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聖峰の要  作者: くるなし頼
第二章 幻惑の定
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四天王の昔話 後編

「いっけえええぇぇぇ!」


力強い掛け声を上げた朝は、眩しさに目を伏せながら攻撃魔法を放つ。

目を瞑ると、敵の位置が正確に把握できない。それゆえに朝の攻撃魔法を敵が避けることは可能だった。


しかし、さすが四天王と言ったところである。


「当たれ!」


バスケットコート一面ほどの空間に現れた、五メートルほどの大きさの敵。それに向かって同じくらいの大きさの、炎に包まれた隕石を落とすような魔法攻撃をすれば嫌でも当たる。


攻撃魔法により作られた隕石は、豪快な音をたて敵へとぶつかっていった。敵の悲痛な声が辺りに響く。


しかし、仲間からは不評らしい。


「ちょっと朝? な・ん・ど言えばよろしいのですか? いくら仲間には魔法攻撃があたってもダメージはないとは言え、不愉快ですのよ?!」


「ごめんごめん! 隕石の欠片が当たっちゃった?」


「ええ! たっぷりと!」


本気で怒り狂う駆恋と、マイペースに明るく対応する朝に、水月はただ苦笑いを見せるだけだった。


ようやく眩しさに慣れてきた四人は、立方体の敵の姿をしっかりと確認する。それでもたまに強い光を放つため、目を細めたりした。


「さて、僕たちも動こうか」


優しげな声とともに、水月は肩に掛けた銃器を敵に向ける。すると先ほどの隕石には劣るものの、大きな音を立てて大砲のような弾を撃ち放ち始めた。


それと時を同じくして、駆恋とレイも武器を手に走る。ただ途中からレイが駆恋を抜き、前にでた。


「ちょっと、レイ! 速すぎてよ?」


「お前が遅いんだよ。その武器が重く、大きすぎるからだろ」


敵の目の前に着いたレイは大鎌を振るい、敵にダメージを与え始める。遅れてきた駆恋も、大きく武器を振りかざした。


「ええ、確かに重くて大きいですわね。…だからこそ楽しいんじゃない!」


四角い形の刃が一メートルはある大きな包丁を両手で振り下ろしながら、駆恋は笑っている。


レイの攻撃力は確かに高いが、彼の職業は医療術士である。その反面、前衛戦士の駆恋の攻撃力は凄まじく、電子都市リアリスで一番高いとされていた。


その駆恋が繰り出す特大包丁の攻撃は、敵の体力を大幅に削っている。



しかし、敵も黙ってはいない。



立方体のうちの一面から、強い光線を放ち回り始めた。


その光線は後衛にまで容赦なく届く。


「おっと」


水月はそれを、速さを上げる特技の“神速(アタランテー)”で素早く回避した。


前線にいたレイも何とか敵の死角に逃げ込み、再び攻撃を仕掛けている。



しかし水月のような回避手段をもたず、後方に居るからこそ死角となる場所が見つからない朝は迷いをみせた。


そこで、急いで駆恋の後方に移動する。


「駆恋、任せた!」


朝の元気な声に嫌々頷く駆恋は、自分に向かってきた光線に向かって特大包丁を振りかざした。すると光線は包丁から跳ね返り、立方体の敵へと向かってダメージを与える。


それを見て喜んだ朝が、嬉しそうに礼を述べた。


「さすが! 駆恋の特技の『反射(ミラー)』はかっこいいね!」


駆恋の特技の『反射(ミラー)』。


これは十秒間だけ、敵から受けたダメージをそっくりそのまま敵へ返してしまうというものである。


彼女はこの特技と高い攻撃力、そして高い防御力により壁役としても活躍できるため、前衛戦士として最強を誇っている。


だが彼女のひねくれた性格が足を引っ張り、一般人からの人気は四天王の中で一番低い。


「…いつまで私の後ろに隠れているつもりですの?」


低い声で言い捨てた駆恋は、レイと同じく攻撃を再開した。




「…っ!」


そのとき、立方体の敵は今までの一本の光線攻撃とは違い、複数の光線を素早くばらまいた。その一つをまともに受けた水月が、一瞬だけ怯む。



わっ、あの細かな光線だけでも体力値が結構もってかれるなぁ…。四天王の僕でもこんなにダメージ受けるんだから、電子都市リアリスで実装する敵なら、もう少し下方修正が必要かも。



自分の体力値を確認した水月は、一瞬だけ敵の方を見た。そして自分の体力値に再び目を落とす。すると先ほど減った体力値が、すべに回復されていた。


これには思わず笑みが零れる。


「仕事が早いね、レイ」


「…ふん」


水月の体力回復のために、前線から一歩引いていたレイがしかめっ面で応えた。


レイが再び攻撃へと戻ろうと足を進めると、今度は駆恋の体力値がだいぶ減っていることに気付く。


何の躊躇いもなく駆恋に回復魔法をかけると、今度は朝が敵の光線を受けてしまう。再び回復の準備を始めると、今度はレイ自身が敵の光線にかすってしまった。


「…なかなか面倒な敵だ」


駆恋と後衛の二人の間に立ったレイは、チーム全員を一気に回復する魔法をかけ始めた。


レイが回復に専念することを察した駆恋が、彼の方を一瞬だけ見る。


「…あなた『詠唱短縮(スペルカット)』の特技疑惑があるくらいに、魔法の準備時間が短いんでしょう? でしたら、か弱い女の子を残して回復に専念するのはどうかのかしら」


「でかい包丁を振り回す奴を、か弱いなんて誰も思わねえよ」


冷静に言葉を返したレイは、回復魔法を駆使して仲間の生命を支え始めた。



敵の体力値を着実に削り初めて約五分。

急に立方体の敵が攻撃を止めたかと思うと、段々と体の色が赤く変わり始めた。よく見ると敵のその体は、小刻みに震えている。


「!!」


「…!」


それにすぐに危険を感じた駆恋とレイが、敵から距離を置いた。


少し離れて見てみると、敵は震えながらも少しずつ小さくなってきているのがわかる。



遠くにいる朝と水月にも、それは明確に分かったらしい。


「なに、あれ?」


「分からないけれど…嫌な予感がするね」



段々と、そして確実に縮み、綺麗な立方体すら歪み始めた敵を間近でみている駆恋とレイは、その目的を察し始めていた。


「ねえレイ、これはどのくらい離れれば安全なのでしょうか?」


「知るか。とりあえず離れられる距離だけ離れろ」


「そうですわね。私は敵の『自爆』に巻き込まれるなんて嫌ですもの」


この駆恋の言葉を合図としたように、駆恋とレイは全力で敵から離れ始める。


気が付けばあの五メートルあった敵の姿は、わずか十数センチメートルにまで圧縮されていた。

とりあえずバスケットコートほどの空間の一番端に集まった四天王の四人は、遠くで小さくなった敵を見つめている。


そしてもう爆発寸前にまで至ったとき、駆恋とレイが一歩前に出た。それを横目で確認した駆恋は、さらに一歩前にでる。


「あーら、あなたは下がっていなさい。レイ、あなたの防御力はまずまずですが、体力値は可哀想なくらいしかありませんでしょう?」


「まあな」


嫌味にしか聞こえない駆恋の一言を流し、レイは回復魔法を自分たちに向けて継続的に使い始める。


朝と水月を守るようにして立ちはだかった二人の顔が険しくなったとき、ついに敵は大きすぎる音をたてて自爆した。














「ったく…」


爆発の光に目がくらみ、しばらくしてから全員が目を開く。そして誰よりも最初に言葉を発し、動き始めたのはレイだった。


レイはその場に倒れた駆恋に近寄り、魔法の準備をした。いつもより準備時間を長くかけ、その回復魔法を駆恋に向ける。


「ん…。………はあ」


しばらくしてから目を覚ました駆恋は、大きな溜め息をついた。


「まさかゲームオーバーになっていたなんて…不覚ですわ」


「ううん、駆恋は格好良かったよ!」


落ち込む駆恋に向けて、朝がにこりと笑う。珍しく駆恋もそれにつられ、優しい笑みを浮かべていたが。


「本当にありがとう。でもレイの回復魔法もやっぱり凄いね。ゲームオーバーになっても復活させられるなんて」


という水月の一言で、彼女の笑顔は一瞬にして消えた。


そしてぶつぶつと何かを呟き始める。


「またレイの魔法に助けられるなんて…。…まったく………悔しいですわ」



そんな駆恋を無視したレイが、腕を組んで考え始めた。


「それにしても最期の爆発、俺は一切のダメージを受けなかったんだが」


「あ、僕も」


「私も」


水月と朝もレイと同じらしく、不思議そうに自分の体力値を見つめている。


少しだけふてくされた駆恋が、特大包丁をしまいながら話し始めた。


「恐らくですが『敵の一番近くに居る』プレーヤーが『即死』するのだと思いますわ。だって電子都市リアリスでも優れた体力値と防御力を持ち合わせた私が瞬殺でしたもの」


「なるほど、なかなかエグいボスね。誰か一人が犠牲にならなくてはいけないなんて」


朝が顔を曇らせながら呟く。その後、一通りのテストを終えた四天王は解散となり、それぞれ好きな場所へと進んでいった。

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