65話目
私達はアヤヒさんを追ったけど、どんどんと離されていく。向こうはおじさんの重さをものともせずに犬の全力疾走で走っている。対して、私達は体力はともかく、スピードで全く追いつける気がしない。
「仕方ない、その辺の車を借りよう」
アオイさんはそう言うと、近くにある軽四に乗り込んだ。鍵は車内に置きっぱなしになっていたようで、ドアを普通にあけられた。
「くそっ、バッテリーが死んでるのか」
アオイさんは車のスタートボタンを何度も押しているけど、エンジンが動く様子は無い。そうしている間に、アヤヒさんを見失ってしまった。
「すまない。私の判断ミスだ」
「いえ、どちらにしろ車が動かなかったら追いつけませんでしたよ」
「とりあえず、向かった方角を探してみよう」
アヤヒさんに私達を振り切ろうという意思があれば、向かった方角にフェイントをかけたかもしれないけど、あの様子だと普通に最短で目的地に向かったように見えた。つまり、距離は離されたけど時間をかければ追いつけるという事だ。
「どこかに巣でも作っているんですかね?」
「行動原理が分からんから何とも言えんが、持ち帰ったところを見ると何かあるのかもしれん」
よく見ると、地面におじさんが引きずられた跡が見える。ほぼ裸だったからか、肌が地面にすれて皮膚片っぽい物もある。すぐに再生するからか、血の様な物が見えないだけ心理的にはマシだけど。
しばらくして、私達はアヤヒさんに追いついたようだ。
「あれって・・・」
「ああ。食ってるな」
「うえぇ・・・」
アヤヒさんは、おじさんを食べていた。さらに驚くことに、そこに居たアヤヒさんは一人じゃ無かった。普通の子犬が何匹も居たのだ。なぜアヤヒさんが子犬と一緒に居るのだろうか。
「どうやら、私は勘違いをしていたようだ。あれはアヤヒ君の分体とかではなく、犬がアヤヒ君になったのだ」
「え、どういう事ですか?」
「ナノマシンによって、アヤヒ君のDNA通りに体が治された結果、あの姿になったのだろう。ナノマシンも完全ではなく、中途半端に動物の姿を残してしまっているようだ。ナノマシンには、様々な生物のDNAを記憶させていた。その結果、近しい生物に逆にアヤヒ君のDNAが作用したのかもしれない。アヤヒ君の変化は、肉食の動物の様だったからな」
「つまり、あれはアヤヒさんじゃないって事でしょうか?」
「私の予想ではそうなるな。実際、周りにいる子犬はあの犬の子供だろう」
おじさんは再生するが、それよりも食われる方が早い。さらに言えば、再生にエネルギーを使ったせいか、すでに動かなくなっているみたい。遠くて詳細が分からないので、思ったよりも見ている事が出来ていた。




