67話目
子犬たちは、母犬の死が分からないようで、ひたすらアオイさんに向かって吠えていた。
「さて、子犬の方も片付ける」
さすがに変異すると思われる子犬を見逃すわけには行かないというのは私にも分かるけど、まだどこも変異していない可愛い子犬たちに手をかけるのを見るのは忍びない。というか、動物を殺す様子自体を見てられない。私は再び目を閉じ、耳を塞ぐ。
「・・・・・・」
「終わったぞ、カエデ。さあ、一度この場を離れよう」
私は、アオイさんに肩を叩かれてビクッとしたあと目を開ける。子犬たちの方へは目を向けず、アオイさんだけを見る。そして、アオイさんが歩き始めたので着いて行く。
「やはり、子犬たちの方も変異はしていなかったがナノマシンによる再生が見られた。私の予想と違い、ナノマシンは他者に簡単に移るようだ。これは、ナノマシンのプログラムが未完成だったという事だろう。つまり、私の責任だ。カエデが気にする必要は無い」
「・・・私、分かりません。一体、どうする事が正解なのか」
「今の状況に正解不正解は無いだろう。自分が良いと思ったことが正解だ。誰にも咎められる事は無い」
「それでも、罪悪感があります」
私は両手の拳をぎゅっと閉じ、子犬たちの事を思う。本当に殺さなくてはならなかったのか。もしかしたら、このまま何事も無く過ごせる方法があったのではないか。
「どちらにしろ、親犬を亡くした子犬は長く生きては居られなかっただろう。だから、気にするな」
「・・・はい」
アオイさんは、私の不安を紛らわせるように優しく諭してくれたけれど、やっぱり心の中に少しだけ棘が残った気がした。
「そういえば、自分の体の事について少しわかった気がするぞ。エネルギーを生成する為のDNAと、自分の自衛のためのDNAがある。私の場合は、自衛のためのDNAは目の強化だろう。これは、恐らく私の体が縮んだ事も考えると、メガネザルの特徴だと思われる。目は大きくなっていないから違うかもしれないが、特徴としてはそう取れる。エネルギーの方は完全に推測だが、根粒菌だろう。つまり、私のエネルギー源は窒素だ」
「じゃあ、私の場合は何でしょう? 呼吸の要らない生物何て居ませんよね?」
「ああ。私が思うに、君の特徴に合っている生物はクマムシだな。エネルギー源の方は分からないが」
「クマムシ・・・ですか? それってどういう生物ですか?」
「体長1mm未満の微小な8本脚の動物だ。高温・低温、真空、高放射線、高圧など、過酷な環境下でも仮死状態で生存し、驚異的な耐久性を持つ生物だな。寿命も長く、世界最強の生物と言われる事もあるくらいだ」
「アオイさんは、一体どれくらいのDNAをナノマシンに登録したんですか?」
「寿命の長いモノ、再生力の高いモノ、エネルギー生成に関するモノなど色々だ」
「でも、治験者それぞれの試験管に入っている薬の色が違っていました。私が本来飲む予定だったものには何が入ってたんです?」
「君の場合は、ゾウガメがメインの薬品だな。メインとはいうが、それぞれの治験者に一番合っているDNAを選んだ結果がそれだというだけで、色々なDNAが含まれているのはどれも同じだ」
「・・・・・・それを飲んでいたら、私はどうなっていたと思いますか?」
「そうだな・・・。ユカリ君の様に肌が緑色になり、ゆっくりと行動するのが好きになっていたかもしれないな」
「えっと、一応聞くんですけど失敗した時の事は考えてありましたか?」
「ああ、もちろんだ。体内のナノマシンを破壊するプログラムを仕込んだナノマシンも用意してあった」
「そうですか・・・」
マリアさんがもし私の薬を破壊していなかったら、私はカメみたいになっていたんだ。でも、それってマリアさんが私にカメになってほしくなかったって事? よく分からないけど、私的には今の姿の方がマシの様に思えた。




