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聖峰の要  作者: くるなし頼
第一章 集う仲間
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十数年前

手紙と砂記を包む煙が綺麗に晴れたとき、彼らの仲間たちが見たものは衝撃的なものだった。


「手紙!!」


「砂記!!」


仲間たちがそれぞれの名を叫ぶ。


その視線の先にあるのは光に包まれて消えていく砂記と、その場にしゃがみこんで悲しそうにする手紙の姿だった。


手紙は空へと向かっていく光を名残惜しそうに目で追っている。その心理を知らない遥は、ごく自然に呆れていた。


「なにしてんの、あの人は」


ぼそりと呟いた遥の言葉を、桐姫は完全に無視している。というより、砂記が負けたことがとても衝撃的だったのか、目を見開いて固まっていた。


その隙をついて、遥はひっそりと自身のAPを回復する。



静かな二人に対し、意外なことにも騒がしくなったのはリューザだった。


「そんな…砂記! 砂記!」


信じられないと言ったように、リューザは砂記の名を叫ぶ。そんな取り乱した彼のすぐそばにいた切手は、ひとり黙り込んでいた。


「…」


そっか。僕たちからしたら砂記は所詮ゲームオーバーしただけだけど、ゲームキャラクターのこの子にとっては、その重さが違うのかな…。



切手はリューザに向けていた視線を、ゆっくりと手紙に向ける。



手紙もなんか変なんだよね。確かに一時期仲間であった砂記を倒したのは、手紙にとって心底喜べることじゃないだろうけどさ。でも、手紙は砂記の負けをかなり悔やんでるような…?



切手は考えを巡らす。



するとそちらに気を取られすぎた切手は、怒り狂ったリューザが手紙に向かっていくことに、全く気が付けなかった。










「親父…俺はあんたのこと、理解出来ない」


十数年前のこと。

まだ学生だった砂記は、父親の英才教育に耐えきれず家を出た。


当時の彼には行く当ても、頼れる人にも心当たりはなかった。父親の弟がカタヤ公国に居るのは知っていたが、砂記が居るのはアルシィス国。外国へと出る手段すらよく分からない彼には、頼るすべがない。



それを分かっていても、砂記は家を出たかった。


なぜなら苦しかったから。そして砂記は父親の英才教育を受け止められるほど、自分が天才ではないと分かっていたからだ。


ならば努力を重ねて秀才になればいい。そう考えもしたが、父親から教わる知識は、自分にとって興味すら持てないもの。それにもかかわらず叩き込むように知識を詰め込もうとする生活に、嫌気がさした。



家という居場所を失い、開放感に浸る間もなく、砂記の心には不安がよぎる。それでも生き続けていくことを選んだとき、目の前に白衣を着た男が現れた。



この男こそ、リョクアである。



リョクアは居場所を失い、自分の父親に良い感情をもたない少年を、保護した。


そして保護された砂記はリョクアの家で、まだ幼い桐姫と出会う。


砂記はその時リョクアと桐姫の過去を聞き、ただでさえ父親が関わるが故に、良い印象を持たない電子都市リアリスを恨むようになった。




それから、数年後。




電子都市リアリスを乗っ取る作戦準備が裏で進み始めた頃には、砂記は二十歳になっていた。そして自分の役割をこなすために電子都市リアリスを利用するようになったある日、砂記は現実世界でひとりの少年と出会う。


「おい、大丈夫か?」


暗い路地裏で衰弱しきった少年は、小学生くらいに見えた。砂記が慌てて駆け寄ると、少年は弱々しい声で何かを呟く。しかしそれは砂記には届かない。


「待っていろ…!」


家出した時の自分と、この少年を重ねてしまった砂記は、急いで少年を病院に連れて行った。



そして少年が回復し退院した日のこと。


家を追い出され、居場所がないという少年を砂記が引き取ることになった。もちろん、リョクアも了承済である。


「お前も、苦しんだんだな」


「…ううん。僕に能力が無いのが悪いんです」


「?」


自嘲するように吐き捨てた少年に向けて、砂記は首を傾げる。


「あっ、すみません。その、ちょっと事情がありまして」


少年は慌てて弱々しい笑顔を見せた。


「…? まあ、構わないが。そういえば、お前の名前はなんて言うんだ?」


「僕ですか? 僕は伊田(いだ)空夜(そらや)です。えっと、お兄さんは?」


「俺か? そうだな…俺は───」


糸部という名字をまだ持っていなかった彼は、父親と同じ名字を語ることにする。しかしその名を聞いた空夜は、目を見開き、足を一歩後ろへと後退させた。


「………え? …ど、どうして、その名を?」


異常なほど動揺した空夜の顔色は、よく見るとそんなに良くない。

彼の異様さに気付いた砂記が、心配した顔を見せた。


「どうした?」


「あ。…いえ。その…僕、あなたと同じ名字の人の元に居たんです。その人の名は右鋭っていう人なんですが」


「…!?」


やっと空夜が落ち着きを取り戻したかと思えば、今度は砂記が動揺し始める。それはもちろん、空夜が父の名を口走ったからだ。


「嫌ならいい。お前が構わないなら、お前と右鋭のことを教えてくれないか?」



こうして砂記は空夜から実家の話を聞くことになる。



「……と言うことで、右鋭は子どもに英才教育を受けさせ、優秀な子だけを残していったんです」


「…」


「僕が落選したことで…恐らく最終候補として三人残ります。


 ひとりは『雨冴(あまさえ)サクラ』という、三人の中で能力が一番低くも、右鋭に忠実な少年です。


 二人目は『飛止(ひどめ)水都子(みとこ)』という、最年長者。能力はサクラより高いけど、右鋭に対して、そこまで忠実ではないんです。むしろ嫌っているといっても過言じゃありません」


空夜は砂記が聞きやすいように、ゆっくり話してくれた。そんな気遣いすら、今の砂記には辛いものでしかない。


そんな彼の心情など知るよしもない空夜は、三人目の説明を始めた。


「最後は僕とも仲が良かった『鈴店手紙』です。彼は右鋭の弟の息子で、水都子より能力は高いです。ただ右鋭のことは苦手らしく、彼が関わるとなると精神的が不安定になることがマイナスになっているようでした」


「右鋭の…弟の息子?」


つまり、砂記のいとこである。


空夜は自分が言っていたとおり、手紙と本当に仲が良かったらしく、彼のことを良く知っていた。


彼の口から語られるいとこの情報は、どんどん砂記の心を苦しめていく。




そして『彼』との出会いは作戦が開始してからのことだ。


電子都市リアリスを封鎖した日。

四天王の演説を聞きながら、不審な奴が居ないかこっそり辺りを見回っていたときのこと。四天王の桜城水月が頭が痛くなるような、専門用語すら入り交じる持論を述べ始めていた。

周りの人間が頭に?マークを浮かべるなか、近くにいた一人の少年はそれを理解し、分かりやすいように説明をしている。



…変なガキだな。



それが、砂記の第一印象だった。

念のため演説が終わった後もその少年を監視していると、少年は友人となにやらベンチで話し始めている。


当初の感想は、仲がいいな、とか、幼いな、とかだけであった。しかしその少年の友人が発した単語に、砂記は思わず目を見開くことになる。


「…あれ?もしかして手紙、僕と意見違った?」



『手紙』。


人の子の名前にしては珍しい名を、砂記が忘れるわけがない。


思わず少年たちに駆け寄ろうとしたが、先に二人の少年はフィールドへと消えてしまった。まだ収まることのない動揺に襲われていた砂記は、そんな少年たちの後を追う少女に気付く。


そして気付いたときには、もうその腕を掴んでいたらしい。


「…あ?キミ、ちょっと待て」


適当な理由を付けて、この少女から少年のことを聞き出そうと砂記は考えた。

だが少女には結局、逃げられてしまう。


「あの二人は、つけられていそうだな…」


少年たちが消えた方向を見て、砂記は呟く。



もしあの少年たちが、俺が思うような奴だったら、きっと『アイツ』は彼らに付きまとうだろう。


正直、俺はあの少年に…手紙にどんな顔をして会えばいいのか分からない。しかし作戦を遂行するためには、正体は明かせない。


それなら…。




砂記は強い意思を秘め、少年たちが居るフィールドへど走り出した。




空夜と同じように、俺たちの元へ保護してやる。それが右鋭から手紙を守れる、唯一の手段だ…!

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