78話目
「服を傷つけないで欲しいわ。新品の服は貴重なんだから」
アイラさんはそう言うと、背中に刺さったハサミをゆっくりと抜いた。抜き終わった時には、もう刺し傷は再生していた。それにどうやら、アイラさんは痛みを感じていないようだ。
その時、ドアをノックする音がした。私とアオイさんは、音を立てないように息をひそめる。
「アイラ様、先ほど大きな音がありましたが、何か問題が発生しましたか!?」
「少し、新人の力を見ていたのよ。問題は無いから、持ち場へ戻りなさい」
「はっ、かしこまりました」
アイラさんは、駆けつけた護衛の人を持ち場へ返した。私達を殺すつもりなら、招き入れて一緒に戦えばいいのに、どうしてそうしないのでしょうか。
「さあ、あなた達の力をもっと見せてみなさい」
「どういう事だ? 何故護衛を返した? 私達を殺すんだろう?」
「さあね? 抵抗しないなら、殺すわよ」
アイラさんはアオイさんに尻尾を振り回す。アオイさんは攻撃が見えている様で、危なげなく回避した。その尻尾は、そのまま私への攻撃へと繋がっていて、上から私に叩きつけられた。
「くっ、私、本当に、攻撃しますよ!?」
「ええいいわ。けど、それを敵に聞くのはおかしいんじゃないの?」
「だったら、遠慮はしません!」
私はアイラさんの尻尾を掴み、引き寄せる。
「嘘っ!」
アイラさんはまさか私に力負けするとは思っていなかったようで、あっさりと宙に浮き、引き寄せられる。
「行きますよ!」
「―――!」
アイラさんがとっさに体の前を腕で守ったので、私はそこを思いきり拳を振り抜いた。アイラさんの右腕がちぎれ飛び、緑色の血が噴き出る。そのまま壁にぶつかり、壁に穴を開けて隣の部屋まで吹き飛んでいった。
さすがに、護衛が駆けつけてくるかと思って扉に向かって身構えていたけれど、まさか私が勝つとは思っていないのか、護衛は来なかった。けど、このまま階段を使ったらさすがにバレそうだけど。
「アオイさん、どこから逃げますか? 階段には護衛が居ますよね?」
「危険だが、窓の外から降りるか」
「―――待ちなさい」
「何? まだ意識があったのか」
壁の穴から、アイラさんが姿を現す。ちぎれ飛んだはずの腕はすでに再生していて、見た目状は無傷だった。本当に、怪我では死なないのではないだろうか。
「まだ、やるんですか?」
「いえ、もういいわ。・・・話を聞くつもりがあるなら、ソファに座って」
アイラさんはそう言うと、下げていたズボンをきちんと履き、最初に座っていた椅子の方へ移動して座った。
「・・・もう、戦う意思は無いという事か?」
「ええ。このまま続けても、私じゃ勝てなさそうだし。それに、私に止めを刺さなかったでしょう? 殺す気のない者に対して、私だけ殺意を向けるのは格好悪いじゃない」
私は別に手加減したわけじゃ無く、本気で攻撃していた。だから、アイラさんが生きているのは恐らく、たまたま重要な器官を傷つけなかっただけだと思うし、普通にアイラさんの生命力の高さだと思う。止めも刺さなかったんじゃなくて、もともとさす必要は無いと思っていたし、普通に死んだと思ってたからだ。
私達はお互いに顔を見合わせ、ソファに座ることを選んだ。
「本当に、私を殺しに来たわけじゃ無いのね」
「はい。そんな事をする理由が無いですから」
「殺されかけたのに?」
「けど、私は命の危険を感じていませんでしたし」
「そう認識されていたのはショックだけど、まあいいわ。そっちのあなたは?」
「私は、カエデが許すなら別に戦闘を続ける理由は無い。元々、ここへ来たのは情報収集のためだからな」
「いいわ、私の知っていることならある程度話してあげる。ただ、私の話も聞いてもらいたいけど」




