三途の総長
三途の川を渡る手段は人それぞれ
三途の川の横断も最近は進化した。
渡り舟が常套手段だった筈だが、近年は橋が何本も架けられ、移動手段も増えた。
シンデレラが乗るような豪華な馬車、ピカピカの高級車、意外と人気な人力車、お子様用にベビーカー等々。
人気がある乗り物は順番待ちの行列が出来る。
私は思い切って行列の無いある橋へ向かった。
「あ?」
見事なトサカが私を睨む。
私をあの世へ連れて行ってくれるのは、この暴走族の衣装に身を包んだ所謂ヤンキーの総長だ。
「テメェなんだコラ。冷やかしなら帰れコラ。」
総長に迫られ怖くて泣きそうになった。
でもここで諦めてはダメだ、未練を残すな私。
「私は、最期に盗んだバイクで走りながら思いっきり叫びたいんです!」
私の率直な願いに総長は呆気に取られる。
だって私は見た目も中身も絵に描いたような真面目な女。
親の言う事に逆らえず親の望み通りの進路を辿り、親の望み通りの会社に入り、友人関係も交際相手も制限をかけられた。
そんな私は長年のストレスが溜まったのか、ただ運が悪かったのか、脳の血管が切れ呆気なく死んでしまった。
だから最期に、あの世に行く前に、一度で良いから悪い事をしてやるんだ。
総長はニヤリと笑い、「後ろに乗りな。」と派手な改造バイクを指差した。
勿論ノーヘルだ。
長い長い三途の川を渡る。
総長の腰に恐る恐る抱き付きながら改造バイクはパラリラパラリラと走って行く。
「オラ!叫べー!!」
と総長が捲し立て、私は今まで出した事もないような大声で叫んだ。
「私は!自分の人生!自分で決めたかった!」
「私は!あんた達の人形じゃなーい!」
「ふざけんな!リカとずっと友達でいたかった!」
「ソウタ君の事!本当に好きだった!」
「ばかやろー!ばかやろー!」
泣きながら叫びまくる私に総長はゲラゲラ笑いながら「最高じゃねぇか。」と言ってくれた。
あぁ、スッキリした。本音を言ったのは生まれて初めてだ。いや、もう死んだんだけど。
「成仏できそうか?」
と、聞く総長。
「うーん、まだあと1000個くらい言いたい事あります。」
と私が応えると、総長はまたゲラゲラ笑いながら改造バイクを気持ち良く走らせた。
三途の川はまだまだ続く。
死者の想いを穏やかに受け止めながら。
〈終〉