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聖峰の要  作者: くるなし頼
第一章 集う仲間
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日次 流凪

視界一面に色んな色の花が咲き乱れる。


空も蒼く澄み渡り、遠くをみても自然しか見えない。



そんな風景を目の当たりにしたとある女性は、思わず顔を輝かせる。その表情は大変可愛らしかった。しかし普段から真面目で凛々しい彼女がそんな表情を見せたため、そばにいた男性が少し驚く。


「桐姫、おまえそんな表情できたのか?」


「まったく砂記は…失礼ですね。私にだって自然を愛でる心くらいあります」


笑顔から呆れ顔に変えた桐姫は、もう一度花畑を見つめ直す。

心地よい風が吹き、彼女の美しい黄緑色の髪がなびいた。花たちをもっとよく見ようと一歩踏み出したとき、自分の服装を思い出す。


「私の服装は、ここの景色に似合いませんね」


「…ま、鎧だからな」


砂記は辺りを見回して、ちょうど良い木を探す。好みの木を見つけたのか、その木に腰掛けた。


「ここは『極秘の花園』と呼ばれる隠しフィールドだ。平和をイメージしているというから、戦士の格好は浮くだろう」


「そう、ですね…」


しゅんとした桐姫が残念そうにしゃがみ込み、近くに咲く花に触れる。


その様子を離れた場所から見る砂記が、ふと感じた疑問を述べた。


「花、好きなのか?」


桐姫は砂記の方を向くと、ゆっくりと頷く。


「はい。とはいっても、本物の花は見たことがありません。ここの物を含め、私が知る花は全て映像でした」


「そうか」


「しかし電子都市リアリスの技術の高さから考えれば、今ここにある花は本物に近いのでしょう」


やっと穏やかになった桐姫の笑顔は、次の瞬間、冷たいものとなった。


「資金源が、優秀でしたでしょうし」


「…」


口数が少なくなってきた砂記は、遂に目を閉じる。


「寝るのですか?一応、警戒は怠らないでください」


「どうせ誰も来られないだろう」


気の抜けた声で返事をした後、砂記はあくびをする。切手を攻撃するために夜はずっと起きていたらしく、どことなく顔には疲労がうかんでいた。


「四天王ならば来れるでしょう。特に別行動を貫く前衛戦士と、消息の掴めない医療術士などが」


「…あー、いたな。前衛戦士の方は大丈夫だろうが、問題は…」


「最強の医療術士『レイ・ユーガ』ですね」


「ああ。できれば会いたくない」


寄りかかっていた木から背をはなし、砂記は立ち上がろうとする。

しかし桐姫が、笑顔でそれを止めるのだった。


「いえ、やはり砂記は休んでいてください。しばらくは私がここで見張りをしています」


「…悪いな」






そのころ、中央街では。



茶髪の少女が、手紙の右腕をすがるように掴んでいる。


しかしこのがっしりと掴まれた右腕を、手紙は振りはらうことはなかった。

その代わり、腕を掴む少女に驚きながらも話しかける。


「ええっと…日次ひなみだよな?」


なぜか緊張している少女は、手紙に名前を呼ばれて顔を赤くする。


「う、うん、鈴店くん、久しぶり」


この少女の名は『日次ひなみ流凪るな』。

手紙と切手が電子都市リアリスで仲良くなった少女である。その証拠に、手紙とも切手とも違う校章がついたセーラー服を着ていた。



「日次も電子都市リアリスに閉じ込められてたんだ…」


「うん。ちょうど武器屋のアルバイトがあったから。…って、ごめんなさい!」


右腕を掴みっぱなしだったことに気付いた日次は、やっと手を話す。

その頭の中はパニック状態だった。



ど、ど、どうしよう!私結構長いあいだ鈴店くんの腕もってた!嫌な思いさせちゃったかな?!



そんなことを考えつつ、手紙の表情をちらりと見た。


「どうしたの?」


何も知らない手紙は、様子がおかしい日次を心配する。


「な、なんでもないの!」


うう、やっぱり鈴店くんは優しいなぁ…。



顔は笑い、心の中では焦り、喜ぶ。


日次はなかなか忙しい少女であった。



「それより鈴店くん。やっぱりゲームクリアを目指しているんだね。湯家くんも?」


「うん。切手と、あともうひとりの仲間と」


「さすがだね。私は戦闘はあまり得意じゃないから、武器屋で皆をサポートしてるんだ。いつでも来てね?」


日次は精一杯の笑顔を手紙に向けた。


「あ、うん。ありがと」


少し照れくさそうに、手紙も笑う。



日次は幸な気分に浸りたかったが、とにかく話題を頭の中で探すのに必死だった。



そんな二人を遠くから眺めていたある人物が、ため息をつく。


「はあ~、いいなーっ。青春って感じで」


「へ?って、おお?!」


「ええっ?!」


二人はベンチに座ってこちらを凝視する声の主を見て、思わず叫んだ。


ちなみに手紙は声の主があの人物だったことに驚き、日次は人が居たことに驚いている。



二人のリアクションに満足したのか、声の主は立ち上がり、笑顔で二人に近付いてきた。


「変な帽子の男の子に、恋する女の子かぁ。今のリアリスにはもってこいの人材ね!」


「こっ…!」


恋だなんて、なに言っているんですか?!この人は!


その言葉を声にすることはなく、恥ずかしさのあまり日次は口が動かせない。恐る恐る手紙の表情を盗み見ると、口をあんぐりと開けて驚く彼の顔が見えた。

その手紙が声の主に向かって緊張しつつ、質問をした。


「あのー、もしかしなくても四天王の降千朝さんでは?」


「…あ、言われてみれば」


落ち着いたあと声の主を改めて見た日次も、同意見らしい。


オレンジ色の髪のポニーテールに、桃色の瞳。そして明るい彼女の人柄は四天王のひとり、最強の攻撃術士の姿だった。



朝は少しだけ恥ずかしそうに頷いた。


「ご名答。朝って呼んでね?」


「ええと、俺の名前は手紙です」


「わ、私は日次流凪です」


二人は同時にぺこりと礼をする。それを見た朝は、明るく笑い飛ばした。


「そんなにかしこまらないで。別に四天王って、偉いわけじゃないんだから」


そんな朝に人の良さを感じる手紙と日次も、自然と笑顔になる。そのあと緊張しつつも話す日次と、かなりリラックスして話す手紙は、朝と世間話を続けていた。


「そっかー。っていうか手紙って意外と頭良さそうだね」


「そんなことないですよ朝さん。って意外ってなんですか?!」


和やかに話す二人を見て、日次も思わず顔が緩む。


しかしその時ふと、日次は疑問を感じた。



な、なんで出会ったばかりなのに、二人とも自然に下の名前で呼び合っているんだろう…。



手紙と出会って数年経つ日次は、手紙と下の名前で呼び合う日を夢見ていた。しかしそれをなかなか言い出せない彼女は、いまだに名字呼びだったりする。


自分の世界に浸りかけた日次に、朝が声をかけた。


「日次ちゃんもかわいいよねー!家庭的な女の子って感じ」


「そ、そうですか?」



…あれ?なんで私だけ名字呼び?


今度はそんな疑問を抱えつつ、日次は朝と手紙と会話を弾ませるのだった。



すると朝は会話の途中で、なにやらあたたかい目を二人に向ける。


「それにしても手紙はゲームクリアに向けて、ストーリー攻略してるんだ?日次ちゃんもサポートするために、武器屋でがんばってるみたいだし。お姉さんとしては嬉しいな」


いきなり朝がこんなことを言ったため、手紙と日次は思わず顔を見合わせた。不思議に思い手紙が訊くと、朝は衝撃的な事実を口走る。


「だって四天王って、ストーリー攻略できないんだもん。電子都市リアリスが乗っ取られる前に、運営と約束しちゃったのよねー」


「え」


「…ええっ?!」

2014/1/23 誤字を修正しました。

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