【ログアウト処理が正常に完了しました】
どこまで続くか(白目)
「すぅ……。すぅ……」
心地よい風が、頬を撫でる感触――。
風が、吹いている。どことなく初夏を感じさせる様な、気持ちの良いそよ風が――。
◆◇◆◇
ミーン……ミーン……ミーン……
どこかからか、蝉の声が聞こえてくる……。風に乗り運ばれてくる微かな蝉の声は、まどろみの中で揺れる少年の意識を次第に覚醒へと誘った。
「ん……。こ…こは……?」
どうやら少年は眠っていたらしかった。いつごろくらいからなのかは分からない。ただ、随分と長い間眠っていた感覚だけが、気怠さの混じる凝り固まった体が伝えてくる。
「んーっ……。……ふぅ」
未だ眠気が抜けきらないながらも少年は、寝惚け眼をこすりつつ体を起こし、大きな伸びを一つして辺りを見渡した。
「…………へ? 」
しかしそこで、少年の瞳は有り得ない光景を捉える。
「ち、ちょ…⁉︎ これ…どうなって……⁉︎」
いつもなら、あと数十分は抜けきらないはずの眠気が、一気に消えていくのを少年は感じた。自分の目に映る景色に我が目を疑い、呆然とする。
「……いや、いやいやいや、まてまてまて…おかしいぞ…確かに俺はちゃんと自分の部屋のベッドで寝たはずであって……」
あまりの急展開に、混乱して収集のつかなくなった脳を必死に働かし、現在状況の把握、今に至る迄の経緯の整理を図る。
「落ち着け……。まず俺は、部活に疲れて帰ってきて…そう。確か、速攻で風呂に入ったんだ。……それから?…うん。夕飯をパスして…そのまま寝た。自分の、部屋で」
そう。眠った。『室内』で。
「そんで、ココで目覚めた……と」
改めて、周囲を見渡す――。
まず自分の足元を、見た。
そこには柔らかなカーペット――ではなく、『青々とした草原』が広がり……。
次に、自分の目線にまで視線を上げる。
そこには、うっすらと木目が浮き上がり、清潔感の溢れる壁――ではなく、『どこまでも広がる地平線』があった。
脂汗を流しつつ頭上を仰げば、そこにあるのは天井ではなく『澄み渡る青空』だったし、お気に入りのマンガを並べた本棚は『名前も知らないような木』になっていた。
「ふっっ……」
『ぷちっ』っと、少年の限界を知らせる何かしらの切れる音が聞こえた気がした。
「ッッざけんなあああああああァァ!!! 何だよコレ!? 『自分の部屋が清々しい大草原に早変わり~♪』とか、なんのドッキリですか!? 壮大すぎるわッ!!」
叫んだところで、誰が助けてくれる訳でも、状況が好転する訳でもないのだが、少年は叫ばずにはいられなかった。
「もう駄目だ! もう全てが終わったッ!! 俺はここで一人寂しく野垂れ死ぬんだあああ!!」
それに、どうせここはいつもの自室ではないのだ。それならいっそ、近所迷惑など心配せずに思いの丈をぶちまけてスッキリしたい。少年はそんな気持ちに囚われて、本能の赴くままに吠え続けた。
しかし、この見渡す限りの草原地帯。人っ子一人いない様なこの場所では、少年の絶叫を聞いて怒る人間はおろか、そもそも聞いてくれる者すらいない『はず』だった。
そう。わざわざ『はず』と表現したのにも理由がある――。
「だあああああああああ!! うるせええええ!! ギャーギャー喚くんじゃねえよ! 静かにしろッ!!」
「……………………………え?」
怒る人間が居たのだ。それも、真後ろに。
「まったく……。いきなり俺の背中にのし掛かってきたと思ったらそのまま眠りこけ…、人の上で散々寝た挙げ句、やっと起きたかと思えば喧しく騒ぎ立て……。お前はアレか? 情緒不安定なのか?」
「え? ええ!? ちょっ、ちょっと待った!! アンタ…今どっから出てきた? つか、『俺の背中にのし掛かってきた』ってどうゆう意味……いや! それよりココはどこ――」
「あー! もうっ!! うるさい!! 一気に幾つも質問すんじゃねえ!!」
謎の男は、少年の質問を一旦バッサリと切り捨て、少年がその剣幕に押されて黙るのを見て、改めて口を開いた。
「はぁ……。…じゃあまず、俺が何処から来たか…だが、俺は突然現れた訳じゃねぇ。いきなり現れたお前の敷布団として、ずっとお前の下敷きになってたんだよ。何故気付かなかったのかが不思議だぜ……」
「お、俺がいきなり現れた……?」
「ああ。俺がココを歩いてたら、いきなりズシンってな」
どうにも不可解だった。この男の言い分が正しいのだとすれば、少年は眠った状態のまま突如虚空から湧き出たことになる。完璧な室内である自室から、見知らぬ大草原に瞬間移動など…一体全体、どこの世界にそんなファンタジーがあると言うのか。
「そ、そこからしてイマイチ納得できんが……。とりあえず、目下最大の疑問を解決してもらうぞ」
少年は、大きく息を吸い数拍溜めてから、恐る恐る現時点最大最重要の疑問を口にした。
「ここは、どこだ――?」
少年のその言葉に対して男の方はというと、何故そんなことを聞くと言わんばかりの訝しんだ表情をしていた。
「は?お前…それこそ聞くまでも無いだろうが……。……まあ、良い。教えてやろう」
男が、言葉を紡ぐ――。
「ここは――」
恐らく、少年にとってこれが絶望への決定打となるであろう一言を――。
「ここは、大陸『アリオネ』。その中に位置する国…『ムルニル』。豊穣の大地に恵まれた、緑豊かな国だ」
とりあえず…風潮に乗ってみました←