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滝裏の洞窟と白骨の遺産

ゴブリンとの戦闘を終え、改めて自分の姿を見ると、服には返り血や泥、そしてゴブリンが発していたであろう異臭がこびりついていた。

ひどい有様だ。服装は、トラックに轢かれた時のまま。白いTシャツにジーパン、そしてスニーカー。

異世界に転生したというのに、服装までそのままとは。


この臭いは早く何とかしたい。森の中をあてもなく数分歩いていると、先ほどから微かに聞こえていた水の音がだんだん大きくなっていることに気づく。


(水の音!)


音のする方へ向かうと、岩肌を滑り落ちる小さな滝と、その下にできた滝つぼを発見した。

これ幸いと、すぐに服を脱ぎ捨て(下着はさすがにそのままにしたが)、滝つぼに入って体の汚れと臭いを洗い流す。

冷たい水が火照った体に心地よかった。


体を洗いながらふと滝の裏側を見ると、水流の向こうに黒い影が見える。目を凝らすと、それは洞窟の入り口のようだった。

空を見上げれば、日は既に大きく傾き、森は夕暮れの色に染まり始めている。

完全に陽が沈むまで、あと一時間もないだろう。夜になれば、昼間よりもさらに危険が増すはずだ。どこか安全な場所で夜を明かさなければならない。あの洞窟はうってつけかもしれない。


滝つぼから上がり、濡れた体を軽く拭う(拭くものがないので手で叩く程度だが)。そして、洞窟に入れないか崖沿いを慎重に進んでみる。滝の近くは岩が苔むしていて滑りやすい。足元に注意しながら少し回り込むと、滝の水しぶきがかからない、岩陰になった場所から洞窟内へ入ることができた。


中は予想以上に広く、かなり奥まで続いているように見える。

ひんやりとした空気が漂い、小さな虫が飛ぶ音や、どこかで水滴が落ちる音が反響している。

獣の匂いや魔物のような強い気配は感じられない。入り口も滝の裏で分かりにくく、崖を伝う必要があるため、ゴブリンのような魔物も容易には入ってこれそうにない。


(よし、今日はここで夜を明かそう)


そうと決まれば、夜を過ごす準備だ。まず必要なのは明かりと暖を取るための火だろう。物語の知識では、火は魔除けにもなると聞いたことがある。

火をおこすための道具が必要だ。洞窟の入り口付近、比較的乾いていそうな場所を探していると、壁際に寄りかかるようにして横たわる、白骨化した遺体を発見した。風化しているが、成人男性のものだろうか。

その指には、奇妙な模様が刻まれた黒ずんだ指輪がはめられたままだった。


遺体の傍らには、風雨に晒されて色褪せてはいるが、形を保った布製の袋が置かれていた。ボクサーバッグのような、丈夫そうな袋だ。袋の留め具には、見たことのない鳥のような紋章が刻まれている。

俺は白骨遺体にそっと手を合わせ、

「申し訳ありません。生きるために、中を確認させてください」

と心の中で祈った。敬意を払い、袋の口を開ける。


中には、くすんだ金貨が数枚。手のひらサイズの平たい石と、それより一回り小さい黒っぽい石が一つずつ。これは…おそらく火打石と火口だ! それに、丈夫そうな紐で縛られた巻物。使い込まれた板切れには、まるで蛇が絡みつくような、見たこともない文字のようなものがびっしりと刻まれている。そして、革装幀の古びた本が一冊。表紙にも板切れと同じ系統の奇妙な文様が見える。


袋の中を漁っていると、濡れた体に洞窟の冷気が容赦なく染みてきて、ぶるりと震え、くしゃみが出た。日が落ちると、森の中は思った以上に冷え込むらしい。


(いかん、早く火をおこさないと。せっかく強靭な体をもらったのに、風邪をひいたら洒落にならない)


急いで洞窟の外に出て、燃えやすそうな枯れ枝や落ち葉をかき集め、洞窟内に持ち込む。火打石と火口、そして集めた枯れ葉で火をおこすのは思ったより難儀したが、何度か試すうちにパチパチと小さな焚火を作ることに成功した。


焚火の暖かさにホッとしながら、先ほどの袋に入っていた本を開いてみる。しかし、やはり読めない。板切れに書かれていたのと同じ、全く見慣れない文字体系だ。次に巻物を広げてみる。これは…地図で間違いないだろう。川や森、山の稜線らしきものが描かれている。この白骨遺体の主が、旅をするために使っていたものだろうか。地図をいくら眺めても、ここが世界のどこなのか、皆目見当がつかない。


(まあ、分からないことだらけだよな…)


それでも、こうして安全な洞窟を見つけ、火をおこし、わずかながらも物資を手に入れられたのは、幸運(LUK):Sのおかげかもしれない、と思いながら暖を取っていた。


夜が更けてきたが、洞窟の中が思ったよりも暗くならないことに気づく。焚火の明かりだけではない。もっと奥から、ゆらゆらと揺らめく青白い光が漏れてきているのだ。それは自然の光には見えない、どこか異質な輝きだった。


(異世界だから、こういうこともあるのか…? それとも…)


夜は長い。この先に何があるのか分からないのは不安だ。身の安全を確保するためにも、少しだけ洞窟の奥を調べてみることにした。


焚火の火を少し大きくし、念のためゴブリンから奪った剣を片手に、青白い光が漏れてくる方へと進む。最初はゴツゴツとした岩が転がる、歩きにくい自然の洞窟だった。しかし、しばらく進むと、道は緩やかな下り坂になっていた。足元に気をつけながら降りていくと、やがて平坦な場所にたどり着く。


そこからは、歩けば歩くほどに洞窟の様相が変わっていった。自然の岩肌は徐々に姿を消し、切り出された石で造られたような壁、床、天井が現れ始めたのだ。明らかに人工的な建造物。通路にはひんやりとした空気が澱み、時折、どこからか風が吹き抜ける音がする。壁には、風化しているが、かつては彩色されていたような跡も見える。まるで、古代の遺跡に迷い込んだかのようだ。


(この洞窟、ただの洞窟じゃなくて、遺跡だったのか…?)


青白い光はさらに奥から漏れてきている。期待と不安が入り混じる中、遺跡化した通路をさらに数分進むと、その先に、通路全体を塞ぐようにしてそびえ立つ、巨大な石造りの扉が現れた。

表面には、やはり見たこともない複雑な文様――蛇が絡みつくような、あるいは星の軌道を示すような――がびっしりと刻まれている。それは、遺品の板切れや本の表紙にあった文様と明らかに同系統のものだった。

そして、その扉の隙間から、あの青白い光が脈打つように強く漏れ出していた。

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