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聖峰の要  作者: くるなし頼
第一章 集う仲間
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戦闘機

「クワナ、クワナは居るか?」


白衣を着た中年の男性が、プリントを片手に辺りを見回していた。

白い外装の三階建ての建物の、地下二階の長い廊下。空気の循環を機械に任せきった空間を、白衣の男は足早に歩く。


コンクリートの壁や床、そして天井は足音を響かせる。おかげで動き回る者がいれば、どこにいても分かった。


白衣の男も例外ではなく、足音をたてて歩いている。時々、走り回る幼い子供とすれ違っては、目で追って溜め息をつく。


どうやら、目的の『クワナ』に会えないらしい。



ここは学校の校舎からドアを全て取り上げたような造りになっており、廊下を真っ直ぐ歩き、左右を見ると広い部屋がある。その部屋にドアは無いため、足を踏み入れることも容易だった。


廊下を歩き、広い部屋を覗いては、中にいる子供たちから目的の人物を探す。それを繰り返したが、やはりクワナは見つからない。


とうとう男が探していない部屋が、残り一つになった。男は中を覗くと、大きく口を動かして声を張る。


「クワナ、クワナはいるか?!」


中にいた五人ほどの子供が、大きな声に驚いて一斉に男を見た。そして一足遅れて、部屋の隅で読書をしていた小さな少年が顔を上げる。


「クワナ、ここにいたか」


男は嬉しそうに、大きく口を動かして話した。するとクワナと呼ばれた少年はにこりと笑い、床に本を置く。


「ぼくはここにいるよ」


「そうか。健康診断の時間だ。こっちへおいで」


ゆっくりと話す男の顔を、クワナはじっと見ていた。そして男が話し終わると、クワナは静かに頷く。


「また、良くない結果かな?」







手紙と口論している遥は、なぜか頭の中で昔の思い出が蘇っていた。



なんで、あんな時の記憶が?


疑問に思いつつも、遥の体は桐姫と砂記と戦い、言葉は手紙と戦う。


「だからさ。手紙みたいなサポートメインの後衛戦士を置いていくより、前衛のぼくが残った方が…」


「でもお前も一人だとゲームオーバーになるだろ、絶対」


「まぁね。でも運が良ければ、負けることはないかも」


「なら切手が早く来ることを祈って、俺も残る!」


「あーもー、だからさ!なんでそんな不確かなことに賭けるわけ?」


「お前も運だの何だの言ってたじゃん」


終わりの見えない二人の口論は、意外にも戦闘と両立されていた。


砂記が魔法攻撃の準備をしようとすれば、手紙が矢で阻止する。そんな手紙を、桐姫が斧で狙えば“瞬間移動”した遥が攻撃を受け止めた。


しかし手紙と遥は防戦のみでいっぱいいっぱいだった。その証拠に、桐姫が来てから手紙たちは一切攻撃をしていない。



だからこそ手紙は二人で協力し、この場を切り抜けようと考えた。だが遥は二人とも負けるくらいなら、手紙だけでも逃がそうという考えだった。



この二人の意見の対立は、終わりの見えないものだと誰もが思っていた。



イライラを募らせた遥が、背中合わせになった手紙に問いかける。


「確かにさ、このフィールドに切手は来るよ?行き先は決めてたし。でも迷いやすいこの雪場のこの場所に、切手がたどり着けると思う?」


「まあ、普通なら難しいよな」


「でしょ?!」


先が見えるようで見えない口喧嘩に、砂記が思わず溜め息をついた。


「なんなんだよ、お前ら…」


呆れる砂記をよそに、意外にも桐姫はにこやかに笑う。


「ふふっ、いいじゃないですか。これもある種の友情なのでしょう」


笑顔とは裏腹に、桐姫の攻撃は容赦がない。地を軽く蹴り飛び上がると、落ちる勢いを利用し、斧を手紙に向かって振り下ろす。

手紙は慌てて後ろに跳びそれを避けるが、斧が地面に突き刺さり発生した揺れにより体のバランスを崩した。


「すごい力だなー…」


体勢を整えて弓で矢を射るが、桐姫は全てを斧で切り落としてしまう。悔しくなり怒濤の早さで矢を放っても、避けられる。


「だから早く応援を呼んでって」


舌打ちしながら、遥は手紙にそう言い放つ。


「大丈夫だって。切手も応援もしっかり来るから」


「なんでそんな断言できるの?」


砂記と戦いつつ、手紙を睨みつける遥。そんな彼に対し、手紙は堂々としていた。


「それは、俺だからだ!」


「…意味わかんない」


「だから、俺だからだって」


「はぁ?手紙はただの弓使う後衛戦士でしょ?それでもってお人好しなのか、頭良いのか、馬鹿なのか、単純なのか微妙な奴で、特技(スキル)だって…………あ」


自分で言ったあと、遥は大きく目を見開いた。



そっか、手紙の特技はフィールド内にいるゲームプレーヤーや敵を把握できる“捜索”!

確かゲームプレーヤーの名前とかも分かるとか言ってたし、本当に切手が応援を連れてこの場所に?


遥は思わず手紙を見た。すると笑みを含めた顔で、手紙は頷く。


「な?」


「…わかったけど、すっごくむかつく。ナイフ投げて良い?」


「だめだから!」


振り上げられた遥の手を止め、手紙はほっ、と溜め息をつく。表情は苦笑いしているが、手紙の全神経は特技に注がれていた。


“捜索”を使い、見えてきたこのフィールドの様子。それは入り口で立ち止まる切手と“捜索”でも追いきれないスピードでフィールドを駆け巡る、とある人物だった。



すると駆け回っていた人物の足が、ぴたりと止まる。

その理由はもちろん、手紙たちを見つけたからだ。


「あははっ!すごいや!」


応援に来てくれたことを嬉しく思い、手紙は笑ってしまった。

事情を知らない桐姫と砂記は、手紙を不審な目で見る。


「…?」


「…変な人ですね」


そんな冷たい視線をはねのけ、手紙は大きな声で遥に指示を出した。


「しゃがんで!」


声と同時に手紙は膝を地面につけ、体勢を低くする。遥も急いでそれに倣った。

すると途端に、山の上から複数の銃声が鳴り響く。


「うっ…」


「な、なんです?!」


不意打ちのため攻撃を避けきれなかった砂記と桐姫は、体力値を大幅に削られてしまった。すぐに回復薬らしきものを使っていたが、未だになにが起こったのか分かっていないらしい。


銃声が鳴り終えた後、桐姫と砂記は銃の主の姿を目で捉え、やっと理解できた。


「四天王の桜城水月…!」


恨めしそうな声で砂記が銃の主の名を呼ぶと、水月はにこりと微笑む。その右腕には見るからに重そうな、土管を彷彿とさせる漆黒のマシンガンを抱えており、左手で支えられていた。


直径にして五十センチメートルを越えるであろうこのマシンガンに、弾を素早く入れ替えた水月は、再び桐姫たちにその銃弾を浴びせた。


「くっ…これは!」


「さすが四天王です。コントロールも威力も飛び抜けていらっしゃいます」


冷静な分析をする桐姫でさえ、避けることに精一杯だった。

そんななか、一瞬の隙を見つけた砂記が一気に水月は距離を詰め出す。


「よっ、と」


砂記に気付いた水月は、マシンガンを軽々としまう。すると今度はもっとゴツい武器を取り出した。

角張った外形の二つの荷電粒子(ビーム)砲を両の肩に担ぎベルトで固定し、さらに肩から提げられ腰のあたりに銃口をもつ円柱状の武器も二つ取り出した。

抜かりはないと言わんばかりに、両手の甲に固定された、一瞬手袋にも見えなくはない拳銃レベルの銃器をつける。


計六個の武器を身につけた水月は、やはり優しい笑顔のままだ。


「僕は接近戦は苦手だから、近付けさせないよ」


そう言いながら、肩に担がれた二つビーム砲を一斉に発射した。光の速さで発射されたビームはフィールドの遥か遠くまで届き、その直線上にいた敵を一瞬にして殲滅させる。


なんとか回避が間に合った砂記は、その威力に動揺を隠せなかった。



後衛戦士ながら圧倒的な火力を持つ兵器を複数使いこなし、外見と戦果共に戦場で存在感を持つ水月。それゆえに本来は移動速度が遅いが、それを特技の“神速(アタランテー)”でカバーしており、機動性も高い。


…これが四天王の力だった。




一方、離れた場所に移動した手紙と遥は、呆然としていた。自分達があんなに苦戦していた敵が、四天王の手に掛かるとあんなにも弱く見えてしまうのかと、動揺が隠せない。


そんななか、ふと手紙はあることを思い出していた。


「…俺の知り合いがさ」


「…うん」


「四天王全員の戦いを見たことあるって言ってさ」


「うん」


「どんなのだった?って聞いたら」


「聞いたら?」


「朝さんは『破壊神』。医療術士のレイ・ユーガは『死神』。前衛戦士は『殺人鬼』」


「…」


「水月さんは『戦闘機』」


「…。四天王って……」

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