医療術士
手紙の知り合いは、あるとき四天王の戦いを見てこう言った。
前衛戦士は『殺人鬼』
後衛戦士の桜城水月を『戦闘機』
攻撃術士の降千朝を『破壊神』
そして医療術士のレイ・ユーガを『死神』
手紙と、その話を聞いていた遥は、この的確な例えをした人に心の中で拍手を送った。
桜城水月はゴツい銃器をロボットのように装備し、かつ軽やかに動く。
降千朝は特技の破壊により、フィールドを破壊できる。
そしてレイはというと…。
思わず手紙がレイに訊いてしまう。
「でも医療術士なのに、どうして武器が大鎌なんですか?」
「一番使いやすかったんだよ」
語尾の「だよ」は、水月のような優しい言い方ではなく、冷たく突き放すような口調である。
側にいた水月も思わず溜め息をついた。
「レイ、彼らとは初対面だよね? もっと愛想良くしなよ」
「不可能だ」
「全く…」
あまり見ることのできない呆れた様子の水月は、手紙たちに向き直る。
「無愛想でごめんね。ところで、君たち朝を見なかった?」
「降千朝さんですか? 先ほどお会いしましたよ」
手紙が朝と会った場所を簡単に説明する。すると水月とレイは顔を見合わせて、首を傾げた。
「なにやってんだ? あいつは」
渋い顔でレイが考え込むと、水月は寂しそうな顔で朝が向かった先を見つめる。
「わからない。けれど、最近少し変なんだよね。…ねえ、レイ。どうにかならない?」
「会ってみないと何とも言えないな」
「うーん、そっか」
二人にしか分からない会話を始める四天王をよそに、手紙たちも三人で話し始めていた。
「ねえ、どういうことなのさ?」
ほか二人の顔を交互に見ながら切手が疑問を口に出すと、手紙がそれに応える。
「恐らく、水月さんとレイさんは朝さんと待ち合わせをしていたんだと思う。けれど朝さんは来ない」
「そのうえ最近のその四天王お姉さんは様子が変なんだと。確かにぼくたちが会ったときも変だったね?」
遥がそういうと、三人の間に沈黙が流れた。
その頃には水月とレイの会話も終わったようで、二人は手紙たちに近付いてくる。そして水月が再度手紙に確認した。
「何度もごめんね、朝はあっちにいったんだよね?」
そう言って、水月は北東にある『工業地帯の要塞』のフィールド方面を指差す。その方向で間違いないと手紙が伝えると、水月とレイが頷いた。
「君たち、ありがとう。それじゃあ僕とレイは朝を探しに行ってくるね!」
「…礼は言う」
手を振りながら去る水月と、すでに背を向けたレイは北東に向け足を進める。
しかし手紙は切手と遥にアイコンタクトをしてから、二人を呼び止めた。
「ちょっと待ってください! 朝さんを探すなら手伝います!」
手紙の声に、二人はぴたりと足を止める。そして水月がいつもの笑顔で首を横に振った。
「ありがとう。でも大丈夫だよ」
「でも、俺の特技なら人探しには向いていますし…!」
早口かつ簡単に、手紙は四天王の二人に自分の特技を伝える。するとレイが小さな声で呟いた。
「“捜索”か…。珍しい特技だな」
「え、そうなんですか?」
むしろ自分の特技はありふれていると思っていた手紙は、反射的に聞き返す。
「ああ。多くの特技は戦闘用に作られているはずだ。だがその“捜索”は、直接戦闘には関係ないだろう」
「え、でも俺は戦闘でもこの特技使いますよ」
「それは応用を利かせているからじゃないのか? つまり自分の特技を活かせている証拠だ」
あまりにも素っ気ない口調ですぐには気付かなかったが、手紙は誉められていたらしい。
その間、ずっと考え事をしていた水月がやっと口を開いた。
「じゃあ、朝を探すのをお願いしようかな。そのかわり、君たちのゲームオーバーのリスク回避のためにも…レイ」
水月はレイの名を呼び、それ以上のことは言わない。しかし、レイはすべてを理解したようである。
「…わかっている。おまえら、名前はなんて言う?」
「俺は手紙です」
「僕は湯家切手です」
「ぼくは加七遥、だね」
今更ながらに手紙たちは名乗っても、レイは表情を変えることはない。
「改めるが、俺はレイ・ユーガだ。朝を探す間、俺も同行させてもらう」
「ええっ?! い、いいんですか?」
思わず切手が聞き返す。
体力値の回復ができる医療術士が仲間になることほど、心強いものはない。しかもそれが医療術士最強と呼ばれている人なら、尚更だ。
「こちらが頼んでいる身だからな。…あと、俺に敬語や敬称は不要だ」
「へー? 寛大なお兄さんだね」
遥が意外そうにしていると、レイが首を横に振った。
「そういうわけじゃない。…そのお兄さんっていうのもやめろ」
「はーい」
素直なのか、からかっているのか分からない遥の返事にも、レイは突っかかることはない。
この子たちとレイ、相性はどうなんだろう? レイはいい奴だけど、誤解を受けやすいからなあ…。
心の中で水月はレイの心配をしながらも、頃合いを見て四人と別れることにする。
どんどん離れていく四人の背中を、水月は消えるまで見守っていた。
「…なんだか、このごろ悪い予感しかしないんだよね」




