75話目
さすが真の使徒言われるだけあって、警視庁の警備は厳重だった。エレベーターは動いていないので、階段を上っているんだけど、最初の入口は当然として、5階ごとの階段の前にも2名のランク2の人材が配置されていた。話はすでに通っているのか、私達は止められることは無いみたい。
お兄さんは護衛の人たちに会うたびに会釈をしながら上っている。護衛の人たちは女性だけで、変異している男性は畑仕事をしている人以外見ていない。
「ここに居るのは女性ばかりですか?」
私は答えてくれるかどうか分からないけど、お兄さんに尋ねてみる。
「ああ。真の使徒様が女性という事もあるが、そもそもなぜか女性の方が変異しやすいからな」
「そうなんですね」
私はそう言うもんなんだ、と軽く流したが、これを聞いたアオイさんは何か考え始めたみたい。そして、お兄さんに手を上げて発言する。
「ちょっとトイレに行きたいのだが、近くにトイレはあるか?」
「ん? ああ、そうだな。俺が勝手に歩き回るわけには行かないから、次の護衛に聞いてみるか」
10階にいる護衛に聞くと、各階のトイレは使用できるらしいが、部外者である私達が使用するなら、10階のトイレを利用して欲しいという事。幸い、階段近くにトイレがあるらしい。
「じゃあ、俺はここで待ってるから」
お兄さんは護衛の人たちの所で待つ事にしたみたい。というか、美人の人に話しかけてるから、これを幸いにアプローチかけてるのかもしれない。
「よし、カエデ行くぞ」
「え? 私は別にトイレしなくても――」
「いいから、ついてきてくれ」
「分かりました」
私はそう言われ、アオイさんに着いて行く。女性用トイレに入り、わざわざドアから一番離れた個室へと移動する。
「じゃあ、私は待っていますよ」
「別に本当に排泄したいわけじゃ無い。第一、私もカエデと一緒で排泄の必要は無いからな」
「じゃあ、どうしてここへ?」
「さっきの話を聞いて思うことがある。変異者は女性が多いといっていただろう? 元々、ナノマシンは君達治験者に合わせて作った。つまり、XX染色体に対応するために設計されている。だから、女性の方が適応しやすいというのが分かるが、今思うと男性が変異しているのはおかしい」
「そうなんですか? けれど、男性にもX染色体があるって聞いたことがありますけど」
「ああ。だが、私が設計したのはXX染色体に対してだ。もしかしたら、ナノマシンが自己進化、もしくは誰かが改変したかもしれない」
「それって何か問題があるんですか?」
「自己進化ならば、何が起こるか分からない不安があるな。改変ならば誰かが意図的に人類の変異を進めている可能性があるな」
「それって、どっちが危険ですか?」
「確率の問題で言えば、危険になる確率が高いのは誰かが意図的に変異を進めている場合だな。目的にもよるが、誰も邪魔しなければそいつの思い通りの世界にかえられているという事だ」
「じゃあ、誰がそんな事をしているか探す必要があるってことですね」
「ああ。と言っても、まだ自己進化の線のあるがな。私は、進化は環境適用性が高いものが残るという事だと思っている。つまり、自己進化とは現在の環境に合わせて生き残りやすく変異したものだと考える」
「えっと、それってどういう事ですか?」
「ナノマシンに自意識など無いが、男性であっても生き残れるように変異した方が良いとナノマシンが判断したことになるな。私の意図に反して」
最後の言葉は聞き取れなかったけれど、アオイさんはここで話を切った。
「そろそろ戻らないと怪しまれるな。行こう」
「はい」
私達がお兄さんの所へ戻ると、お兄さんは少し眉を下げた。
「なんだ、もう戻ってきたのか? もっとゆっくりしてきてよかったのに」
「いえ、待たせるわけには行きませんから」
「まあいい。それじゃあ、上へ行こう」
私達が行くと聞いて、美人の護衛の人は少しほっとした表情をしているから、お兄さんの事がタイプじゃないのかもしれない。
そして私達は、17階にいる真の使徒の部屋の前へと着いた。




