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聖峰の要  作者: くるなし頼
第一章 集う仲間
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ひとりの戦い

新しく来たフィールド。

そこでストーリークリアの第一歩を踏み出せた手紙たち。


その中心的存在である手紙が、険しい顔で警告をした。


「気をつけて! あいつらがここにいる!」


その声と共に、手紙の指先は北東に向けられる。そこに人影はまだ見えない。しかし移動するように流れる赤い溶岩を背に、大きな岩がそこら中に散乱しているため、死角は多かった。



『あいつら』という人物に思い当たりのある切手と遥は、急いで武器を構える。


二本の剣先を手紙が示した方向に向け、切手はその場所を鋭く睨んだ。


「手紙は“捜索”で奴らを監視していて!」


同じく真剣な顔つきを見せる遥も、黙って四本のナイフを手にして警戒を強めている。



手紙は“捜索”により敵の位置を注意深く探り始めた。



「ここから北東の方に三人で固まっている。だけどその中に敵を操れる『あいつ』がいるから気をつけた方が良いかも」


《また…厄介な特技だねぇ》


「え…」


突然、手紙にあの不思議な声が聞こえてきた。


手紙はその声に、完全に意表を突かれたらしい。

彼が浮かべる表情は、心底驚いた人のものだった。


「どうしたのさ?」


手紙の変化に気付いた切手が、親友の顔を覗き込む。


「いや、最近変な声が聞こえることがたまにあって」


「変な声?」


「うん。前は聞こえづらかったんだけど、今のは良く聞こえたような…」


しかし考える間もなく、周りにいる敵達が手紙たち目掛けて襲ってきた。その数は通常、フィールドを徘徊している敵の数と比べものにならないほど大量である。


つまり、敵を操れる者がいる『あいつら』に手紙たちの存在が気付かれてしまったらしい。


「…ちっ」


悔しそうに舌打ちした遥は、一瞬にしてその場から消えていく。そして地上から十メートルほど離れた場所に現れ、敵の様子をその目で確認した。


「うわっ、こっちに向かって走ってきてる」


落下しながら、遥は難しい顔をする。途中でまた“瞬間移動”ですぐに地上へと戻ると、どんどん沸いてくる雑魚の敵をナイフを投げて倒し始めた。





砂記に桐姫に新顔のリューザ。

その三人は走りながら互いに顔を合わせると軽く頷き、再び前を向く。


「では計画通りに」


ぼそりと桐姫が呟くと、砂記とリューザは無言のまま彼女から離れていった。





どうしてわざわざ雑魚を放ったんだろう?

僕は前衛で前に出るし、遥は“瞬間移動”を使ったりするから神出鬼没に現れる。手紙は後衛だし僕らとかなり距離があるから、まとめて片付けるのには効率悪いと思うんだけど…。



雑魚を片付けている切手は、だんだんと何かいやな予感がしていた。


「違う……もしかして、バラバラにするのが狙いなんじゃ…!」


「なに独りごと言ってんの?」


近くに現れた遥が、不審な目で切手を見る。


その様子を遠くから眺める手紙は、なぜかそれを微笑ましそうに眺めていた。しかし自分に向かって走ってくる砂記を視界にとらえると、急いで弓を引く。


「ふん…」


砂記は射られた矢を几帳面に槍で叩き落とし、手紙へと向かっていった。


もちろん、そんなことを切手と遥が許すはずがない。


「通さないよ!」


切手が両手にある剣を砂記に向けながら、目の前に立ちはだかる。しかし、砂記の目には切手など入っていなかった。


その口が、小さく動く。


「頼むぞ」


「はーいはい」


気だるそうな声が聞こえたかと思うと、切手は右横から蹴りを食らっていた。


「えっ…いつの間に?!」


驚く暇もなく、切手は蹴り飛ばされ宙を舞う。その最中に見えたのは、片足は地面に着いているのに、もう片方は自分の頭よりはるか上に上げるリューザの足だった。


「ふーん…。弱くないこの人? このチームのアタッカーって聞いてたけど、意外に」


前と同じく、彼の変わった口調は健在である。高く上がった足を下げると、リューザは気を抜いたように欠伸をしていた。


気付けばあの大量な雑魚の敵の姿は、もう見えない。


「『弱くないこの人?』って、別にあんたも強くないでしょ?」


怒りを交えながら“瞬間移動”によりリューザの背後へ回った遥が、ナイフを彼の胴体めがけて投げつける。


「んー?」


全くかわす気すら見せないリューザは、顔半分のみ遥を向け、横目で遥と目を合わせた。


「?!」


…なんだろう、この、違和感…。



遥はリューザのその冷たい瞳を見たとき、なぜか動揺してしまった。そしてその瞳から感じた違和感に囚われそうなとき、手紙の声に救われる。


「遥、危ない!」


「…っ!」


間一髪で、遥は空中へと移動し危機を免れる。


「逃げられましたか」


先ほどまで遥が居た地面には、桐姫の得物である斧が直撃していた。

その様子を見た遥は、興味深そうな笑みを浮かべて地上へと足を着ける。


「へぇ…。あの自己犠牲精神のお姉さんか」


そんな彼を無言で睨む桐姫は、斧を持ち直しその矛先を向けた。


リューザが切手に、桐姫が遥に戦いを挑んだため、手紙の元には砂記が真っ直ぐに向かうことができた。なんとか矢で追い払おうとしても、砂記はすべて矢をはねのけてしまう。


「手紙、弓使いの欠点を知っているか?」


「…? えーと…あ! 矢にお金がかかること、とか」


「違う。接近戦が苦手なことだ」


「…!」


ついに目の前に来た砂記は、手に持つ槍を手紙に向けた。


「弓は矢を射るのに時間がかかる。それは、接近戦において致命的なんだよ」





「やっぱり…!」


僕らの強みは個々の強さじゃなく、チームの強み。…個人戦にしたら向こうが有利ってことかな。



悔しそうにする切手が、リューザに切りかかりながら舌打ちした。特に個人戦が苦手そうな手紙を助けに行きたいと、切手は常に隙をうかがう。

しかし柔軟に動き回り、次の手を予測させないリューザから、切手は逃げられない。




一方の遥も、切手と同じく相手の罠にはまったことに気付いていた。


「憎いことするね? でも悪いけど、ぼくはひとりでも割と強いよ?」


彼らしい薄ら笑いを見せ、近くにいる桐姫に向けて攻撃魔法の準備を始める。


「そうでしたか。ですから、あなたの相手は私なのでしょうね」


桐姫は無関心そうにそう話すと、斧を軽々と振り上げて、遥に向かって勢いよく下ろす。

魔法攻撃の準備中の遥は隙だらけ。桐姫はそう思ったが、遥はその場からすぐにいなくなり、余裕で桐姫の攻撃をよけた。


「確かに君は、ぼくより強いんだろうね。でも、それは数値上の話。こんなフェイクに気付けないくらいなんだからさ?」


「魔法を使うふりをして、本当は逃げるつもりでしたか」


「逃げる? ははっ、違うよ。攻撃するに決まってんじゃん」


遥は“瞬間移動”により桐姫の背後にいた。そしてナイフを素早く投げつけると同時に、やや強い口調で言葉を発していた。


「あんた、電子都市リアリスは初心者でしょ? ただ、敵のデータの何とかだけで強くなっただけなんだよね?」


「…そうですね」


ナイフを避けきれずまともに受けた桐姫は、よろめきながらも自分のペースを崩さなかった。


「さすがは『加七遥』と言ったところでしょうか」


少し苦しそうにしたもののすぐに落ち着き、桐姫は斧を持ちつつ遥に向かっていく。その目には強い使命感が表れていた。



…私の役割は、あくまで時間稼ぎ。

加七遥の特技の性質と戦闘方法からして、大勢でたたみかけた方が勝機がある。だから、早くあの二人を倒してもらわなくては…。



桐姫はちらりと二人を見た。


リューザと切手は互角に戦っているように見える。細かく言うと二人は攻撃を仕掛けては避けることを繰り返していた。



そしてもう一組を盗み見る。


正直、弓使いが接近戦で勝てるなど誰も思ってはいない。そのため手紙が一番に負けると誰もが思っていた。


「…え?」


しかしそこに見えた光景は、桐姫が頭に描いていたものと違う。


手紙と戦う砂記は、驚きを通り越し思わず微笑んでしまっている。


「お前の発想は本当に規格外だな」


「そう?」


手紙はただ、弓だけを手にしていた。


「だって矢を射る暇ないし。矢だけで戦うのも有りだけど、矢は消耗品だから一度でも敵に当たると消えるし。だったら、弓だけで戦うのが妥当だと思うけど」


話しながらも手紙は、弓の湾曲した部分を持ち、弦で標的を切るように左から右へと素早く弓を動かす。それはまるで剣を振るうような動きだった。


だが槍の長さはそこそこあるため、砂記の攻撃を避けてからでは、手紙の攻撃もなかなか届きにくい。


「電子都市リアリスの特徴を良く応用した選択だ…。来い、『鈴店手紙』。本気でお前を電子都市リアリスから追い出してやる!」


「…!」


砂記も手紙も、真剣な顔つきへと変わっていった。

やっと第一章の終わりが見えてきました。

あと十話以内で第一章はなんとか纏まりそうです。



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