雪の舞う場所で
雪が舞うフィールド。
見通しは悪いが、手紙の特技を使えばゲームプレーヤーや敵の位置なら分かる。
《……は、……ん…て……》
迷うことなく、手紙は“捜索”を使って声の主を探した。
しかし…。
「…?」
近くにゲームプレーヤーのいる気配はない。遠くにこそゲームプレーヤーはいるものの、その人たちは二人組。距離からしても、手紙の居る位置に話しかけることは不可能だった。
それに、なんなんだろう?
この声なにかが変なんだよな…。
悩む手紙は再び“捜索”を使う。すると、このフィールドを自由奔放に、くねくねと駆け回る敵が居ることに気付く。
その敵の軌跡はこのフィールドにある山々を無視するかのように、一定のスピードで移動していることを示していた。
「飛んでる?でも、ここのフィールドに飛行系の敵はいないような…」
他の敵の動きを見てみても、こんな変な動きをするのはこの一つの敵だけ。
《きこえ…る?》
再びあの変な声が手紙に聞こえてきた。
「なにか関係があるのかな……よし!」
思い切って、手紙は走り出す。
見渡す限りの白い世界は、手紙の方向感覚を狂わせた。しかし手紙は“捜索”の特技により、なんとか迷わずにいれる。
しかし、問題はあった。
「いたっ、いたたたっ」
フィールドにいる墓石型の『ハカイシン』や、ゾンビを彷彿とさせる『ゾンビ』が、走り回る手紙に向かって攻撃してくる。
ちなみにお墓のような見た目のハカイシンは、その場から動けない小さな敵。雪に自分の身を隠し、ゲームプレーヤーが近付いてきたら奇襲する、意外な知性派である。
一方のゾンビは人の形をしており、歩くこともできるが速度は遅い。ただし見た目がホラー寄りであるため、人気は低い。
この二つの敵は機動性に劣る反面、攻撃力が高い。それゆえに手紙は出来るだけ敵と遭遇しないよう努力はしていた。
「またゾンビか。…ってハカイシンまで?!」
それでも出てくる敵を、弓で叩き倒さずに怯ませる。いちいち敵にかまっていると、追っている敵に大きく離されてしまうためである。
必死に妙な動きの敵を追っていると、ついに視界に敵の姿がうっすらと見えてきた。しかし次の瞬間、山のせいでその姿を見失う。
そしてまた“捜索”を使おうとしたとき、手紙は敵に背後から狙われていることを察知した。だが応対が間に合わず、手紙の体は前に突き飛ばされる。
「…っ!?」
顔が雪に埋もれるが、急いで上半身だけ起き上げる。地面に手足を着けたまま素早く後ろを振り返ると、手紙の首には槍の矛先が向けられていた。
「ざ、砂記…」
自分に槍を向ける人物の名を、手紙は驚きつつ呼び上げた。
「…」
そんな手紙を砂記は無言で睨みつける。そのまま時が過ぎた後、ついに槍を動かし始めた。
「手紙、さよならだ」
「くっ…」
ぐちゃぐちゃになった手紙の頭は、必死に解決策を探し続ける。
首に一突きか。かなりダメージ大きそうだし、攻撃を受けた後に魔法をぶつけられたら即ゲームオーバーだよな…。
。とにかく、勝機を見つけないと!
溢れる焦りに一度蓋をし、手紙は急いでしゃべりだす。
「あの声は砂記だったの?」
「…声?」
ぴたりと動きを止めた砂記は、怪訝そうな顔で手紙を見た。
なにも知らなさそうで、もしかしたら…という思いあたりがありそうな砂記の表情。そこを突けば声の主に近付けたかもしれないが、今は状況を立て直すことに必死だった。
「はあっ!」
隙を見つけた手紙は、気合いを入れて飛び上がり、なんとか砂記と距離を置く。そして弓を構えると、躊躇わず矢を放った。
しかし手紙と砂記の距離はほんの三メートル程度。槍を使う砂記には、その距離ほどありがたいものはなかった。
すぐに手紙の腕を狙い、槍を突く。
「うっ」
思わず手紙は自分の武器である弓を地面に落としてしまった。弓は地面に落ちると、手紙の手の届かないところまで弾んでいく。
「しまった…!」
この隙を砂記は逃さない。
槍が手紙に襲いかかる、まさにその時。今度は聞き覚えのある声が、はっきりと手紙に届いた。
「手紙ってばかだよね、やっぱり」
カン、と音をたて、槍にナイフがぶつかる。そのおかげで槍の進路は手紙から逸れ、空気を突く。
呆気にとられた砂記が冷静になる前に、手紙は急いで砂記から離れた。
「遥、助かった!」
「はあ…手間かけさせないでよ」
手紙の礼を素っ気なく返した遥は、ナイフを砂記に向かって投げる。それを軽々避けた砂記は後ろに下がり、二人から距離をとった。
「加七遥…よくここがわかったな」
ぼそりと砂記は呟く。
それを無視した遥は、手を休めることなくナイフを投げては“瞬間移動”で移動し、砂記を翻弄させようとしていた。
無事に弓を回収した手紙も、急いで遥に加勢する。
「手紙。ぼくの動きが読めなくて、矢は射れないんじゃないの?」
休むことなく移動する遥は、特技を使いながらも手紙に話しかけた。
「ばれてたんだ。…でも、なんとなく遥の動き、わかった気がする」
「へー、なんで?」
「こいつのおかげだ」
手紙は先ほど落としてしまった弓を、堂々と片手で掲げた。
「…なるほどね」
遥はニヤリと笑みを浮かべる。
その反応を見て、手紙は自分の考えが合っていたことに確信を持った。
本当は今すぐにでもそのことを話して盛り上がりたいところだが、今は戦闘中である。
答え合わせは実戦でと言いたいのか、遥は“瞬間移動”と投げナイフの攻撃を続けていた。
「それじゃ、サポートする!」
決意を固めた手紙は自信を持って、矢を放つ。
その矢を砂記は避けてしまったが、手紙の狙い通りの位置に飛んでくれた。
もちろん、遥に当たることはなく。
「よし!」
嬉しくなった手紙は次々と矢を放っていった。さすがにまだ迷いはあるものの、以前のハチノコ戦のような失態は大幅に減っている。
「…ちっ」
遠くからの矢に、神出鬼没の投げナイフ。
避けたり防いだりするのに必死になった砂記は、魔法はもちろん、槍の攻撃すらできる隙がない。
遥も顔には出さないものの、心の中で嬉しく思っていた。
「手紙、意外とやるじゃん」