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母星と地球へやってきた目的

「ところで」

 透は改まってフェレンの顔を見つめると言った。


「さっきの乗り物に乗っていた連中は何者なんだ?……見ていると、人間とは違った生き物のように思えたんだが……」


 透がそう言うと、フェレンはそれまで浮かべていた温和な表情を途端に固くした。

「彼等はレプテリアン……爬虫類人だよ」

 フェレンは口にするだけでも不愉快だというように言った。


「……それはつまり……この地球に生息している恐竜の一部が進化して、知性を持つようになったものだと考えていいのか?」

 透が疑問に思って訊ねると、フェレンは透の顔を見た。そこには不思議そうな表情が浮かんでいた。


「きみたちは……爬虫類人について何も知らないのかい?」

 透はフェレンの発言に、聡と顔を見合わせた。透たちがもと居た二千三百年の世界でも宇宙開発は進み、人類は火星に恒久的な基地を建設し、その他の太陽系内の惑星のいくつかにも人類は恒久的な基地を建設して定住するようになっていた。しかし、その一方で、人類以外の知的生命体の発見はまだだった。微生物等の、原始的な生命の発見ならあったが、犬や猫等の動物に相当するような生物はもちろん、ましてや人間に相当するような知的生物の発見はまだ成されていなかった。そして更に言えば、人類は未だに恒星系へと出かけていくことのできる宇宙船を持たなかった。

透がフェレンにそう告げると、フェレンはやや難しい表情を浮かべて、


「こんなことを言うと失礼かもしれないけど……どうやら文明の進度は僕たちの星の方が上回っているみたいだね」

 と、感想を述べた。


「そういえば、フェレンはこの地球の外からやってきたと言っていたと思うが、ちなみに、その星はどこにあるんだ?」

 聡が興味を惹かれたように訊ねた。


「夜になるとわかるよ」

 と、フェレンはどこか懐かしそうな表情を浮かべて、空を見上げた。なんとなくつられるようにして透と聡のふたりも空を見上げてみたが、しかし、空はまだ明るく、星は見えそうになかった。


「夜空のなかでも一際明るく輝いている星だからすぐにわかるよ……といってもそれは恒星だから、正確には僕たちの星はその恒星の近くにあるわけなんだけどね」

 フェレンは空に向けていた視線を再び透たちふたりの方へ戻すと、微笑して言った。それからフェレンは落ちていた木の棒を拾うと、足下の地面に三つ斜めに並んだ星座のようなものを描いた。


「……オリオン座だ…」

 と、透はフェレンが描いた図形を見ると、驚いて声を上げた。透の隣で、聡も信じられないというように口を開いてフェレンが描いた図形を眺めていた。


「きみたちの世界では僕たちの恒星をオリオンと呼ぶみたいだね」

 フェレンは口元で小さく微笑んで言った。


「……あんな遠くにある星から、この地球へと渡ってくることができるなんて信じられないな……」

 聡が圧倒されたように言った。透も聡の呟きに首肯した。現在の人類が持っている宇宙船でオリオン座まで行こうと思ったら、一体どれくらいの歳月がかかるだろうと透は気が遠くなるように思った。


 フェレンはもう一度自分の母星をそこに探し求めるように空を振り仰いだ。

「……でも、僕たちにとっても、決してレマリアは近くないよ。ワープを何度も繰り返しながら移動して、それでも、一年はかかる……」


「でも、たったの一年で、あのオリオン座から地球まで移動することができるのか……」

 透はフェレンの星が持つ技術力の高さに畏敬の念すら覚えた。しかも、フェレンの星が、その恒星間移動の技術を持っていたのは、透たちの世界がある、遥か大昔のことなのだ。


「……ところで、フェレンの星の人々は調査か何かで、この地球を訪れているんだろうか?」

 少しの沈黙のあとで、聡がフェレンの顔を見ると、改まった口調で訊ねた。フェレンは聡の顔を真顔で見つめた。


「それもある」

 フェレンは言った。


「僕たちの母星である、リアンから、色々な情報を調査した結果、このレマリアには生物が存在できそうな環境が整っていそうだということがわかったんだ。それで、このレマリアには、一体どんな生物が存在しているのか、どのような生態圏が広がっているのか、確認すべく、最初の調査団が、このレマリアに向かうことになったんだ」


「それから」

 と、フェレンは言葉を継いだ。


「そこで驚くべき発見があった。もちろん、この星を支配している恐竜という生物も、驚きの対象ではあったんだけど……何しろ、僕の星にはこんな巨大で恐ろしい生物は存在していないからね」

 フェレンはそう冗談めかした口調で言うと、透と聡の顔を見て、軽く口元を綻ばせた。


「でも」

 と、フェレンは真顔に戻って言葉を続けた。


「それ以上に関心を集めたのが、この星に大量にあった金なんだよ。金というのは、恒星間宇宙船を建造するに当たって、欠かすことのできない貴重な資源なんだ。そして金というのは、この広大な宇宙にありそうでなかなかない、非常に珍しい金属でもあるんだ。人工的に作り出すこともかなり難しい。その金が、この星にはほとんど無地蔵に眠っているということが判明したんだ」


 フェレンはそこで言葉を区切ると、自分の話にちゃんとついてきているかどうか確認するように、透と聡のふたりの顔を見回した。透はちゃんと話を聞いていることを示すように、肯いてみせた。フェレンは再び口を開くと続けた。


「そして僕たちはこの星の金を採掘するために、恒久的な基地を建設することにしたんだ。その第一基地となったのが、僕が居たローレンだよ。といっても、僕は基地が建設された当初からいたわけではなく、あとから、家族と一緒にやってきたわけなんだけど」


「ローレンの他にも、この地球上には、フェレンの星から来た人々が築いた基地はあるんだろうか?」

 透はフェレンの顔を見ると訊ねてみた。フェレンは透の問いに、短く肯いた。


「あるよ」

 フェレンは簡潔に答えた。


「このレマリアには僕たちの星からやってきた人々が各大陸に築いた基地が全部で七つある……でも、そのうちのひとつは、ルヴティッシュ、爬虫類人にやられてしまったんだけど……」


 フェレンはそこまで口にしてから、急に緊張したように表情を強張らせた。どうしたのだろうと透が思っていると、草木のカサカサと揺れる音が聞こえてきた。


 透は慌ててそれまで腰にぶら下げていた熱戦銃を手に取り、身構えた。聡も同様に熱線銃に手に取り、揺れている草木のあたりに対して構えた。と、間もなく、体長二メートル程の小型恐竜が二匹姿を表した。全身は黒い羽毛で覆われている。恐らくラプトルの亜種だと思われた。


 透は現れた小型恐竜に向かって熱線銃を発射した。しかし、狙いは外れて、透の発射した熱線銃の赤い光は小型恐竜のすぐ脇の空間を掠めていった。右にいた恐竜は興味を惹かれたのか、今しがた自分の脇を通り過ぎていった光の方を振り返ったが、しかし、すぐに興味を失った様子で再び透たち三人の方に向き直った。片方の一匹が、シャアアと威嚇するように大きな口を開けて吠えた。


 と、思った次の瞬間、二匹の恐竜は同時に三人向かって襲いかかってきた。続けて透は慌てて熱線銃を発砲したが、恐竜の動きは素早く、命中しなかった。黒い羽毛に覆われた小型恐竜の一匹が、飛び上がり様に、腕に付いているその大きな爪を透に対してふりかぶった。透は無我夢中で迫って来る恐竜の頭部に向かって熱線銃をもう一度発砲した。今度は熱線銃は命中し、さっきまでそこにあった恐竜の頭部は消し飛んだ。頭部を失った恐竜の下半身はコントロールを失って、透のすぐ足下の地面に崩れ落ちた。


 透がもう一匹の恐竜はどうなっただろうと思い、聡たちの方へ視線を向けてみると、聡もどうにか襲いかかってきた小型恐竜を仕留めることに成功したようで、聡の足下付近には熱線銃によって半ば粉々になった恐竜の肉片が散らばっていた。


「無事か?」

 透は少し離れた場所でさきほど仕留めたばかりの恐竜の死骸に目を落としている聡に対して声をかけた。聡は声をかけてきた透の顔を見ると、「ああ」と、まだ緊張している表情で短く首肯いた。


 と、また近くの茂みがかさかさと揺れた。透はすかざす、その揺れた茂みの方に向かって熱線銃を発射した。すると、キィという甲高い悲鳴のようなものが聞こえ、透の発射した熱線銃の光線が何かに命中したのだということがわかった。その茂みにまだ複数の小型恐竜が潜んでいることを恐れた透と聡のふたりは、熱線銃をさっきの音が聞こえてきた空間に向かって乱射した。


 透と聡のふたりは熱線銃を構えたまま、しばらく様子をみてみたが、あたりは静まり返っていて、今のところ新たに恐竜が襲ってくるということはなさそうだった。透は聡とフェレンがいる空間まで歩みよると、

「なんとか撃退することに成功したようだな」

 と、声をかけた。


「ちょっと危なかったな」

 聡は透の言葉に、その表情にまだ緊張の色を色濃く残りしながら首肯いた。


「きみたちのおかげで助かったよ」

 フェレンは透と聡の顔を見ると、強張った笑顔で礼を述べた。

「僕は昨日の事故のせいで、ほとんど何も武器と呼べるものを持ち合わせていないんだ」


 透はフェレンが口にした、昨日の事故という言葉の意味が気になったが、しかし、透がその疑問を口にするよりも前に、大気をビリビリと振るわせるような巨大な恐竜の咆哮音が近くから聞こえてきた。声の音量からしてかなり巨大な肉食恐竜のものだと思われた。


「たぶん、血の匂いのせいだろう」

 と、聡は足下の小型恐竜の死骸に目を落としながら呟くような声で言った。


「ここから離れた方がいいだろう。デカいやつが襲ってくるかもしれん」

 聡は俯けていた顔をあげて透の顔を見ると言った。

「そうだな」


 透は首肯いた。透はもう一度念のためにというように、さっき茂みで音が聞こえてきた空間に向かって熱線銃を発射した。


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