72話目
私達は線路沿いを歩いて警察署へ向かう。警察署へ向かうにつれて、風景が変わってきた。何故か、畑が見え始めたのだ。東京のこんな街中に畑なんてあるわけないので、この10年の間に変わったのだろう。
「私の知っている風景と全然違うんですが」
「だろうな。私の記憶にもこんな風景は無い」
そして、いままで誰一人として人影を見なかったのに、畑を耕している人が居た。
「あっ、アオイさん! 人、人が居ます!」
「待て、カエデ。あれはただの人間ではないぞ。腕の一部が変化している」
「・・・そうなんですか?」
私は目を凝らしたけれど、数百メートル先の人物がはっきりと見える訳はない。目が良いアオイさんだからこそ分かったのだ。
「どうしますか?」
「畑をしているという事は、知性が残っているという事だろう。それに、情報を得るいい機会だ。だが、いつでも逃げられるように心の準備はしておけ」
「分かりました。警戒します」
私達はゆっくりと人影に近づく。見た感じは、普通の30歳くらいのおじさん? お兄さん? だ。うーん、このくらいの年齢だったらお兄さんって呼ぶべきかな?
アオイさんが言っていた通り、右腕が左腕に比べて太く、先は鋭い爪が生え、硬そうな毛で覆われていた。
向こうもこちらに気が付いた様で、作業をやめてこちらを凝視している。そして、大声で話しかけてきた。
「お前達、一体どこから来た!」
私達は顔を見合わせ、返事はアオイさんに任せる事にした。私だと、余計な情報を話しそうだし。
「私達には最近の記憶が無い! 日本大学から、他に誰か居ないかと歩いてきたところだ!」
アオイさんも大声で返事をする。その間にもお兄さんの方へ近づき、姿がはっきり見えた所でお兄さんは首をかしげる。
「小学生二人で来たのか? 記憶が無いって、大丈夫なのか?」
お兄さんは、見た目が小学生の私達を見て嘘をついているとは思わなかったみたい。実際、何があったか知らない私達は記憶喪失みたいなものだし、大学から来たのも嘘じゃない。
「ふむ・・・、ハズレじゃ無いようだし、本当に他から来たようだな」
「えっと、ハズレって何ですか?」
「ん? ああ、記憶が無いんだったな。神によって我々人類にランク付けされたんだ。神の試練で変化の無かったものはランク0、俺達はハズレって呼んでいる。肉体的変化が無かったが、有用な知識を持つものをランク1、一部だけ変化があったものはランク2、大きく変化したものはランク3、そして自在に変化できるものはランク4となる」
「神の試練って何ですか?」
「何で知らないんだ? まさか、純粋な人間か? いや、そんな人間は話す様な知能は無いから違うな」
「あっ、一応変化あります! 私は、皮膚が硬いです! ほらっ!」
話の流れで、普通の人間だと何かまずいことになりそうだった私は、お兄さんの左手を握る。
「確かに硬いな。という事は、一部だけ変化したランク2か? 俺と一緒だな。いや、全身が硬いのなら大きな変化になるのか? 分からんが、とりあえずハズレじゃ無いならいいか」
お兄さんは、うつむいて独り言をつぶやいたあと、考えるのをやめたのか、再び私達の方へと向く。
「もう一人もそうか?」
「ああ、私は遠くを見通せる視力を得た。ここからあの看板の文字が見える」
アオイさんは、遠くに見える、私には点にしか見えない看板の文字を読み上げた。
「なるほど。それは体の一部の変化だからランク2だな。君達の様な神の使徒なら歓迎だ。中へ案内しよう」
お兄さんは、私達について勝手に納得すると、作業をやめて中へ案内してくれるようだ。




