追放されたのは無愛想だからではなく、変死体に関与したから
「これで三件ですか」
「実に奇妙ですな」
何が奇妙か?
王都で魔力が抜き尽くされた死体が放置されるという事件が続いているのです。
まさか自然死とも思えませんが、事故や殺人とも考えかねます。
問題の被害者三人は全て貧民街の住人です。
だから人知れず始末されてしまっている被害者の死体が、まだあるのかもしれないですね。
本来ヨーコリア王国第三王子で、しかもまだ学生である僕シリルが直接関わる案件ではないです。
でも勉強になるだろうということで、宮廷魔道士ダルーとともに憲兵長ブルーノの捜査の手伝いに来ています。
しかしわけのわからない事件であり、死体ですね。
「外傷はないのでしょう?」
「ありません」
「しかし殿下。血液から眠り薬の成分が検出されました」
「「ほう?」」
「間違って飲んだというのは考えにくいですよ。そして魔力の有無とは無関係ですから」
ダルーが血を魔道分析にかけたようですね。
となると誰かが眠らせて魔力を抜いた?
憲兵長ブルーノが重々しく言います。
「……眠らせたなら簡単に殺害できます。にも拘らず魔力を抜くというのならば、殺害でなく魔力のほうに目的があったと考えるのが自然ですぞ」
「ブルーノの言う通りですね。亡くなったのは結果に過ぎない、ですか」
「いや、待ってください。今回の死体は眠り薬を飲まされていますが、今までが同じだったとは限りませんよ」
「ふむ、ダルー殿の示唆は重要だな」
「私の疑問なのはむしろ、魔力を抜いたのは何故か、そしてどうやってということですね」
これは不思議な意見に思えますね?
「魔力は有用なものでしょう? あれば使えるのではないのですか?」
「殿下の仰る通りです。そして先ほどは思考が固定化するのを恐れてあえて今までと同じとは限らんと申しましたが、私もブルーノ殿と同様、魔力が目的で抜いたのだと思います」
「でしたら……」
「しかし魔力って魔石にしか溜められないのですよ」
魔石とは魔物由来の石です。
近年魔道具の発達とともに需要が逼迫していますが?
「人間一人の魔力を全て詰め込める魔石なんて知られていないです。あるいは人間から強制的に魔力を抜き取って多くの魔石に詰めていくことは可能かと思いますが……」
「現在の魔道具だと魔石にタッチして魔力を充填する方式であるから、大量の魔力との関係が見えづらいと」
「さようです」
つまりダルーは抜いた魔力をどうしているんだろう、ということが疑問なのですね。
宮廷魔道士らしい視点だと思います。
魔力が目的ならば何かに使用しているはずですが……。
「いずれにせよ、現在わかることはここまでですか」
「不明なことが多過ぎますね」
「そうですな。憲兵は貧民街の見回りを強化します。誰が死体を捨てたかさえわかれば、芋蔓式に解決だと思うのですよ」
「私はこの死体を預かってよろしいでしょうか? 魔道的に調べれば判明する事実があるかもしれません」
この時にはあんな意外な展開になるとは思っていなかったのです。
◇
――――――――――憲兵詰め所にて。レイラ・ジュール男爵令嬢視点。
顔立ちは姉とわたしでそう変わらないと思う。
でも何というか、華やかさが違うの。
姉が金髪碧眼なのに、わたしが黒髪黒目ということが一番の原因かしら。
大体黒髪黒目なんて見知った親戚にいないから、疎ましい目で見られていて。
父方の曽祖父が黒髪だったそうなので、一応娘と認められているっていうくらい。
まあ姉はどこへ行っても可愛がられるけど、わたしはよく言っておまけで。
悪くするといらない子だ。
無愛想ねとはよく言われるけど、笑顔になる機会がないと表情筋が鍛えられないんじゃないかな。
だから致し方ないとは思っている。
ただ問題は将来のことだ。
相対的に恵まれている姉もそうでないわたしも、平等に時間は過ぎていくわけで。
姉は婿を取ってジュール男爵家を継ぐという将来が見えている。
じゃあわたしは?
姉が中心のジュール男爵家で、この先わたしにスポットが当たる未来なんて見えない。
姉しか構わない両親がわたしのためにいい嫁ぎ先を探してくれるかというと、非常に心許ない。
ならばわたしは自分で生きていくことを考えるべき。
大事なのは知識と技術を身につけること。
幸いうちは男爵家と、末端ながら貴族だ。
父が集めたボロ魔道具がある。
母や姉は捨てろ捨てろとうるさいが、わたしが興味を持って弄り回すので、それ見ろ教育に役立っていると、父は御満悦だ。
父はボロ魔道具を買うことだけが趣味で、あとで眺めるの確認するのということをしない。
わたしが分解しても特に何も言わない。
わたしは魔道具にのめり込んだ。
今流行りでかつ発展中の分野ということもあって、図書館には解説書も多い。
分解した魔道具から使える部品もある。
素材も特別なやつを除けば安い……魔石は別だけど。
そう、魔力を蓄えるという特性のある魔石は替えが利かない。
ほぼ全ての魔道具に使われ、また使用している内に魔力充填量も劣化するから、数年で交換が必要だ。
父の集めた魔道具にも、魔石不良で動かないものは多い。
魔石は需要と供給のバランスが合っていないから高価なんだよなあ。
魔物を倒せば魔石は手に入るらしい。
でも王都に魔物なんているわけもなし。
いやいや、わたしは魔道具に興味があるのであって、魔物なんかどうでもいい。
本末転倒だ。
魔道具を研究しようと思うと、どうしても魔石がネックになる。
初めは劣化魔石を使っていたけど限界だ。
魔石を手に入れる手段がないと研究が進まない。
と考えていて、待てよと思った。
現在、必要十分な魔力を溜めておける素材は魔石しかないと考えられている。
他の材料を血眼になって探している人もいると聞くが、はかばかしい成果は得られていないようだ。
しかし必要なのは魔力であって魔石ではない。
魔力をそのまま取っておくことはできないか?
突拍子もないアイデアに思えた。
魔力のまま保存することができないから、魔石に蓄えておくという方法が取られているのだもの。
ただ無属性攻撃魔法の中に、固化した魔力塊をぶつけるというものがある。
魔力は固めることができるじゃないか。
しかし固めた魔力塊はすぐ崩れてしまう。
持続時間を長くできないか?
例えばブロック状に固めた保存魔力をいつでも自在に使えたら、もっと大規模な魔道具だって使えるはずだ。
使う魔力が多過ぎて実用化に至っていないけど、回復とか転移とか植物の成長促進とかの理論があることは知ってる。
魔力の固化、自分の思いついたアイデアに興奮した。
魔力を固めることはできるが、その状態を長持ちさせるにはどうしたらいい?
結界で覆えばいい。
ダメだ、結界の維持にも魔力を使うのだから。
いや、固化された魔力は十分な強度が既にあるのだから、結界は魔力を漏らさないことに限定すればいい。
ごくごく薄いものでいいんだ。
そう考えている内にできた。
結界の維持に魔力を使うけれどごく微量ですむ。
魔力ブロックは計算上数年はもつ!
やった!
すぐに魔力ブロック使用で使える回復魔法の魔道具を作った。
これさえあれば癒し手がいなくてもケガのリスクを減らせる!
大規模魔道具が進歩するのでは?
――――――――――
「……という考えだったのです。決して悪気があったわけではなく」
わたしは今、憲兵詰め所で、第三王子シリル殿下、宮廷魔道士ダルー様、憲兵長ブルーノ様から尋問を受けている。
わたしの作った魔道具が殺人に使われているということなのだ。
何でも魔力を完全に抜かれた死体が何体も見つかっているそうで。
宮廷魔道士ダルー様が聞いてくる。
「つまりレイラ嬢は自力で魔力を固化する装置と、固化された魔力ブロックを利用する魔道具を作った。それを魔道具屋に売り込んだということでいいですか?」
「はい、間違いありません。その後に魔道具屋から、寝ている間に効率的に魔力を抜く道具はないかと言われましたので、作って納品しました」
魔力は人の身体の中で生み出される。
魔力は栄養と睡眠、時間で増えていくから、大体自分の魔力容量満タンを超えてしまうものなのだ。
睡眠中に余剰魔力を取り出せるのはいいアイデアだと思った。
でも……。
「寝ている間に魔力を抜くのは危険だと思いませんでしたか?」
言わんとするところはわかる。
意識のない内に魔力を全部抜かれると死ぬから。
「思いました。ですから一定量以上の魔力は抜けない、身体の残存魔力量が最大値の一割を切ったら動作は停止する、危険な状態になる前に弱い雷魔法で被験者に合図を送るという、三重の安全装置をつけてあったのですが」
「やはり。犯人宅にあった魔道具には、安全装置が設置してなかったのですよ。しかし取り外された回路は残っていました」
「……」
つまり犯人は安全装置を外してムリヤリ限界まで魔力を抜いた。
魔力の枯渇した死体のでき上がりということだ。
何てことだろう。
完全に魔道具を作ったわたしが犯罪の片棒を担いでしまっている。
憲兵長ブルーノ様から質問だ。
「問題の魔道具屋からは何を言われていましたか?」
「魔力ブロックを使用する魔道具をどんどん持ってこいと。言い値で買うと」
これで魔道具考案者としてやっていけると思ったものだった。
魔道具屋が犯人として逮捕されてしまったのでそれも夢と消えたが。
いや、それどころかわたしも罪を償わなければならない。
つまらないことになったなあ。
「要するに、魔道具屋は消耗品の魔力ブロックがいい商売になると見たのでしょうな」
「えっ?」
魔力ブロックを売るという発想?
自分で使う分の魔力ブロックを作っておくのではなく?
「だから浮浪者を言葉巧みに誘い、眠り薬入りの飯を食わせ、魔力ブロック生産実験をした」
「危なかったですね。レイラ嬢の魔道具がいくつも世に出ていたら、もっと多くの死者が量産されていたでしょう」
「えっ?」
何て罪なことをしたのだろう、わたしは。
実家を追い出されるのも当たり前だ。
シリル殿下が言う。
「レイラ嬢は素晴らしいですね!」
「えっ?」
何が素晴らしいのだろう?
殿下は目をキラキラさせているけど。
ダルー様も目を輝かせているぞ?
「素晴らしい才能です! まさかこれほどの才能が市井に埋もれているとは!」
「と、言われましても。自分の作った魔道具がこんな事件を引き起こすとは、慙愧に耐えません」
「レイラ嬢に罪はありませんよ」
「そうなのですか?」
「もちろん。事情を聴取したかっただけです。殺人の罪を製作者に問うていたら、包丁鍛冶を何度逮捕すればいいのやら」
どうやら罪にはならないらしい。
よかった、ホッとした。
「レイラ嬢は一四才ですか。殿下と同い年ですね」
「楽しみですね。レイラ嬢も来年から王立学校に通うのでしょう?」
貴族の子女は一五歳になる年から王立学校に通うのが一般的だ。
姉は在学中だが……。
「いえ、罪人はジュール男爵家にいらぬと、さきほど家から勘当されまして」
「「「は?」」」
「ありがたいことに無罪ではあるようですね。しかし家も研究室も失ってしまったので、わたしには何も残っていなくて……」
「殿下、レイラ嬢は宮廷魔道士棟で預かります! レイラ嬢の天才を囲い込むチャンスです!」
「小官はレイラ嬢の貴族籍を確認しておきましょう。ジュール男爵家から籍が抹消されているのが事実であるのかを」
「僕は父上に進言して、レイラ嬢が王立学校に通えるよう取り計らいますからね」
どうしてだろう?
皆さんがわたしによくしてくれる。
こんな出来損ないみたいなわたしなのに。
自然に笑顔がこぼれてしまう。
「わあ、レイラ嬢は笑うと可愛らしいですね」
「えっ、可愛らしいなんて言われたのは初めて……」
「とても可愛らしいですよ」
何だろう?
シリル殿下のふんわりした笑顔で断言されると信じたくなってしまう。
でもシリル殿下こそ可愛らしい。
きっとこれから格好良くなっていくんだろうなあと、想像させる。
……王子様に対して不躾な想像だったかしらん?
「ではダルー、レイラ嬢を頼むよ」
「お任せを」
宮廷魔道士棟へ行くのも楽しみだなあ。
どんな研究をしているのだろう。
わあ、新しいわたしの始まりだ!
◇
――――――――――後日談。
レイラの籍がジュール男爵家から抜けているのが確認されると、レイラはアノニマスの姓を名乗った。
知っている者は知っていた。
『アノニマス』とは王家が保護した訳ありの者に与える、伯爵家相当の姓であるということを。
王立学校に入学後、レイラはその天才性を加速させる。
現役の学生として成績トップを維持しながら、宮廷魔道士として魔力ブロックチームを牽引。
回復・転移・植物成長促進の大型魔道具をヨーコリア王国独自の技術として実現させ、国の発展に大きく寄与した。
入学当初はアノニマスの姓もあってミステリアスな令嬢とされていたが、次第によく笑うようになった。
第三王子シリルと話す様子がよく見られ、三年生の時に婚約した。
誰もが納得の婚約だった。
「シリル殿下と婚約したレイラは、実は当家の娘でしてな」
「そうよ、アノニマスなんておかしな姓だけど私の妹なの」
ジュール男爵家の当主と娘が得意げに言いふらした。
が……。
「レイラ嬢がジュール男爵家の出というのは本当です。一三歳の時でしたか。放り出されて籍を抜かれたのですよ。可哀そうなことに」
「結局ジュール男爵家は、レイラ嬢の天才をこれっぽっちも理解してなかったんだ。アホウも極まる」
という証言が飛び出し、墓穴を掘った。
第三王子シリルの婚約者を追放した家として有名になってしまい、その後他家に敬遠されることが多くなる。
レイラの姉は婿を得ることができず、また社交にも商売にも支障をきたすようになり、結局ジュール男爵家は返上となった。
卒業後にシリルとレイラは結婚、仲睦まじい様が各地で見られた。
その後のレイラの発明品で有名なものに祝福の魔道具がある。
聖女クラスの存在でないと使えない伝説的魔法である祝福を行えるというものだ。
結婚式や各種式典などで用いるのが定番となった。
レイラが初めて祝福の魔道具を使ったのが、自分の結婚式の時であるという。
その時の新郎シリルの言葉。
「最高のお嫁さんをもらった僕は最高だ!」
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