予期せぬ生存者と無限図書館の助言
俺はその剣をこともなげに足で弾き飛ばし、ゴランの喉元に、先ほど奪った剣の切っ先を突きつけた。
「言ったろ。通りすがりの、異世界人だと」
ゴランは冷や汗を滝のように流しながら、命乞いを始めた。
「な…なぁ、あんた、誰に雇われているんだ? 皇子派か? それとも王弟派か? 俺らはその倍は払うぜ! どうだ? 悪くないは無しだろ? 何だったら、俺たちの用心棒で雇ってもいい! だったら3倍、いや!4倍は払う! なぁ…助けてくれよ…」
本当に、どこかで聞いたことがあるような典型的な悪役のセリフだ。だが、それを目の当たりにすると、ただただ胸糞が悪い。こうまで不愉快な気持ちになるとは思わなかった。
そこで俺は、ゴランに冷たく低い声で問いかけた。
「今まで、お前にそうやって命乞いをしてきた奴らは居ただろう。そいつらを、お前はどうしてきた?」
その言葉に、ゴランは今まで以上に顔を青ざめさせ、全身をガタガタと震わせ始めた。
「なぁ! 頼むよ! 俺も…俺も頼まれて、仕方なく殺っただけなんだよ…!」
このままコイツと話していても不愉快でしかない。俺は無言で剣の柄を握り直し、その首筋に一撃を入れ、ゴランの意識を刈り取った。
(これで、あらかた片付いたはずだな…)
俺は周囲を見渡し、息絶えた者たちと、気絶させた盗賊たちが転がる惨状に、小さく息を吐いた。〈無限図書館〉にも周辺をサーチさせるが、これ以上の盗賊の一味は確認できなかった。
これで終わりか、と思ったその時、〈無限図書館〉が予期せぬ情報を告げてきた。
『マスター。襲撃されていた者たちの中に、数名、まだ息のある者がいます。【魔法】「リカバリーフィールド」を使用しますか?』
その問いかけに、俺は驚いた。
(何だって!? 生きている者がいるのか!?)
てっきり、盗賊以外は全員死んだものとばかり…。
俺は内にも考えず、咄嗟に答えた。
「イエスだ! 〈無限図書館〉!」
すると、俺が詠唱するまでもなく、〈無限図書館〉が主導する形で、俺の魔力が自動的に練り上げられていくのが分かった。そして、倒れている護衛や王女がいた馬車を中心に、「リカバリーフィールド」が広域に展開され、聖なる光の陣が倒れている者たち全てを包み込むように広がった。
(ん? 〈無限図書館〉にこんな、勝手に魔法を唱える機能、あったか? それに、これだけ広域に「リカバリーフィールド」を唱えたら、気絶している盗賊も回復するんじゃないのか?)
俺がそう考えていると、〈無限図書館〉が淡々と答えた。
『マスター。ノープロブレムです。周辺サーチの際に、対象を盗賊、近衛兵、王族、使用人と個別に識別済みです。その中から識別対象「盗賊」を回復対象から除外し、魔法を行使しています』
(なんか、知らない間に便利機能が増えてないか? それに、俺の許可なく勝手に魔法を使ったことについてはスルーしてるし…)
俺がそう考えていると、再び声が響いた。
『マスター。ノープロブレムです』
完全に誤魔化してきた…。
(…まあ、便利なのに越したことは無いか…)
俺は〈無限図書館〉の高性能ぶりに乗っかるような気持ちで、その件をスルーすることにした。
そうしていると、聖なる光の陣の中で、何人かが呻き声を上げ、息を吹き返して起き上がり始めた。
(「リカバリーフィールド」は、少しでも息があれば完全回復できるんだな。強力だ)
俺は息を潜めて馬車の方を見ると、胸元を深く切り裂かれ、血の海に倒れていたはずのライラ姫の体が、聖なる光に強く包まれている。そして、まるで早送りでもしているかのように、その深い傷が綺麗に塞がっていくのが見えた。
(まさか…! 王女まで助かったのか!? いや、あの傷は致命傷だったはずだが…)
ゴランは確かに王女の命を奪ったはずだった。だが、俺が介入するまでの僅かな時間、彼女はかろうじて息を繋いでいたらしい。そして、俺の「リカバリーフィールド」は、その瀕死の状態からでも完全に引き戻せるほどの、規格外の回復力を持っていたようだ。
俺は少し違和感を覚えた。先程の広範囲の「リカバリーフィールド」。それなりの上級魔法のはずだが、MPがほとんど減った感覚がない。
「ステータスオープン」
---
名前: ゼロ
種族: ヒューマン
レベル: 48
HP: 15600/15600
MP:10375/10400
【ステータス】
筋力(STR): S
体力(VIT): S
敏捷(DEX): S
知力(INT): S
魔力(MAG): S
幸運(LUK): S
【スキル】
〈無限図書館〉、「無限インベントリ」、「言霊理解」、「氷寒耐性」、「灼熱耐性」、「雷撃耐性」、「烈風耐性」、「流水耐性」、「大地耐性」、「猛毒耐性」、「瘴気耐性」、「暗黒耐性」、「想像力の申し子」、「囁きの回廊」、「勇者」、「神に近し者」、「混沌の刻印」
【魔法】
「ファイアーボール」、「フレイムランス」、「インフェルノ」、「ヒール」、「リカバリーフィールド」、「セレスティア・グレイス」、「ライトニングボルト」、「《サンダーストーム》」、「ルミナスジャッジメント」、「アクアショット」、「ヴァイパーストリーム」、「レヴィアタン・ウェイブ」
【称号】
「ゴブリンハンター」、「スライムハンター」、「ウルフスレイヤー」、「神獣殺し」、「スケルトンスレイヤー」、「ゴーストイレイザー」、「ドラゴンスレイヤー」
---
(やはりそうだ。MPの消費が極端に少ない)
【神の試練】では、同じ魔法でももっとごっそりとMPを持っていかれる感覚があった。しかし、今回に関しては全くその感覚がなかった。それに対し〈無限図書館〉が説明してくれた。
『マスター。【神の試練】では、マスターのあらゆる能力に特殊な負荷が掛けられておりました。それが今、通常世界に出たことで負荷が完全に解除され、MP消費が本来の正常な状態に戻ったものと考えられます』
(ならば、今の俺のMPだと、並大抵のことでは尽きることは無くなったな…)
自分のチートっぷりに、今更ながら若干引いていると、声がした。
「…ん。あれ、私は…何故生きている?」
見ると、金髪の騎士コーディリアが、完全に回復した様子でゆっくりと身を起こしたところだった。周りにいる他の近衛兵も数名、起き上がり始めている。そして、馬車の中からも、今度ははっきりとした声が聞こえた。
「…わたくしは…?」
ライラ姫も、完全に意識を取り戻したようだ。
(まずい! バレて巻き込まれたくない!)
俺はすぐさまその場を離れることにした。筋力(STR):S と 敏捷(DEX):S の能力を使い、音もなく、人間離れした速度で茂みの中へと駆け込み、気配を消す。
(…バレてないよな…)
冷や汗をかきながら、俺はある事を考える。
「〈無限図書館〉。ここいらで盗賊が王族を襲うということは、もしかして近くにアジトとかあるのか?」と尋ねると、〈無限図書館〉が周辺をサーチし始めた。
『―――解析完了。ここから数キロ先の森の中に、盗賊のアジトらしき洞窟を発見。熱源反応から、数名ほどその場所には盗賊が残っている模様です』
との回答だった。
(ならばついでだ。他の人に被害が及ばないように、臭い元は根元から断っておくか)
俺はそう思い、盗賊のアジトを潰しに向かった。
そこにいた盗賊たちは、警戒も何もない、ただの烏合の衆だった。俺はあっけなく全員を無力化(殺してはいない、気絶させただけだ)した。
ついでに、アジトの中にあった物資をいくつか頂いていくことにした。汚れていない、ごく普通の「ロングソード」と、旅人用の丈夫そうな服と靴、そしてフード付きの「マント」。さらに、この世界の通貨だろう金貨等を少し。
(いいよな…。盗賊が使うよりは、俺が有効活用できるはずだ)
自分にそう言い聞かせ、俺はみすぼらしいTシャツとジーパンを脱ぎ捨て、この世界の住人らしい服装に着替えた。
そして、今度こそ自由都市「リューン」へと再び向かうことにした。




