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聖峰の要  作者: くるなし頼
第一章 集う仲間
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溶岩の倉庫

溶岩の倉庫。


それは名前の通り、溶岩が川のように流れるフィールドである。もちろんゲームの世界であるためその溶岩に危険性は無いが、人間の本能から恐怖を感じてしまう。


そしてなにより、ぐつぐつと音をたてる景色からついこんな言葉が零れる。


「暑い…暑くないけど」


「うん、熱いよね…熱くないけど」


手紙と切手はぐだぐだと意味のない会話を交わす。もちろん雪原と同じように、電子都市リアリスでは温度を感じることはない。


「ほら、いいから“捜索”つかってよ」


呆れている遥が催促すると、手紙はつまらなさそうに返事をした。


「はいはい。…うーん、ハチノコや雪だるまと同じような『ストーリーが付く以前は居ない』かつ『フィールドの中で一番でかくて強そう』なのは、っと」


手紙の頭の中に、溶岩の倉庫のフィールドの簡単な地図が浮かび上がる。その地図上に現れる敵や味方の印に、その名前。

手紙はその中から、見たこともない敵の名前を見つけた。


「いた。フィールドの中央に『火だるま』がいる!」


「また変な名前だね…」


「切手、そこが電子都市リアリスのクオリティだって!」


張り切った口調で弓を手にした手紙は、道案内のために先陣を切って走り出す。そんな無茶をする後衛戦士の行動に、慌てて二人はついていく。


「待ってよ、手紙!」


「ちょっと! 防御力の低い後衛戦士が先陣きるなって!」


切手と遥が手紙に追い付きながら苦情を漏らす。しかし仲間の一言二言を、手紙は笑顔で一蹴した。


「なーにいってんだって。能力値(ステータス)的には、俺が一番防御力高いじゃん」


「う…」


痛いところを突かれた切手は言葉に詰まった。確かに回避メインの切手と、術士かつ回避に特化した遥は防御力を顧みない。


そうこうしているうちに、三人は目的地へと辿り着いた。


「ああ…なるほど。火だるまだね」


さっそく標的を見つけた遥が、溜め息混じりに呟く。



──火だるま。


それはまさかの、ついこの間見たようなあの雪だるまの赤バージョン。身体の大きさは軽自動車を三台重ねたほどの大きさである。そしてその全身は炎に包まれ、見ているだけで暑くなりそうだった。



三人は各々武器を取り出すと、同時に頷いた。すると手紙が声を張り、切手と遥もそれに続く。


「よし、行こう!」


「うん!」


「了解」


まず切手が二本の剣で切りかかり、最初のダメージを与える。火だるまからカウンターを受けないように、数回切り刻んだ後は背後に跳んで距離を置いた。


想定通り、切手に狙いを定めた火だるまはどんどん距離を詰めていく。そして攻撃をしようと燃える腕を切手に向けた瞬間、無数の矢が火だるまの胴体を直撃した。


「恐ろしきコンビネーションだね」


小さい声と共に、遥は笑顔をこぼす。


切手の初めの攻撃時からずっと魔法攻撃の準備をしてきた遥は、狙いを定めるとすぐにそれを放つ。



遥の手にある投げナイフから発生したのは、大きな竜巻。その竜巻はみるみるうちに大きくなり、火だるまの元へ勢いよく向かっていった。


「すっげー!」


手紙がその竜巻の大きさに感嘆したとき、火だるまを容易に包むほどにまで進化した竜巻は、火だるまに大ダメージを与えて消えていく。


その後、遥は時々“瞬間移動”でナイフを投げたりするも、どちらかというと魔法攻撃をメインにしていた。


「…? あれ? 戦法変えた?」


その変化に気付いた切手は、きょとんとしながらも思わず遥に訊く。


「まーね。こういう敵の場合、ぼくは魔法攻撃にシフトした方が良いと思って。…君の親友に昨日色々言われたしね」


口ではふてくされたように言っているが、遥の顔には毒気の無い笑みが浮かんでいる。それで全てを察した切手も、思わず笑顔を向けた。


「なるほどね。皆で戦おうとしてくれていると?」


「…文句ある?」


遥が本気で苛立ちを見せ始めたため、切手は慌てて首を横に振る。


「まさか! …強いて言えば、手紙に文句はあるかな」


「え?」


「人を変える前に、彼自身を早く変えてしまえば良いのにね…」


「…」


手紙自身が変わる、か。

さっさと酷い叔父さんを見捨てろってことかな? それとも、何か他にも?



切手の意味深な言葉について、遥は考えを巡らせた。しかしその間に火だるまは倒れ、手紙が近付いてくる。


「二人とも、お疲れ!」


元気の良い手紙を目の当たりにする。すると遥は考えの結論の必要性が分からなくなり、すぐに思考を止めた。


「お疲れ。…それで切手、例の物は?」


「うん。あったよ!」


火だるまの一番近くにいた切手が、倒した火だるまが落としたものを拾い上げる。それを二人の前に差し出し、手の中にある赤い丸い石を見せた。


「的中か。やっぱりストーリーが付いてから現れた強い敵は、かなりのキーキャラクターだったんだね。こいつらを倒していけば、このキーアイテムが手には入りそう」


腕を組んだ遥は、石を見ながらぶつぶつと呟く。その言葉を隣で聞いていた切手も、同じ意見なのか深く頷いていた。


「うん。僕もそう思う。しかもこの丸い石を持っている強めの敵は、各フィールドに一匹くらいの割合かもね」


「ってことは全部のフィールド回んなきゃ行けないのか。だるいなあ」


切手と遥が推論を立てるが、ゲームのお約束などを知らない手紙は押し黙るしかなかった。

しかしふと疑問を思い出したのか、長い間閉じていた口を開く。


「そういえば、俺と遥が雪原で雪だるまと戦っていた時、切手も同じ雪だるまと戦ってたよな? ひとりで勝ったってこと?」


「ううん。通りすがりの変な二人組が助けに入ってくれたんだ。雪だるまが落としたアイテムも、その二人に渡しちゃった」


そういえば自分が雪原のフィールドに来たとき、二人の先客が居たな…。と手紙は納得した。

だが切手の不審な単語を聞き逃さなかった遥は、不思議そうにしている。


「『変な』って?」


「うーん。大きな剣を使う男子と、銃を使う女子の二人組だったんだけどさ。女子の方の性格が初めて見るタイプだったんだよね…」


そこまで言われると、どんな性格の女子なのか気になってしまう。手紙と遥が詳しい説明を求めると、切手は唸りながら言葉を上げていく。


「短気…いや、気が強い? それでいて優しさを見せたり、こっちを睨んだと思ったら、仲間の方には満面の笑みを見せたり…」


ぐだぐだと特徴の述べていくうちに、とうとう切手が顔の前で手を合わせた。


「ごめん。上手く言い表せないや」


「まあ、いつかまた会えるかもしれないし。…それに、俺たちのやるべきことも定まった、んだよな?」


手紙は二人の顔を交互に見て、同意を求める。


「うん。とにかくたくさんのフィールドを回って、強い敵を倒して丸い石を集めよう」


「ま、そうしていればその次にやることも見えてくると思うよ」


切手と遥も強く頷き、三人の視線は新しいフィールドへと向けられた。




まさに、その時。


「…あ」


癖で使った特技の“捜索”。それにより確認できた因果の三人の名を、手紙は見つけてしまった。

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