第二十階層:蒼龍神殿、天命の試練
(玄武、そしてリッチ…強敵が続いたな。次は青龍か。どんな化け物が出てくるんだか。だが、今の俺なら…!)
俺は新たな聖剣〈エクソルシウム〉と、攻撃魔法、そして回復魔法という新たな力を確かめるように拳を握りしめ、リッチが守護していた〈第二十階層神域への鍵〉を白亜の大扉の中央にある鍵穴へと差し込んだ。
カチリ、と軽い音を立てて鍵が回り、ズウウウン…という地響きと共に、精緻な龍の彫刻が施された巨大な扉がゆっくりと内側へ開いていく。
扉の向こうに広がっていたのは、これまでの薄暗いダンジョンとは全く異なる、息を呑むほどに美しい、広大な神域だった。
そこは、まるで天上の庭園をそのまま切り取ってきたかのような空間。見上げる空には雲一つない蒼穹が広がり、柔らかな陽光のような光が降り注いでいる。足元には青々とした苔が絨毯のように広がり、見たこともないような美しい花々が咲き乱れ、清らかな小川がせせらぎの音を立てて流れている。そして、空間の中央には、天を突くかのような巨大な神木が聳え立ち、その枝葉は神域全体を覆うかのように広がっていた。周囲には生命の気に満ちた、濃密で清浄な風が常にそよいでいる。
(ここが…青龍の神域…!)
そのあまりの美しさと神々しさに、俺はしばし言葉を失う。だが、この穏やかな風景とは裏腹に、肌を刺すような、途方もなく強大な「気」――竜脈そのものとも言うべきエネルギーが、この神域全体から発せられているのを感じる。
俺が神木に向かって数歩進んだ、その時だった。
神域全体の風が突如として止み、小川のせせらぎも、木々の葉擦れの音も、全ての音が消え失せた。そして、神木の最も太い枝がしなり、そこから眩いばかりの青白い光と共に、長大な影が天へと舞い上がった。
それは、東方の空を覆いつくさんばかりの、巨大な龍だった。その鱗は磨き上げられた瑠璃のように深く蒼く輝き、鬣は嵐を呼ぶ風のように逆立ち、四肢には鋭い爪を備え、その双眸は天空の星々を宿したかのように叡智と威厳に満ちている。
〈神獣・青龍〉。その姿は、神話の中の存在がそのまま現実世界に現出したかのようだった。
俺は全身全霊で、その神々しいまでの存在を鑑定する。目の前に展開された鑑定ウィンドウは、玄武の時と同様に巨大で、そこに表示される情報もまた、俺の理解を遥かに超えるものだった。
名称: 〈神獣・青龍(Azure Dragon)〉
分類: 神性存在(★★★★★★)
HP: ???/???
MP: ???/???
属性: 木/風/竜脈
弱点: 雷属性攻撃(竜気の制御を乱す)、心眼(精神集中を崩す)
行動特性: 旋風竜巻、樹海覚醒、竜鱗防域、龍牙連撃、時間調律
備考: 四神の東方を護る天帝の使い。大気と大地の生気を司り、封印が解かれし時、万象を統べる。「青龍覚醒」により、一時的に全ての属性耐性が大幅強化される。真に討伐するには、「天命の龍紋符」を至近距離から刻印し、龍脈と同調を崩す必要あり。
(HPもMPも…計測不能か! しかも、また訳の分からない討伐条件が…「天命の龍紋符」って何だ?)
冷や汗が背中を伝う。青龍は、その巨大な頭部をゆっくりと俺に向け、やはり精神に直接語りかけてきた。その声は、春の嵐のようでもあり、森の奥深くで響く風のようでもあった。
『小さき人の子よ。よくぞ我が聖域に辿り着いた。されど、この先へ進むというのならば、汝がその力を示すがよい。万象の理、その一端に触れる覚悟があるのならばな』
言葉と共に、青龍の周囲に凄まじい風が巻き起こり、神木の葉が激しくざわめく!
(問答無用、ということか!)
俺は〈エクソルシウム〉を構え、全身の神経を研ぎ澄ませる。
青龍が一声咆哮すると、神域全体に突風が吹き荒れ、巨大な竜巻「旋風竜巻」となって俺に襲い掛かってきた!
「うおっ!」
俺は咄嗟に地面に伏せ、暴風をやり過ごす。風圧だけで体が裂けそうだ。竜巻が過ぎ去った後、俺はすぐさま体勢を立て直し、ファイアーボールを連続で青龍に叩き込む! だが、青龍はその身を覆うように淡い緑色の光――「竜鱗防域」――を展開し、全ての火球を容易く弾き返した。弾かれた火球のいくつかは足元の青々とした苔に落ち、**ジュッという音を立てて焦げ跡と燻る煙を残した。**一部の炎は反射され、俺自身に迫る!
(また反射か! しかも木の結界だと、火は相性が悪くないはずだが…!)
鑑定によれば、この結界は物理攻撃すら反射するらしい。厄介極まりない。
青龍はさらに、その巨体をしなやかに動かし、目にも留まらぬ速さで「龍牙連撃」を繰り出してきた! 空気を切り裂く鋭い爪と牙が、雨あられのように俺に降り注ぐ。
「速すぎる!」
敏捷Sの俺ですら、全てを捌き切るのは不可能に近い。〈月煌の聖銀鎧〉が甲高い音を立てて攻撃を受け止め、いくつかの浅い傷を負いながらも、俺は何とか致命傷を避ける。だが、休む暇はない。青龍は攻撃の手を緩めず、俺を翻弄する。
そして、青龍の動きがふっと止まったかと思うと、周囲の時間の流れが歪んだ。青龍の動きだけが異常に加速し、俺の動きは鈍重になる「時間調律」!
(これが時間操作…! 反応できない!)
なす術なく打ち据えられそうになった瞬間、俺は「不屈の精神」と「知力S」を総動員し、極限の集中力で青龍の次の動きを予測しようと試みた。過去の戦闘経験、敵の挙動パターン、そして、この神獣の「格」。その全てから、ほんの僅かな未来を読む!
(そこだ!)
予測した一点に〈エクソルシウム〉の聖光刃を放つ! 時間の歪みの中で、光刃はまるで亀のようにゆっくりと進むが、確かに加速していた青龍の懐へと吸い込まれていった。
「グゥオン!」という、空気が震えるような重い呻き声。
青龍が初めて苦悶の声を上げ、時間調律が解除される。これが「心眼」による弱点への攻撃か!
体勢を立て直す間もなく、青龍は天に向かって長く咆哮した。すると、神域の神木や周囲の植物が一斉に活性化し、みるみるうちに鬱蒼とした樹海へと変貌していく。「樹海覚醒」!足元から、太い根がメリメリと音を立てて地を裂き隆起し、濃密な土と若木の匂いが立ち込める。青龍の体にまとわりつくように緑のオーラが濃くなり、傷が癒え、力がみなぎっていくのが分かる。
そして、青龍の蒼い鱗が一層深く、神々しいまでの輝きを放ち始めた。「青龍覚醒」! 全ての属性耐性が大幅に強化され、先程までとは比較にならないほどの威圧感を放っている。
(まずい、これではダメージが通らない…! 「天命の龍紋符」とは一体何なんだ!?)
俺は焦りながらも鑑定を続けるが、龍紋符に関する直接的な情報は得られない。しかし、樹海覚醒によって活性化した神木の根元、そこに古びた石碑のようなものが露出しているのに気づいた。そこには、見たこともない古代の龍の文字で何かがびっしりと刻まれている。
(あれだ!)
俺は〈言霊理解〉スキルを全力で発動し、石碑の文字を解読しようと試みる。青龍の猛攻を〈エクソルシウム〉の「破魔の聖域」で必死に凌ぎながら、脳裏に流れ込んでくる情報を整理する。
それは、この神域の成り立ち、青龍の役割、そして…龍脈の力を一時的に同調させ、神獣の力を鎮めるための「天命の龍紋符」の生成法だった! それは、特定のルーンと己の魔力、そしてこの神域の竜脈エネルギーを共鳴させることで、一時的に生成できるものらしい。
(時間がない! しかも、覚醒後のこいつには、エクソルシウムの聖属性もファイアーボールの炎も、ほとんど通じない!まるで鉄壁だ…!)
それでも…まだだ、まだ終われない!
額に脂汗が滲む。青龍の圧倒的な威圧感が、嵐のように俺を打ち据え、呼吸すらも困難にさせる。目の前には、先程の激しい攻防で飛び散った瑠璃色の鱗の欠片が、きらりと光って見えた。あれを、貫く…! 俺は一度だけ強く目を閉じ、荒くなる息を必死に整えた。
俺は無限インベントリから、これまでの戦いで集めた魔石や霊力結晶などを取り出し、石碑に記された陣形に従って地面に配置する。そして、〈エクソルシウム〉をその中心に突き立て、詠唱を開始した。
「我が願いに応え、万象の源たる竜脈の力よ、今こそその一端を我に示せ! 天命のもとに、蒼き龍の紋章をここに顕現させん!」
青龍は俺の意図を察したのか、さらに激しい攻撃を仕掛けてくる。聖域が砕け散り、俺の体は何度も地面に叩きつけられる。HPが危険水域まで削られていくのが分かる。
HP: 2100/9900 | MP: 1500/6600 | 状態: 負傷(中)、疲労(大)
(まだだ…まだ終われない…!)
最後の力を振り絞り、詠唱を続ける。そして、ついに陣が完成し、〈エクソルシウム〉の刀身に複雑な龍の紋様が青白い光となって浮かび上がった!剣に宿った紋様が、まるで生きているかのように青白い光を放ち、俺の掌に確かな手応えと力を伝えてくる。俺は深く息を吸い込み、最後の決意を込めてその輝く刃を握りしめた。目の前の青龍が、警戒するようにその巨大な瞳を細めるのが分かった。これが〈天命の龍紋符〉を宿した状態か!
「おおおおおっ!」
俺は龍紋符を宿した〈エクソルシウム〉を握りしめ、覚醒した青龍へと最後の突撃を敢行する! 青龍はそれを迎え撃つべく、最大の「旋風竜巻」を放ってきた!
(この一撃に全てを賭ける!)
俺は竜巻の中心を〈エクソルシウム〉で切り裂き、風圧を突き抜け、ついに青龍の眉間、逆巻く鱗のわずかな隙間に、龍紋符を宿した剣の切っ先を深々と突き立てた!
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」
青龍の絶叫が神域全体を揺るがす。その体から青白い光の粒子が激しく噴き出し、その巨大な姿が徐々に薄れていく。龍脈との同調が断たれたのだ。
やがて光が収まった時、青龍の姿はどこにもなく、ただ神木の下には、静かに輝く青い宝玉と、一枚の羊皮紙のようなものが残されていた。
『レベルが上がりました』
名前: (前世の名前)
種族: ヒューマン
レベル: 26 → 29
HP: 9900/9900 (全快)
MP: 6600/6600 (全快)
【ステータス】
筋力(STR): S
体力(VIT): S
敏捷(DEX): S
知力(INT): S
魔力(MAG): S
幸運(LUK): S
【スキル】
「鑑定」、「無限インベントリ」、「言霊理解」
【魔法】
「ファイアーボール」、「ヒール」
【称号】 「ゴブリンハンター」、「スライムハンター」、「ウルフスレイヤー」、「神獣殺し」(玄武、青龍討伐により効果深化)、「スケルトンスレイヤー」、「ゴーストイレイザー」
(レベルが一気に3つも…! 神獣クラスはやはり桁違いだ。「神獣殺し」の称号も、より重みを増した気がする)
俺は青い宝玉と羊皮紙を拾い上げる。
宝玉は〈青龍の神宝珠〉(★★★★★★)と鑑定された。強大な風と木の魔力を秘めたアーティファクトで、天候すら左右する力があるらしい。羊皮紙は〈四神の試練・白虎への道標〉(★★★★★)とあり、次の神獣「白虎」の神域への鍵となるものだった。
「白虎…か。まだまだ試練は続くってことだな」
俺は空を仰ぎ、深く息を吸い込んだ。神域の風が、心地よく頬を撫でていく。




