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救助はこない

「おい!しっかりしろ!」

 と、聡のしかりつけるような声で、透は意識を取り戻した。頭を強く打ったらしく、頭部に鈍痛があった。痛みがある方に手で触れてみると、ぬめり気のある血液が手に付着した。それを見ただけで透は思わず意識が遠のきそうになったが、

「大したことはない。かすり傷だ」

 と、聡が意外なほどしっかりとした声で励ますように言った。


 透はよろよろとまだおぼつかない足取りでそれまでうつ伏せに倒れていた状態から立ち上がった。そして周囲の状況を確認にしてみる。


 タイムマシンは崖のような場所に正面から衝突したようで、操縦室の窓の部分は大破し、内側に向かって大きくめり込んでいた。よくこれだけの衝突で命が助かったな、と、透は不思議な気がした。聡の顔を見てみると、聡も衝突の際、怪我をしたらしく、頭と、それから頬から血を流していた。大丈夫か?と透が訊ねると、聡はなんともないとぶっきらぼうな口調で答えた。


「それよりも、ここが一体どこなのか、ということだ」

 と、聡は真剣というよりは、思い詰めた表情で言った。大破している操縦席から見える景色は、熱帯性の植物が生い茂る密林のような世界だった。今までは気が動転していせいで気がつかなかったのだが、湿度が高く、かなり蒸し暑く感じられた。


 まだ恐竜たちは麻酔が効いているのか、それともさっきの激突のせいで檻のなかで死んでしまったのか、貨物室の方で恐竜たちが騒ぐ声は聞こえなかった。


「……少なくとも、未来の世界ではなさそうだな」

 透は聡の側で当たり前のことを口に出して言った。聡は透の発言に首肯すると、

「タイムトラベルを開始して一時間足らずで通常空間に出たんだ。俺たちが今居る時代は下手をすると、まだ恐竜たちが元気に動きまわっている時代かもしれん」

 と、聡は不吉なことを口に出して言った。


 透としてはそんなことがあるはずないと笑い飛ばしてしまいたいところだったが、しかし、その可能性は十分にあった。ジュラ紀から透たちがいた西暦二千三百年の世界へ戻るには通常航行で十時間近くかかる。だが、実際に透たちがタイムトラベルをしていた時間は、そのわずか十分の一足らずの時間だった。そのわずかな航行で、ジュラ紀からどれだけ未来方向へ向かって移動することができていたのか、透はかなり疑問だった。


 貨物室の恐竜に襲われることがなかったとしても、この時代に生きている恐竜に食い殺される可能性は十分にありそうだなと透は自虐的に思った。


「……なんとか、助けを呼ばないとな」

 透は小声で言った。


「……お前が気絶しているあいだ、俺が重力波ビーコンを打っておいた」

 聡は横目でちらりと透の顔を見ると、短く言った。


 重力波ビーコンというのは、その名前から連想されると通り、重力を使って未来に情報、というより、救難信号を送る装置のことだ。タイムトラベルというのは、重力を自在に操るとによって可能になるのだが、重力波ビーコンというのはその技術の応用版といったところだった。


「……上手く、救難信号が届いてくれているといいんだが……」

 透は不安に思って言った。

「届くさ。そのために重力波ビーコンなんだ」

 と、聡はそうじゃないと困るというように言った。


「……最も」

 と、聡は付け加えて言った。

「救助がここへ来てくれるまでに一体どれくらいの時間がかかるのかは検討もつかないが」


 聡の科白に、透は頷いた。重力波ビーコンは確かに時間の流れを超えて情報を伝達することができるのだが、透たちが居た時代の技術では、その重力波がどの時代から届いているのか、正確に位置に割り出すのは難しかった。だいたいこのあたりだろうという大凡の検討をつけることしかできず、だから、下手をすると、透たちが遭難している時代を検出することができず、永遠に、救援が来ないという可能性も考えられた。


「このタイムマシンにはどれくらいの食料と水の備蓄があるんだ?」

 透は聡の方を振り向くと、訊ねてみた。もし、しばらくのあいだ救助が来ないのなら、食料と水の確保は何もより重要なことだった。


「……そんなにたくさんはないだろう」

 帰って来た聡の答えは心もとないものだった。


「今回の任務はただ一回未来へ移動するだけのものだったから、ほんのわずかなぶんしか積んでいないはずだ。一応、緊急の場合も考慮して、水と食料が一週間分……といったところだろうな」


「……たったそれだけか」

 透はしぶい表情で頷いた。


「しかも」

 と、聡は透の方を振り向くと続けた。

「厄介なことに、わずかな水をべつにすれば、食料品やなんかは、基本的に、恐竜たちが収まっている貨物室の方にある」


「……」

 透は聡の発言に、無言で頷いた。ということは、これから食料品を調達するために、恐竜が収まっている貨物室にいかなければならないといことだ。上手いこと恐竜たちがまだ眠っていてくれれば良いのだが、万が一、恐竜が既に覚醒していて、なおかつ、さっきの事故の影響で檻が壊れてそこから恐竜たちが逃げ出していたりするようなことがあったらと思うと、透は生きた心地がしなかった。


 かといって、このままこの操縦室にじっと待機しているわけにもいかなかった。救助が来るのがいつになるのかわからない以上、自分たちでできることは自分たちでなんとかしなければならない。それに、どのみちここに留まっていたとしても、この時代に生息している恐竜から襲撃される可能性があった。やれやれ、厄介なことになったなぁ、と、透は絶望的な気分になった。


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