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聖峰の要  作者: くるなし頼
第二章 幻惑の定
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薄くなる希望

「おい!」


形をなくし、どんどん大きな立方体へと変わりゆく朝に向かってレイは駆け寄った。しかし立方体は素早く回転し、レイに向かって衝撃波を飛ばす。


間一髪のところでレイは、地面を強く蹴り跳んで避けた。


「ちっ…」


近付くことすら難しい状況に、思わず悔しそうにレイが舌打ちする。


するとそこでやっと、手紙たちがレイの元へと辿り着いた。好奇心を隠さずにしていた手紙と遥に、申し訳なさそうにする切手。


その三人の表情は、立方体の敵を見て一変した。


「ええ?!」


巨大すぎる敵に、切手が一歩後ずさり驚く。一度この場所に来ている遥も立方体とは初めて会ったらしく、動揺の顔を見せた。


だが手紙だけは、立方体の敵を静かに見上げた。そのときの彼は目を見開き、信じられない、いや嘘だ、と言うように強張っている。


その表情を見てしまったレイは、手紙のこの表情の理由を察した。


「おい、お前の“捜索”であの立方体の名前は何て表示されている?」


「え、あ、うん…。その『降千朝』ってなっている。しかも敵のデータだし。これ、どういうこと?」


さすがの手紙も酷く動揺しているらしく、たまに声が裏返っている。


しかし立方体が手紙たちのことを待ってくれることもなく、例のごとく回転しながら光り始めた。


「うわ、眩しい」


薄暗さに慣れていた目に、強い光が容赦なく入り込む。それに苛立ちを覚えた遥が、言葉を漏らしていた。



やがてその光になれ始めた頃、レイと切手が立方体に向かって走り出し、戦闘態勢に入る。だが切手の動きには迷いがあり、視線は立方体から外れることが多かった。


「いいのかな…」


切手の小さな声の問いに、レイが振り向く。


「なんだ?」


「いえ、だってあれは朝さんなんでしょ? なのに倒したら、朝さんはゲームオーバーになって(しもべ)になっちゃうんじゃ…」


「…お前、もう忘れたか?」


「へ?」


呆れるようにこちらを睨むレイに対して、切手はぽかんとしてしまった。その頭の中は、自分が何を忘れているのか、必死に考えることに全力を注いでいる。


だがレイは、切手が自然に思い出すことを待ってはくれないらしい。


「お前と俺が初めて会ったとき、俺は何をしていた?」


「えっと…たしかプレーヤーに攻撃していて………あ!」


切手の迷いの表情が、が一瞬にして晴れた。


「そっか! 攻撃した後にレイが回復魔法をかければ、朝さんの体力値だけが回復するんだ!」


「そういうことだ」


躊躇いがなくなった切手は、レイとともに武器で容赦なく斬りつけ始める。


後方にいる手紙と遥も、すでに戦闘態勢を整え終えた。


「ねえ、手紙」


難しい顔で敵に視線を向けたまま、遥は自分より後ろにいる手紙に声をかける。


「? 遥、どうした?」


「なんかさあ、いやな予感しない?」


「うーん…」


矢を射る手を止めて、手紙は数秒間考え始めた。だが遥は、この問いにしっかりとした返答を望んでいるわけではないらしい。


少ししてから、話し出した。


「なーんか朝さんもレイも、隠し事している気がする。それが僕たちにとって、どうでもいいことなら良いけど。結構、重大なこと知ってそう」


「…なるほどな」


遥は四天王たちとリョクア側の繋がりを怪しんでいる。もし本当に四天王たちと繋がりがあるならば…





正直、絶望的としかいえない。





遥の不安など知りもしない切手は、レイとともに立方体へと攻撃の手を止めない。むしろ朝を助けるために必死にも見えた。


「わあっ!」


立方体が放つ光線がかすった切手は、思わず叫び声をあげる。しかしすかさずレイが回復魔法を使うため、切手はひるむことなく立ち向かった。



そろそろ、か。




頃合を見たレイが回復魔法を立方体にかけた。こうすれば敵である立方体の体力値はそのままに、朝の体力値だけを回復できる













はずだった。



「…っ!」


立方体に回復魔法をかけたレイが、驚きの表情を浮かべ、押されたように後ずさる。その一部始終を見ていた手紙が、動揺を隠せずにいるレイに駆け寄った。


「どうした?!」


手紙のかけた言葉により、ずっと立方体に向けられていたレイの視線は、ゆっくりと動きだす。


「回復魔法が通じない…!」

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