竜の身体の部位が転がっていた。


「……いくから仕方なかったとはいえ、大切な商品をこんなふうに木っ端みじんにしてしまって良かったのかな」

 透は歩いていってラプトルの生き残りがいないかを確認すると、ラプトルの残骸に目を落としながら呟くように言った。


「まさか、会社側の人間も、じゃあ、お前らが変わりに食われれば良かったんだとはさすがに言わんだろう。本音はどうあれ」

 聡は透の側に歩みよると、小さな声で言った。


 と、そのとき、大型肉食恐竜の、ライオンの咆哮を何十倍にも増幅したような咆哮が轟いた。ラプトルの血の匂いが大型恐竜を刺激したのだろうかと透は慄然とした。どうやらさっき事故の衝撃で、薬で眠らせていたはずの恐竜の一部、あるいはほとんど全てが既に覚醒してしまっているようだった。


「ここにずっといるとヤバいかもな」

 透は倉庫の入り口を軽く目を細めるようにして見つめながら言った。今にもそこに二連結目の貨物室積んでいた大型の肉食恐竜、ティラノサウルスあたりが姿を現すんじゃなかいという恐怖に透は駆られた。


「ある程度の食料品だけを詰め込んで、一時的に外に退避しよう」

 聡は冷静な口調で言った。

「残りの食料はまた様子をみてあとで取りに戻ればいい」


「そうだな」

 透は聡の意見に同意した。そしてこれも倉庫にあったリュックに、ふたりは目についた食料品を手当たり次第に積み込みこんでいった。何がどれくらい必要で、またどれが必要のないものなのか、いちいち吟味している暇はなさそうだった。とりあえず、現在いるタイムマシンから離れて二三日過ごせるだけの食料品と水が確保できれば十分だとふたりは考えた。


 と、そうしてふたりがリュックに荷物を詰め込んでいると、また身体全体が震えるような恐竜の咆哮が聞こえてきた。そしてそれから更に、重たいものがゆっくり倉庫に向かって動いてくる振動も伝わってきた。


 と、その直後、雷がすぐ近くに落ちたようなもの凄い音量の咆哮が轟いた。驚愕して恐竜の咆哮が聞こえてきた方へ目を向けてみると、なんと、そこは、巨大な蜥蜴の頭があった。ティラノサウルスが頭だけを倉庫のなかに突っ込んでいるのだ。爬虫類特有の細い瞳孔がぎろりと倉庫の内部にいる透たちを捕らえていた。


「……まずいな。やつはこのなかに入ってこれるのか?」

「どうだろうな」

 聡は緊張した面持ちで答えた。


 と、またティラノサウルスがその大きな口を開けて、威嚇するように吠えた。それから、ティラノサウルスは倉庫の入り口を破壊しようとしているのか、何度もその巨大な身体を倉庫の入り口に向かってぶつけ始めた。そのたびに、倉庫の内部が嫌な音を立てて軋む。倉庫の一部が破壊されてしまうのは時間の問題のように思えた。


「食料はもうこれで十分だろう。ここは一旦、タイムマシンから外にでよう」

 透は聡の顔を見ると、そう提案した。

「……ああ、その方が良さそうだ」

 聡は様子を伺うように倉庫の入り口付近に目を向けながら言った。


 ふたりは食料を詰め込んでいる途中だったリュックを背負った。倉庫の入り口側には今ティラノサウルスがいるので、そこから出て行くのは不可能だということになる。やむをおえず、ふたりは正面の壁を破壊して、そこからで出いくことに決めた。


 熱線銃を使って強引に出口を作ることにする。透たちが持っている熱線銃にはグリップの付近に使用用途に応じてその機能を調節できるレバーがついている。ふたりは熱線銃の出力をバーナーモードに切り替えると、倉庫の壁をふたりが通れるくらいの大きさに切り取った。最後、聡が切り取った壁を足で蹴り飛ばすと、壁は丸い形に切り取られて外側に崩れ落ちた。


 ふたりは倉庫から外に出るのと同時に、素早く熱線銃を構えた。倉庫から出た瞬間、違う恐竜に襲われるのではないかと警戒したのだ。しかし、幸いなことに、今のところ、そこに恐竜の姿はないようだった。


 透と聡がほっとしていると、また背後の倉庫でさきほどのティラノサウルスが苛立っているように吠えた。ティラノサウルスの咆哮は何度聞いても慣れるということはなさそうだと透は思った。しかも、二連結目の貨物室にはティラノサウルスと同等か、あるいはそれ以上の大型の肉食恐竜がまだ複数乗っていたはずだった。外の空間が必ずしも安全だとは限らないだろうが、一刻も早くこの貨物室から外へ出た方が良さそうだと透は確信した。


 ふたりが今居る位置からちょうど正面の、少し離れたところには、人間ひとりが通り抜けることができるくらいの大きさの、タイムマシンの外へと通じる外壁の裂け目があった。


「あそこから外へ出られそうだ」

 と、透は聡の方を振り向くと、声をかけた。透の言葉に、聡は黙って首を縦に動かした。


 ふたりは外壁の裂け目に向かって走り出した。そして、ふたりがその裂け目にたどり着こうとした、まさにそのとき、体長十二メートルはありそうな、大型の肉食恐竜が突如として出現して出口を塞ぐように立ちはだかった。


 その恐竜はティラノサウルスに似ているが、微妙に顔つきは異なり、頭部には鶏冠のようなものがあった。こいつは何て言う名前だったか……と、透がそんなこと考えていると、目の前にいる恐竜がティラノサウルスにも勝るとも劣らない巨大な咆哮をあげた。大きく開いた口から、巨大な牙が覗き見える。ふたりは突然出現した恐竜に驚くというよりも圧倒されて数歩後ずさった。


 巨大な肉食恐竜はまず手始めに聡を餌食することに決めたようだった。おもむろに聡に向かって近づいていく。聡は熱線銃を発射したが、あまりに咄嗟だったためか、狙いを外したようで、それは恐竜の脇をすり抜けてタイムマシンの外壁を破壊しただけに終わった。巨大な肉食恐竜が聡を食い契ろうと口を大きく開き、その口を武器のように聡の方に向かって振り下ろす。聡は咄嗟の判断で床に転がり既の所で恐竜の牙を躱した。恐竜は意表を突かれた様子だったが、またさらに態勢を屈めて、今度こそ聡を咥えようとした。


 それまで半ば呆然と成り行きを見守っていた透は、慌てて手に持っていた熱線銃の引き金を引いた。熱線銃の赤い光は真っ直ぐに恐竜の頭部に命中し、竜のように巨大な恐竜は頭から血を流しながら床に崩れ落ちた。


 聡が恐竜の下敷きになってしまったんじゃないかと透は不安になったが、そんな透の心配をよそに、聡が素早くタイムマシンの外壁の切れ目に向かって駆け出していくのが見えた。


 ……良かった、聡は無事だったかと、透が安堵したのもつかの間、透は急に背後に何かの気配を感じた。


 恐る恐る振り返ってみると、いつの間にか、そこには二匹の小型恐竜がいて、小首を傾げるように透を見ていた。最も、小型といってもそれはさっきの恐竜に比べれば小さいというだけで、透よりは十分に体格は大きく、三メール近くはあった。片方の一匹が威嚇するようにシャアアと大きな口を開いて吠えた。


 透は二匹の小型恐竜に向かって慌てて熱線銃を発射した。しかし、二匹の小型恐竜は俊敏に動いて、その攻撃を回避した。小型の恐竜は熱線銃に驚いたのか、少し距離を開けたが、その場を離れていくことはなかった。


「くそ!あっちへ行け!」

 透はそう叫ぶように言うと、小型恐竜に向かって再び熱線銃を発射した。しかしさっき倉庫のなかにいたときは違って今は空間が広く、恐竜の逃げ回るスペースが十分にあるため、熱線銃は命中しなかった。また続けざまに熱線銃を発射する。しかし、これも躱されてしまった。透はなんとか恐竜を仕留めようと何度も銃を打ったが、その悉くが躱されてしまった。……そのうち、エネルギーを使い過ぎてしまったにようで銃が打てなくなった。この熱線銃は宇宙にあるフリーエネルギーを利用しているので、またチャージすれば使用できるようなるが、チャージするにはしばらく時間が必要だった。


 ……どうすればいい、と、透は青ざめるように思った。小型の恐竜は銃を警戒して、今はかなり距離を取っているが、以前として彼等が透のことを諦めた様子はなかった。


 透は「うおー!」と、意味不明の叫び声をあげると、小型恐竜に向かって熱線銃を発射する素振りをみせた。小型恐竜は熱線銃が再び発射されると警戒したか、背後の空間に向かって後退していった。


 今だ!と思った透はタイムマシンの外壁の裂け目に向かって全速力で走りはじめた。小型恐竜と十分に距離が開いた今なら、目の前に見えている外壁の裂け目へ、なんとかたどり着けるのではないかと透は考えたのだ。


 しかし、二匹の小型恐竜は透が走り出すと、予想以上の速度で透に追いすがってきた。走りながら、もうすぐそこまで恐竜の足音が迫ってきているのが透はわかった。……もう駄目か、と透は諦めかけた。


 が、しかし、その瞬間、透の身体は外壁の切れ目をくぐり抜けて外の空間へ脱出することに成功していた。直後に、二匹の小型恐竜がタイムマシンの外壁にぶつかる音が聞こえた。タイムマシンの裂け目は小さ過ぎて、恐竜は透のあとを追ってくることができなかったようだった。シャアア!と小型恐竜のうちの一匹が、裂け目から悔しそうに吠える声が聞こえた。


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