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聖峰の要  作者: くるなし頼
第一章 集う仲間
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助言者

電子都市リアリスにて体力値が設定されているものは、四種類ある。



一つは手紙や切手などの戦闘ゲームができる『ゲームプレーヤー』。


一つはコミュニケーションシステムのみの『コミュニケーションプレーヤー』。


一つはゲームプレーヤーが戦う『敵』。


最後の一つは、電子都市の案内やストーリー進行に関与する、作られた存在である『ゲームキャラクター』。よくNPCと言われるもの。



このうち戦闘を行えるのはゲームプレーヤーと敵、そして一部のゲームキャラクターである。


そして戦闘を行えるのは、違う種類の相手とのみになる。つまり、ゲームプレーヤーは同じ種類であるゲームプレーヤーとは戦えない。たとえ殴ったり魔法攻撃を行っても、体力値は減らない上に、その攻撃は当たらないようになっている。





手紙が見張りをすると言ってから約七時間。



暗闇に包まれながらも、もうすぐ朝日が現れてもおかしくない時間帯。もしここが現実世界ならば、目覚めの早い動物たちが鳴き声を聞かせてくれる時刻だ。

さすがの手紙たち三人も眠りについていた。


あとは日の出を待つだけ、そんなときに手紙の“捜索”が発動する。



「…!敵か?」


特技のおかげで、手紙の頭はすぐに冴えきる。その後すぐに自発的に“捜索”を使い、手紙を目標にした敵の居場所を探った。


《キミ…な…………ん…》


「…って、ん?」


特技を使った結果、近くに敵は見あたらなかった。


「というか、さっき変な声も聞こえたような…」


気のせいかと思った瞬間、再び何か言葉が聞こえてくる。


《…い………の……タ…》


「?!」


何を言っているのか、はっきりと聞こえなかった。しかしこの声が、何か特殊なものであることはわかる。


手紙は再び“捜索”を使う。すると敵は近くにいないものの、自分と同じ戦闘プレーヤーが近くにいることがわかった。



手紙は急いでその場所に向かう。




畑が一面に広がるなか、所々に生えた木々。小屋からだいたい二百メートル離れた場所、そこにプレーヤーがいるらしい。


足音をたてず、しかし素早く手紙は暗闇を走り抜ける。そのうち、うっすらと明るくなり、地に生える植物たちをしっかりと確認できるまでになった。



そして幹の太い大きな一本の木に辿り着く。手紙は勢いよく、そこに身を潜めていたプレーヤーの目の前に飛び出した。


「…!……へぇ」


驚きつつ感心したような言葉を漏らしたのは、手紙ではない。

手紙の視界に入ってきた不思議な雰囲気をまとう、やや中性的な顔立ちのひとりの少年だった。


その少年は面白そうなものを見る目で、手紙を見続ける。


「わりと離れていたから、気付かれないと思ったんだけど」


銀色の髪に金色の瞳、手紙より小さい背をした少年は、少々偉そうな口調を使う。

さらに冷ややかな言葉と、冷めた笑み。それを向けられた手紙は、あまり良い気がしなかった。


「それで?あんたが俺に変な声をかけてきたのかよ?」


「声…?」


何を言っているのかわからない、といったように少年は首を傾げる。この少年は明らかに怪しいものの、この言動に悪意を感じられなかった手紙は、すぐに首を横に振った。


「いや、ごめん。何でもないから」


「そう言われると気になるものなんだけどね。ま、確かに君はぼくに構ってる暇、ないんじゃない?」


「暇って…確かに見張りが離れちゃまずいか」


「ふふっ、そう言う意味じゃないんだけどな」


薄ら笑いを浮かべて楽しそうに話しながらも、やはり少年のどこか冷めた口調に変わりはない。

意味が分からなくなってきた手紙から、苦い声が出てくる。


「あのさ、君なんなの?」


「うん?まあ、今の君にとっての良き助言者かな。ちなみにぼくの名前は、くわ───」


ガシャァアン!!


遠く過ぎず近過ぎず、そんな距離からなにやら物が壊れる音がした。


「な、なんだ?!」


手紙は音のした方を向く。それは、切手と砂記のいる小屋がある方向だった。


落ち着いている少年は、変わらぬ口調で腕を組んだ。


「あらら。行動早いなあ…。慎重そうな見た目してるのに」


「あっちは…小屋のほう?」


切手と砂記に何かあったのではと不安にかられたとき、少年は手紙の背中を軽く叩く。


「そうでしょ。ほら、こうしてる間にもあの槍攻撃術士が、君の親友を殺しちゃうよ?」









「…っと、なにするんですか!」


砂記の電撃魔法攻撃を避けようとした切手は、ドアを体当たりして開け、小屋から飛び出た。


そして電撃に向かって、とっさに前に出した自分の右手を切手は見つめる。その右手には特技の“相殺”を使った感覚がまだ残っていた。


「しかもプレーヤー同士の喧嘩防止のため、攻撃は当たらず、通り抜けるはずなのに…」


戸惑いながらも怒る切手に、槍を持った砂記が近付く。


「お前の特技は魔法攻撃にも有効なのか…こざかしい」


砂記は槍を掲げ、再度攻撃魔法を使う準備を始めた。


魔法攻撃は必中かつ大ダメージを受ける。よって切手は魔法攻撃を発動させる前に、砂記を止める必要があった。


二本の剣を取り出し、急いで砂記に駆け寄る。そして攻撃をするため、剣を振り上げるが…。


「…っ!」


出会ってからまだ一日も経っていないが、仲間だった砂記。そう思い、一瞬ためらった切手に電撃がぶつかる。


「…やばっ…」


衝撃により切手は数メートル後ろに飛ばされた。そして急いで自分の体力値を確認し、絶望する。恐らく、魔法攻撃どころかあと槍の一振りを一度でも受ければ、体力値は尽きゲームオーバーになってしまう。


「プレーヤー同士は戦えないはずなのに、どうして体力値が削られるのさ?!」


“相殺”が使えるまであと、十秒ほど。


切手は諦めずに勝機を探した。



「残念だが、ゲームオーバーになってもらう。…リョクアのためにも!」


「くっ…」


砂記は槍は引き、切手に狙いを定める。回避は難しいと判断した切手は、防御の姿勢に入った。


まさにそのとき。



「切手ーーー!」


どこからか、切手の名前を呼ぶ手紙の声がした。その声と同時に、無数の矢が砂記と切手の間に放たれる。


「…ちっ」


舌打ちした砂記が一歩後退する。その隙に切手は回復薬で体力値を完全な状態に戻した。


手紙は走りながら、なお矢を射続けている。さすがに走っているせいか命中率は低かったが。


それをすぐに見抜いた砂記が、再び魔法攻撃の準備のために槍を掲げた。


「…っ!」


急いで対処法を考える切手だったが、いい方法が思い浮かばない。とにかく早く“相殺”が使えることを祈るしかなかった。



しかし、切手の目の前で砂記はいきなり倒れる。



「残念でーした」


人を小馬鹿にしたような声で、砂記の背後から銀髪の少年が現れた。倒れ込んだ砂記は一瞬にして立ち上がり、謎の少年を睨みつける。


「なんだ…?」


「ん?リョクアの味方っぽい奴が怪しいことしてたからさ。釘ならぬ、ナイフを刺しておこうかと思って」


少年はにこやかな笑みを浮かべる。



仲間の砂記に攻撃されたと思ったら、銀髪で白いパーカーを着た、半ズボンの少年が現れた。何が起きているか分からない切手は、地面に突き刺さったものに目を奪われる。


「これは…ナイフ?」


その言葉に砂記が反応する。


「そうか、投げナイフか。…お前、もしかして『クワナ ハルカ』か?」


「ふふっ…。ま、八割正解だよ」


クワナハルカと呼ばれた少年は鋭い笑みのまま、幾つかのナイフを両手に持ち構える。そしてそのまま、ナイフを砂記目掛けて投げつけ始めた。


「…面白い!」


闘志をむき出しにした砂記はクワナハルカに槍を向け、投げられたナイフを突いて落とす。それからどんどんと二人で戦闘を繰り広げていった。


呆然とその光景を眺める切手に、やっと手紙が追いつく。


「き、切手、無事か?…ったく、あいつ、凄い、特技を、もってるな…」


息切れしている手紙に、切手が駆け寄る。どうやら手紙は矢を射続けながらも、全力疾走したらしい。


「手紙こそ大丈夫?そ、それと砂記さんが…」


「うん…。本当にあいつの言うとおりになっちゃったよ…」


手紙はクワナハルカの方に目をやる。そして先ほどあの少年に聞いた情報を、切手に伝え始めた。


「砂記は電子都市リアリスに俺たちを閉じ込めた『リョクア』側の人間だったんだ」


「リョクアって、あのメールのひとだよね?」


切手の問いに頷きつつ、手紙は話を進めていく。


「うん。俺たちに近付いた理由は謎だけど、砂記は俺たちをゲームオーバーにさせる気だったみたいだ。…全部、『ヨウ』に聞いた話だけど」


「『ヨウ』…?誰なのさ、それ」


「あれ?あいつ名乗らなかったのか。あの銀髪のナイフ投げてる奴」


「え。なんかクワナハルカとか呼ばれて、八割正解とかいってたよ?!」


二人が話している間にも、クワナハルカことヨウがナイフを投げつつ、槍をかわす。砂記は槍でヨウに攻撃しつつ、飛んでくるナイフを地面に叩きつけたりしていた。



手紙は二人の戦いを見ながら、解説を続ける。


「彼は『加七(くわな) (よう)』。(はるか)と書いて(よう)と読ませるらしい」


「なるほど、それで砂記さんはクワナハルカって呼んだんだ…。それより、加勢しなくていいの?」


切手はほぼ対等に戦う二人を見て、再び剣をとる。手紙もいつも使う弓を構え、砂記に狙いを定めた。


「先に切手に説明するよう、遥に頼まれたから。…でももう終わったら、俺たちも戦おう!」


「了解!…もう、迷わないから!」


複雑な表情を浮かべつつ、砂記と戦うことに腹をくくった切手は言い切った。そして手紙の元から離れ、遥と砂記に向かっていく。



ひとりになった手紙は落ち着きをはらい、“捜索”を使う。


すると今までは確かに『ゲームプレーヤー』だった砂記の情報は、『敵』に変わっていた。

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