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聖峰の要  作者: くるなし頼
第一章 集う仲間
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二人の確信

「わっ、あぶな」


手紙の攻撃は砂記に通るようになったものの、たまに遥にあたりそうになり、手紙は一人冷や冷やしていた。


当の遥は手紙に背中を向けているため、そんなことが起きていることなど知らない。むしろ知ったとしても、皮肉を言うのは口だけだと思われる。



「…!」


砂記が一瞬だけ、厳しい目つきになった。


それを見逃さなかった遥は、自分と手紙の攻撃を避けることに限界がきていることを悟る。


「よっと」


ナイフをいつもよりテンポを速め、三本ほど砂記に放り込む。そして少しだけ後ろに下がった遥は、左手にナイフを握ったまま動きを止めた。

なぜ遥がいきなり止まったか分からない手紙は、少し驚く。しかしそんな状態の遥に砂記を近寄らせまいと、とにかく矢を放った。


同じく砂記も初めは驚いていたが、すぐに遥の真意を察して冷や汗を流す。


「おい、まさか!」


「演出のイメージが精密であるほど、威力は高まる。精密なものを練るには時間もかかる。つまり、演出を考える時間と威力は比例する」


手紙の矢に足止めされる砂記に向かい、遥は不気味に笑いかける。


「同じ『攻撃術士』として、ぼくの言いたいことはわかるよね?」


この言葉を言い終えた直後、サッカーボールほどの小さな竜巻が遥の前に現れ、砂記に向かって行った。


それを砂記は必死にかわそうと試みていたが、遥が鼻で笑う。


「魔法攻撃は避けられない。…これも、攻撃術士ならよく知っていることだよね?」


「…ちっ」


小さな竜巻、つまり遥の魔法攻撃は砂記に命中した。魔法攻撃を受けて砂記は後ずさるが、わりと平気そうな顔をしている。



うーん、やっぱり術士だから魔法攻撃に対する防御力は高いか…。


遥は残念に思いながら、仕方なくナイフを数本だけ再び取り出す。そんな彼の後ろの方で、手紙はなにやら感動していた。


「すげー。そういえば遥って攻撃術士だったな」


「まあね。っていうか手紙も使おうと思えば使えるでしょ。術の適性はあるんだし」


「なんかあれ苦手なんだよ。それに職業が術士じゃないから、威力も期待できないし」


砂記を追い込みつつ、二人は雑談をする余裕を見せていた。それにも関わらず、二人の連携の精度が上がっていることに砂記は気付く。


さすがに危機を感じたのか、砂記は撤退を決意した。そして前回同様に、他の場所に移動できる『移動電池』を手に持つ。


「させないよ!」


怪しげに動く砂記の手を見て、手紙は素早く矢を放つ。矢は見事に砂記の手にある移動電池に命中。砂記の手から電池を落とさせた。


砂記は慌てて、地面に落ちた電池に手を伸ばす。


「しまっ…」


「たー。って?遅すぎでしょ」



遥は砂記が言いかけた言葉を引き継ぎつつ、砂記の目の前に“瞬間移動”した。そして不意を付いて砂記を蹴り飛ばし、電池を回収する。


勝つ手段を見出せず、逃げる手段をも失った砂記は、無言で二人を睨んだ。



勝てる気がしない。


それが砂記の正直な意見だった。


砂記の強さは、恐らく手紙よりは上。そして遥と同じくらいだろう。だがその二人が手を組むと、砂記は手も足もでなくなる。




悔しさとも、まだ負けないという意気込みにも見える砂記の強い表情に対し、手紙はふと叔父のことを思い出した。


「…」


苦手な叔父。それでも嫌いになれなかったのは、自分を助けてくれたため。

そしてこの砂記のように、大きな壁を前にしても屈しないところがあるためだった。



すると手紙はひっそりと小さな山に登り始める。


足場が安定するところまで行くと、普段使う弓から大きなものに変えた。そして、右手にはシロクマを射抜いた剣を持つ。


意思の強い砂記に敬意を示すためにも、手紙は自身の必殺技を使おうと考え、剣の矛先を砂記に向ける。



そのころには、砂記は“瞬間移動”を駆使した遥との戦いを再開していた。


「これは勝負。勝ちはもらいます」


弓を引き、砂記に狙いを定める。この声は、遥とスピード感溢れる戦聞をする砂記には届かなかったかもしれないが、手紙はそれで良かった。


素早く、そしてしっかりと手紙は弓で剣を放つ。



しかし、それを許さない人もいた。



「阻止させて貰います」


放たれた剣は、空中で斧に突き落とされてしまった。


「倉成桐姫…!」


思わず、手紙は攻撃の邪魔をした斧の使い手の女性の名を口にする。

桐姫は砂記と遥の近くに着地すると、素早く斧を遥に振り下ろした。


「っと」


よろけながらも、遥は何とかその攻撃を避ける。しかし避けたその先に、砂記の槍が現れた。


「遥!」


手紙の叫び声が響く中、遥は“瞬間移動”を使おうとしたが、なぜか移動ができない。思わず目をつむりつつ腕でガードを作るが、衝撃は来なかった。


「…っ!?」


恐る恐る目を開くと、視界には手紙の背中が広がる。そしてその景色が、槍の矛先を大きな弓で受け止める姿だとすぐに気付いた。


「ちょ、なんで手紙が!?」


「遥!いいから『特力』回復しろ!」


「え、あ、うん」


遥は回復アイテムで特力を回復する。



この『特力』とは、特技または術を使う際に消費される数値である。


例として遥の特技“瞬間移動”は、移動距離一メートルあたり一ポイントの特力を消費する。つまり百メートルの“瞬間移動”には、特力が百も必要になる。

術も同じようなもので、威力が大きく範囲も広げれば、多くの特力を消費してしまう。



ただ特技は、人により特力を消費せず、時間経過や回数限定で与えられるものもある。

三十秒に一度しか使えない切手の“相殺”も、これに当てはまる。



そんな大切な特力が底を尽きた遥は、特技が使えず、砂記からの攻撃を避けられなかった。


遥は回復を済ませた後、槍と弓を押し合う砂記にナイフを投げる。そして近くにいる桐姫に注意しつつ、手紙に話しかけた。


「全く…後衛戦士が前にでないでよ。矢を射ればいいのに」


「武器を替える時間が無かったんだよ。この大きさじゃ、いつもの矢は上手く射れないし」


ちなみに。

回避を主とする切手と遥は、実は防御力は手紙より低かったりする。もちろん手紙も高くはないので、前衛なんてとてもできないが。



遥が動けることを確認すると、手紙は三人から離れようとした。しかし桐姫が斧を振り回すため、なかなか動くタイミングが掴めない。

よって二人は桐姫と砂記の間に挟まれるという、最悪な状況になってしまった。



そんな中、遥が側にいる手紙に小声で話しかける。


「手紙、砂記の隙をついて突破し、中央街の切手を呼んできて」


「…その間、遥は?」


「手紙を追わせないように、二人を足止めする」


淡々と答える遥に対し、手紙は感情的になる。


「却下!遥だけにそんな危険な目に遭わせられない!」


「なに言ってんの?今はそんなこと言ってる場合じゃない!切手を…応援を呼んで!」


「だからって、お前ひとりじゃこの二人の相手は無理だ!」


もちろん桐姫と砂記は二人の雑談を待つことなく攻撃を仕掛ける。

だんだんと声が大きくなる二人のこの口論は、桐姫たちの耳にもしっかり届いていた。



もしかして、この少年は…。


桐姫は口論する遥を見て、一つの確信を持つ。



前から思ってたけど、遥ってやっぱり…。


口論しつつ、手紙も桐姫と同じく確信を持つ。




───加七遥は、自分の身を犠牲にするタイプ…!

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