ゼロの問い、無限図書館の答え(2)
(…人間同士で争ってる場合じゃないだろうに。魔族と繋がっている人間までいるのか。思ったより、この世界は単純じゃないらしいな…)
俺は頭を整理し、さらに核心に迫る質問を〈無限図書館〉に投げかけた。
(〈無限図書館〉、その「人間種と魔族の最前線」はどこにあるんだ?)
俺の意図としては、出来るだけそういった争い事からは距離を置き、静かに旅をしながらこの世界で暮らしたい、という思いがあったからだ。自分の力は、〈無限図書館〉の解析によれば、この世界では異質すぎる。どちらかの勢力に加わろうものなら、良くも悪くも戦局の力のバランスを崩しかねない。
『―――解析完了。マスターが現在おられるこの地点から、遥か北方の「大断層山脈」一帯で、人間種と魔族の最も大規模な戦闘区域、すなわち最前線が確認できます。』
『しかし、これはあくまで表向きの戦いです。裏では既に魔族の勢力は各国の中枢や要所にまで入り込んでいます。それを考慮するならば、現状は魔族側が有利に事を運んでいるようです。また、最前線では膠着状態が数年も続いているようですが、それも魔族側が人間種を油断させるための偽装である可能性が高いと推測されます。』
(なるほど。今の状況だと、水面下では魔族が有利なのか…)
俺がそう考えていると、ふと、『ーーー』と〈無限図書館〉が何かを言い淀むような、奇妙な沈黙の間があった。
「何かあるのか?」と尋ねる。
『―――不明瞭。情報が少なく、矛盾する事象のため、正確な解析が出来ません。』
「だから、何が分からないんだ?」と、俺はさらに問い詰めた。
『……現状、この世界の理、すなわちシステム上では、スキル「勇者」は一時代に一人のみ存在する、と定義されています。「魔王」が出現すれば、それに対抗する形で「勇者」が誕生する、という因果律が確認できます。』
『しかし、この世界には現在、マスターを含め、スキル「勇者」を持つ者が…2人、存在しているようです。』
(なんだって!?)
『もう一人の「勇者」は、北方の最前線で現在も戦闘中。ですが、それ以上の情報は遮断されており、これ以上の解析は不能。この事象は、この世界の根本法則から逸脱しており、理解不能です。』
「おお…」と思わず声が漏れた。〈無限図書館〉さんでも分からない事があるとは。
「まぁ、俺の場合、異質なのだろう? タレイア様が授けてくれた力で、例外中の例外じゃないのか?」
『ーーーー』
〈無限図書館〉からの回答は無かった。肯定も、否定もしない。それが、かえって事態の異常さを物語っているようだった。
とりあえず、俺はその大きな謎は一旦脇に置くことにした。考えても分からないことは、後回しだ。
「〈無限図書館〉。ここから一番近い、人のいる町の場所を教えてくれ」
俺は、より現実的な次の行動を決めるために、場所の確認をした。
《―――解析完了。マスターが現在おられるこの地点から、東に向かって徒歩で約1日。中規模の自由都市「リューン」が存在します。》
(自由都市リューン…まずはそこを目指すか)
その都市へ向かい、この世界を自分の目で見て、人々がどう暮らしているのかを知ってからでも、今後の身の振り方を考えるのは遅くないだろう。俺はその都市へと向かうことにした。
広大な草原を東へと向かう道中、俺は〈無限図書館〉にさらに色々な質問も投げかける。
「【神の試練】で入手した魔物の素材等は、この世界で金になるのか?」
《―――はい。★一つのモンスター素材であれば、どの町の冒険者ギルドでも問題なく換金できるでしょう。しかし、★3つ以上の素材、特に神獣や高位アンデッドの素材は、この世界では一個人が所有していること自体が稀であり、王侯貴族や大商人、あるいは国家レベルの研究機関でもなければお目にかかれない、超が付くほどのレア素材です。》
「武器や防具も同じか?」
《同様です。特にマスターが現在所有する〈聖剣・エクスカリバー〉や〈竜殺しの魔剣 - ドラグヴェイン〉のような星5つの宝具級の武具を腰からぶら下げようものならば、どこぞの王族か、あるいは伝説上の英雄かと間違われることでしょう。》
(要らぬ騒動は避けたいな…)
俺は無限図書館の助言に従い、〈エクスカリバー〉や〈月煌の聖銀鎧〉といった強力な武器や防具は、全て「無限インベントリ」にしまうことにした。
すると、後に残ったのは、【神の試練】での激しい戦闘でボロボロになった、元の世界の白いTシャツとジーパン、そしてスニーカーという、みすぼらしい恰好だった。
(これはこれで、怪しいか…? いや、ただの貧乏な若者に見えるだけか。まあ、目立たないだけマシだろう)
口に手を当てながらそんな事を考えて歩いていると、不意に、進行方向の少し先にある茂みの奥から、女性の甲高い声が聞こえた。
「きゃぁーーーーっ!!」
その悲鳴は、明らかに恐怖と助けを求める響きを帯びていた。
(何だ!?)
俺は咄嗟に身を低くし、声のした茂みへと慎重に近づいていった。




