66話目
「それで、どうします?」
私は、アオイさんにこの状況でどう動くべきなのか判断を任せる。私としてはこのままこの場を離れるのが一番だと思うけど、あのアヤヒさんの顔をした犬を放っておいていいのかどうか判断が出来ない。
「今はこちらが風下だから気づかれていないが、風向きが変わればすぐに気づかれるだろう。まあ、今は食事をして満腹だろうし、子犬を放置して私達を追ってくる可能性は低いが、あれを放置しては他に被害者が出るかもしれない。今のところ他に人は見ていないが、あの男性や犬が生きているという事は他にも食料となる人か物があると考えられるだろう」
「でも、私は戦いたくありませんよ。いくらアヤヒさん本人じゃ無いとはいえ、アヤヒさんの顔をしていますし、子犬を殺すなんて出来ません」
「子犬もナノマシンを取り込んでいる以上、放置はできんから排除対象だ。カエデが出来ないなら私がやろう」
「でも、アオイさんは戦闘が出来ないって言ってませんでした?」
「得意では無いだけで、出来ない事は無いぞ。幸い、武器もある」
アオイさんは白衣からカッターと大きめのハサミを取り出した。コンビニに置いてあったやつだろ思うけど、きちんと武器として用意してたんだ。てっきり、持参のメスだけかと思ってた。
「さて、私自身もどこまで出来るか分からないが、ある程度自分の体の事は分かった。恐らく問題ないはずだ」
アオイさんはそう言ってゆっくりと犬の方へと歩いて行く。ある程度近づくと、犬の方も臭いか気配か分からないけれど、アオイさんに気が付いたようだ。子犬を守るようにして唸っているアヤヒさんの顔をした犬の母親らしい態度に、やはり私は殺すことが出来ないと思った。
アオイさんは右手にカッター、左手にハサミの真ん中くらいを持ってさらに近づくと、親犬が口を割って威嚇しながら飛び掛かってくる。アオイさんは、それを避けると同時に、首の後ろにカッターの刃を刺して手放す。それは正確に神経を切断したのか、親犬はそのまま地面に横たわって動けないでいる。
「可哀そうだが、人を食うと分かった以上、お前を放置する訳にはいかない」
子犬たちが親犬を心配そうに吠えていて胸が締め付けられるが、アオイさんは左手に持ったハサミを振り上げる。私は、顔を反らして目をつぶってその瞬間は見なかったけれど、子犬たちが激しく鳴くのでどうなったか分かる。
私が顔を戻すと、頭にハサミが刺さった親犬は、ピクピクと痙攣していて、まだ死んではいないが動けなくなったようだ。
「これくらいだとすぐに再生するだろう? しっかりととどめは刺させて貰う」
アオイさんは追加でポケットから包丁を取り出した。一体、どれだけの刃物をポケットにしまっているのか。アオイさんは、そのまま親犬の四肢を削る。ナノマシンがすぐにその傷を治すが、大きな損傷を治すエネルギーを使い、みるみる親犬は細って行く。そして、最終的にミイラの様にやせ細って死んだみたいだ。




