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聖峰の要  作者: くるなし頼
第二章 幻惑の定
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自分の役割

「電子都市リアリス利用者が眠りについて、もう四日か」


「はい。もう四日です。それなのに主犯の居場所すら掴めていないなんて…」


「主犯どころか仲間も見つからん」


血の海に沈んだアルシィ会社は現在、警察が常に立ち入っている。そしてその惨劇の跡を目の当たりにしながらも、警察は事件の手がかりを探していた。


「電源を落とせば、みんな目が覚めるんじゃない?」


「それは危ないらしい。電子都市リアリスの特徴である、人の頭に頼りすぎるところが仇になっているとか、なんとか」


「それにしてもさぁ」


警察官の一人が、大きなコンピューターのディスプレイに近づく。そして血痕の残るキーボードと、大きなディスプレイのある机の前で止まった。


「ここで力尽きていた男性、未だに身元が不明みたい」


「ふーん? こんな大きなコンピューターの前で作業するなんて、かなりの有能者だろうに」


「最後の最後まで、キーボードに食らいついていたくらいだもんねー」


そして、警察官は他のことに興味を持ちその場を離れた。









工場地帯の要塞。

名前の通り、工場地帯であることは変わりない。機材という機材やコンピューターがはびこり、重い音をたてている。

そんな機械達の背をはるかに超えるのは、鉄の壁だった。


要塞という名に偽りはなく、このフィールドは外からの攻撃を防ぐよう、高い鉄の囲いに覆われている。


手紙たち四人は、そのフィールドに辿り着いた。


「…」


「…」


「…」


「…」


黙々と歩いていくなか、手紙と切手が心の中で叫ぶ。



会話が無い!



四天王のひとりであるレイは、朝や水月と比べて人前に出ることが極端に少ない。そのうえレイのクールな性格が相まって、なかなか話題が出てこない。


ずっと話題を探していると、意外なことにレイが口を開いた。


「朝はこのフィールドにいるか?」


「え? あ、いえ。このフィールドにはいないかな」


「そうか。…それならこの隣のフィールドか」


そう呟いたレイは、この『工場地帯の要塞』の先にあるフィールドの方向を睨む。


手紙や切手は工場地帯の要塞より先に行ったことが無かったため、遥に向かって質問をした。


「遥はこの先のフィールドに行ったことある?」


「ん? あるけど、あんまり来たことないかな。フィールドの名前も忘れちゃったし。ねえレイ、なんて名前だっけ?」


何の躊躇いもなく、遥はレイに訊く。


「『井戸』だ」


そんな遥に対し、レイは素っ気なく返事をした。


そんな彼に苦笑いしながら、手紙は『井戸』のフィールドの入り口を知るために“捜索”を使う。


「え」


その驚きの声とともに、手紙は足を止めた。

理由はもちろん、特技により『彼女』を見つけてしまったからである。



「史境エリア…!」


手紙がそう口にすると、切手と遥が瞬時に武器を取り出した。

そんななか、レイは手紙に向けて少しだけ驚いた顔を見せる。


「史境エリアだと?」


レイは滑らかに、その珍しい名前を言った。


「えっ?! レイさんも史境エリアを知っているんですか?」


思わず切手が聞き返すと、そのそばで遥がぽつりと呟く。


「やっぱり、四天王とリョクア側に何か繋がりがあるんじゃない?」


「ちょっ、遥!」


切手が慌てて遥を注意するが、幸いにもレイには聞こえていなかったらしい。


その時、手紙が首を傾げた。


「でもおかしいな…。史境エリアとかなり距離が空いてる」


どのくらい距離があるかというと、視覚では手紙から史境エリアの姿が見えない程度である。彼女が前回のように空を飛んでいるかもしれないと、念のために空を見上げるが、目にはいるのは薄暗い曇り空だけだった。


もう一度、手紙は特技で史境エリアの位置を調べる。するとやはり結果は同じで、彼女の位置だけは変わらなかった。



本当に、位置だけは。



「ええっ?!」


純粋な驚きの声をあげた手紙は、思わず後ずさる。そんな彼を不思議そうに見る仲間に向かって、手紙は“捜索”で知った情報をすぐに伝えた。


「大変だ! そんなに見慣れない名前の敵が、大量にこっちに向かってくる!」


慌てて説明するそばから、手紙たちに向けてもう敵が近付いてきている。

その大勢の敵たちを目にして、遥が舌打ちした。


「雪原のフィールドの時に似ているね。ただ…敵のレベルは違うみたいだけど」


「うん。あの時は雑魚の敵が多く来たけど、今回は…」


ハチノコ、雪だるま、火だるま、と明らかに雑魚ではない、中ボスクラスの敵がほとんどだった。


武器を構えながらも、切手は冷や汗を流す。


「ちょっと、やばいかもね」


「うん、だけど今回は…レイがいるし」


本当にレイを呼び捨てにしていいのか心配になりながら、手紙はレイの方に向き直った。


「手紙と切手と遥、と言ったな。戦闘スタイルは?」


レイは腕を組ながら、三人に訊く。


「俺は後衛戦士で、弓を使って後方支援をしてる」


「近接戦闘がメインで、双剣を使ってま…るよ」


「ぼくは攻撃術士だけと、近接戦闘もできるかな」



「なるほど、わりと攻撃型のチームなのか…」


そう呟くと、レイは大鎌を取り出した。


「見ての通り、俺は近接戦闘がメインだ。だが回復魔法も隙を見て行う。だから死なない程度に暴れていい」


「はい!」










自分たちの背丈をはるかに超える敵。


それらを、四人は相手にしていた。



その一人である手紙は、自分より前で戦う三人の様子を見ながら、矢を放っている。


「凄い…」


その最中、レイの攻撃を見て手紙は心底驚く。


ハチノコのような中ボスクラスのなかでも弱い部類ならば、大鎌の一振りで倒してしまっていた。ある程度の強さの敵でも、その圧倒的な力ですぐに倒してしまう。

それでも表情を変えることなく、ただ確実に敵を倒していく。その様はまさに『死神』だった。

そして必ず隙を見ては、手紙たちにとっては見慣れない回復魔法を使い、仲間を回復してくれている。



四天王の強さを再確認した手紙は、次に切手を見た。


二本の剣で素早く攻撃し手数で圧倒する姿は、手紙にとっては見慣れた戦闘スタイルだった。しかし互いにダメージを零にできる特技を持つ切手の戦法には、やや癖がある。


それは敵の攻撃を普段は受け止めず、ほぼ回避していること。自分の攻撃と敵の攻撃がぶつかると自動で発生する“相殺”を、どうでもいい場面で使わないようにするためのスタイルだった。

そしてその“相殺”がここぞという時に働いたときは、手紙も嬉しくなる。





最後に、攻撃術士として攻撃魔法を使う遥を見た。

よく遥は“瞬間移動”を使って近接戦闘を行うことが多い。しかし今回はレイがいるため、その役は不要と思ったのか魔法攻撃に徹していた。


遥の魔法は『風』をイメージするものが多く、また魔法攻撃も強力であるため見た目も豪快なものが多い。




それに比べて、俺は地味だよなー。



手紙は心の中で溜め息をついた。


彼は自分の特技の“捜索”で常に敵全体の見て、敵の隙を作る攻撃をしたり、仲間への攻撃を阻止する役割を担っている。一応、術士の資格もあるが、十秒かかって一本の矢の威力を下回るほどの力しかないため使っていない。


唯一、彼が必殺技と胸を張って言える技もある。だが使える条件が色々とあるため、なかなか使えない。


手紙は地味であることに不満はないが、やはりかっこよさに憧れてしまう自分がいるらしい。



敵の群れが落ち着いてきたころ、ずっと遠くにいた史境エリアは、ついにこのフィールドからいなくなってしまった。特に姿を見せることも、言葉を発することなく去った彼女に手紙は疑問を持つが、先に事実を仲間に大声で報告する。


「史境エリアがフィールドからいなくなったー!」


「そっか、よかった…」


すぐに切手が言葉を返した。


後ろにいる手紙から見ても、安心した遥の肩から力が抜けるのが分かる。一番敵を多く葬ったレイは、発生した敵が尽きるまで手は抜かないらしい。


しかし、手紙はそんな彼らにもう一つの報告事項を伝えた。


「でも史境エリアが、置きみやげ残してったー!」


「…なにそれ」


よそ見ができる遥が、不思議そうな顔で手紙に聞き返す。すると手紙が“捜索”で得た情報を三人に伝え始めた。


「史境エリアがいた場所に、かなり大きな敵がいるー! ものすごくゆっくり近付いてきてるー!」


「大きな敵でゆっくりか…なーんか面倒くさそう」


はっきりとした意見を遥は述べる。


とりあえず自分の周りの敵を一掃し、切手のフォローに入ったレイがちらりと手紙たちを見た。


「…」


四天王のチームと比べてしまうと、悲惨の一言だが…こいつらは一人一人がちゃんと自分の役割を果たしているな。



心の中でそう考えつつも、レイはそれを言葉には出さない。



「大きな敵が、かなり近くまできたー!」


手紙は再び大声で叫んだ。


「了解!」


「…はーい」


「わかった」


すると仲間たちは、了解の意思を様々な形で返してくれる。すると手紙の表情は、少しだけ嬉しそうなものに変わった。


地味だが、貴重な情報を知れて仲間に伝えられる“捜索”という特技。

なんだかんだで、手紙はこの特技を気に入っていた。

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