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聖峰の要  作者: くるなし頼
第一章 集う仲間
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雪の舞う場所で

雪が舞うフィールド。

見通しは悪いが、手紙の特技を使えばゲームプレーヤーや敵の位置なら分かる。


《……は、……ん…て……》


迷うことなく、手紙は“捜索”を使って声の主を探した。


しかし…。


「…?」


近くにゲームプレーヤーのいる気配はない。遠くにこそゲームプレーヤーはいるものの、その人たちは二人組。距離からしても、手紙の居る位置に話しかけることは不可能だった。



それに、なんなんだろう?

この声なにかが変なんだよな…。


悩む手紙は再び“捜索”を使う。すると、このフィールドを自由奔放に、くねくねと駆け回る敵が居ることに気付く。


その敵の軌跡はこのフィールドにある山々を無視するかのように、一定のスピードで移動していることを示していた。


「飛んでる?でも、ここのフィールドに飛行系の敵はいないような…」


他の敵の動きを見てみても、こんな変な動きをするのはこの一つの敵だけ。



《きこえ…る?》



再びあの変な声が手紙に聞こえてきた。


「なにか関係があるのかな……よし!」


思い切って、手紙は走り出す。



見渡す限りの白い世界は、手紙の方向感覚を狂わせた。しかし手紙は“捜索”の特技により、なんとか迷わずにいれる。


しかし、問題はあった。



「いたっ、いたたたっ」


フィールドにいる墓石型の『ハカイシン』や、ゾンビを彷彿とさせる『ゾンビ』が、走り回る手紙に向かって攻撃してくる。



ちなみにお墓のような見た目のハカイシンは、その場から動けない小さな敵。雪に自分の身を隠し、ゲームプレーヤーが近付いてきたら奇襲する、意外な知性派である。


一方のゾンビは人の形をしており、歩くこともできるが速度は遅い。ただし見た目がホラー寄りであるため、人気は低い。



この二つの敵は機動性に劣る反面、攻撃力が高い。それゆえに手紙は出来るだけ敵と遭遇しないよう努力はしていた。



「またゾンビか。…ってハカイシンまで?!」


それでも出てくる敵を、弓で叩き倒さずに怯ませる。いちいち敵にかまっていると、追っている敵に大きく離されてしまうためである。



必死に妙な動きの敵を追っていると、ついに視界に敵の姿がうっすらと見えてきた。しかし次の瞬間、山のせいでその姿を見失う。


そしてまた“捜索”を使おうとしたとき、手紙は敵に背後から狙われていることを察知した。だが応対が間に合わず、手紙の体は前に突き飛ばされる。


「…っ!?」


顔が雪に埋もれるが、急いで上半身だけ起き上げる。地面に手足を着けたまま素早く後ろを振り返ると、手紙の首には槍の矛先が向けられていた。


「ざ、砂記…」


自分に槍を向ける人物の名を、手紙は驚きつつ呼び上げた。


「…」


そんな手紙を砂記は無言で睨みつける。そのまま時が過ぎた後、ついに槍を動かし始めた。


「手紙、さよならだ」


「くっ…」


ぐちゃぐちゃになった手紙の頭は、必死に解決策を探し続ける。



首に一突きか。かなりダメージ大きそうだし、攻撃を受けた後に魔法をぶつけられたら即ゲームオーバーだよな…。

。とにかく、勝機を見つけないと!


溢れる焦りに一度蓋をし、手紙は急いでしゃべりだす。


「あの声は砂記だったの?」


「…声?」


ぴたりと動きを止めた砂記は、怪訝そうな顔で手紙を見た。

なにも知らなさそうで、もしかしたら…という思いあたりがありそうな砂記の表情。そこを突けば声の主に近付けたかもしれないが、今は状況を立て直すことに必死だった。



「はあっ!」


隙を見つけた手紙は、気合いを入れて飛び上がり、なんとか砂記と距離を置く。そして弓を構えると、躊躇わず矢を放った。


しかし手紙と砂記の距離はほんの三メートル程度。槍を使う砂記には、その距離ほどありがたいものはなかった。


すぐに手紙の腕を狙い、槍を突く。


「うっ」


思わず手紙は自分の武器である弓を地面に落としてしまった。弓は地面に落ちると、手紙の手の届かないところまで弾んでいく。


「しまった…!」


この隙を砂記は逃さない。



槍が手紙に襲いかかる、まさにその時。今度は聞き覚えのある声が、はっきりと手紙に届いた。


「手紙ってばかだよね、やっぱり」


カン、と音をたて、槍にナイフがぶつかる。そのおかげで槍の進路は手紙から逸れ、空気を突く。

呆気にとられた砂記が冷静になる前に、手紙は急いで砂記から離れた。


「遥、助かった!」


「はあ…手間かけさせないでよ」


手紙の礼を素っ気なく返した遥は、ナイフを砂記に向かって投げる。それを軽々避けた砂記は後ろに下がり、二人から距離をとった。


「加七遥…よくここがわかったな」


ぼそりと砂記は呟く。

それを無視した遥は、手を休めることなくナイフを投げては“瞬間移動”で移動し、砂記を翻弄させようとしていた。


無事に弓を回収した手紙も、急いで遥に加勢する。


「手紙。ぼくの動きが読めなくて、矢は射れないんじゃないの?」


休むことなく移動する遥は、特技を使いながらも手紙に話しかけた。


「ばれてたんだ。…でも、なんとなく遥の動き、わかった気がする」


「へー、なんで?」


「こいつのおかげだ」


手紙は先ほど落としてしまった弓を、堂々と片手で掲げた。


「…なるほどね」


遥はニヤリと笑みを浮かべる。

その反応を見て、手紙は自分の考えが合っていたことに確信を持った。


本当は今すぐにでもそのことを話して盛り上がりたいところだが、今は戦闘中である。



答え合わせは実戦でと言いたいのか、遥は“瞬間移動”と投げナイフの攻撃を続けていた。



「それじゃ、サポートする!」


決意を固めた手紙は自信を持って、矢を放つ。

その矢を砂記は避けてしまったが、手紙の狙い通りの位置に飛んでくれた。

もちろん、遥に当たることはなく。


「よし!」


嬉しくなった手紙は次々と矢を放っていった。さすがにまだ迷いはあるものの、以前のハチノコ戦のような失態は大幅に減っている。


「…ちっ」


遠くからの矢に、神出鬼没の投げナイフ。

避けたり防いだりするのに必死になった砂記は、魔法はもちろん、槍の攻撃すらできる隙がない。


遥も顔には出さないものの、心の中で嬉しく思っていた。


「手紙、意外とやるじゃん」

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