ゼロの問い、無限図書館の答え(1)
新たな名前「ゼロ」と共に、この世界での新たな一歩を踏み出す決意を固めた俺。穏やかな風が草原を撫で、柔らかな陽光が降り注ぐ。見渡す限り平和な風景だが、俺の頭の中はこれからのことでいっぱいだった。
(さて…どうしたものか)
俺はひとまずその場に腰を下ろした。とてつもない力を手に入れたのは確かだが、この世界で生きていく上での知識が圧倒的に不足している。社会の仕組み、文化、地理…何一つ知らない。
(まずは、自分の立ち位置から把握するべきか…ところで、俺はこの世界では一体どのくらいの強さなんだろうか? スキルに「勇者」だの「神に近し者」だの、とんでもないものが追加されたが…)
俺がそう疑問に思った瞬間、頭の中に直接、無限図書館の声が響いた。
《マスターの疑問を確認。―――解析完了。マスターの現在保有する能力値を基にしたこの世界での相対的な強さは、現状、全生命体の中でトップ10に序列されるものと思われます。マスターより上位に位置する存在は、各国に存在する神々に近い存在、あるいはそれに匹敵するエンシェントドラゴン、そして魔王などと推測されます。》
「ん。トップ10か…まあ、分かってたけど…」
実際、【神の試練】で戦っていた魔物たちのHPは、俺のそれとは桁が一つも二つも違っていた。圧倒的なステータス差があったのは事実だ。
《しかし、敵との相性や、世界の理に深く関わる特殊能力の存在もあるため、戦闘が常に容易であるとは限りません。》
無限図書館から、すかさず釘を刺された。確かに、朱雀やカオスドラゴンとの戦いでは、そのことを嫌というほど感じさせられた。
俺は再び考え込む。前の世界では何をしても不幸が纏わりつき、常に困窮していた。だから、何をすれば物事がうまく行くのか、その経験がない。普通の生き方、というものが良く分からなかったのだ。
(〈無限図書館〉。この世界では普通に生きて行くためには何をすればよい?)
少し抽象的すぎるかと思ったが、俺は新たな相棒に問いかけてみた。
『―――解析完了。マスターの記憶にある知識体系を基に回答します。この世界は、マスターの知識における中世ヨーロッパのそれに近い社会構造を持つと想定していただくと、理解が早いかと考えられます。近代的な機械文明などは存在せず、魔法文化が生活の基盤として発達しており、いわゆる産業革命は起きておりません。』
『そして、マスターの記憶の中にある〈ギルド〉という組織は、この世界にも存在します。人々は主に以下の方法で生計を立てています。
**冒険者:**ギルドに登録し、モンスターの討伐や素材の採取、護衛などの依頼をこなし、その対価を得て暮らす者たち。
**農民:**土地を耕し、作物を育てて暮らす者たち。
**商人・職人:**物を作り、あるいは売り買いすることで生計を立てる者たち。
これらが、いわゆる一般市民と位置付けられます。』
(なるほどな…ギルドか。ラノベの定番だが、それが一番分かりやすいかもしれない。俺の力なら、冒険者として生計を立てるのは難しくないだろう)
俺が納得していると、無限図書館はある一つの可能性について言及した。
『―――また、マスターが想起されている「貴族」や「王族」も、この世界には一定数存在しております。それらの存在が、各々の領土や権益を巡り、小競り合いを行っているのも確かです。』
(じゃぁ、魔族は存在するのか?)俺は疑問を投げかける。【神の試練】では、魔族らしき敵は出てこなかった。
『―――はい。存在を確認できます。この世界には「魔王」を頂点とする魔族が存在し、現在、人間種との間で大規模な戦争状態にあることが確認されています。』
(ん!? 明確な人類の敵が存在するのに、王族や貴族は領土争いで人間同士の戦争をしているのか?)
その矛盾に、俺は眉をひそめた。
『―――はい。その背景には、より大きな力を求める一部の人間種が魔族と結託していたり、あるいは魔族が人間を裏から操り、洗脳し、彼らの目的のために利用したりしている複雑な事象が確認できます。』
(…人間同士で争ってる場合じゃないだろうに。魔族と繋がっている人間までいるのか。思ったより、この世界は単純じゃないらしいな…)
俺は頭を整理し、さらに核心に迫る質問を〈無限図書館〉に投げかけようとしていた。




