63話目
「アオイさん、食べられるかどうか分かりませんが、比較的ましそうなものを持ってきました」
私はアオイさんに持ってきたものを渡す。
「なるほど。あとは無事であるとしたら乾物とか缶詰みたいなものか。とりあえず、チョコレートを口に入れてみよう」
アオイさんはおじさんの口のガムテテープをはがし、チョコレートの包み紙を破って中身を口へ突っ込んだ。おじさんも口に入った物は食料とみなしたのか、飲み込む。しばらくすると、おじさんがまた元気に叫び始めたのでアオイさんが再びガムテープを口に貼った。
「普通なら消化に時間がかかるはずだが、その辺はナノマシンが補助しているのかすぐにエネルギーに変換されたのだろう」
「だとしたら、アサミさんもすぐに何かを口にすれば助かったかもしれないって事ですか?」
「おそらくな・・・。あの時は、そんな事に気が付かなかった。それに、運び込んだ時にはすでにこと切れていたとミカコ君から聞いている・・・」
「ごめんなさい、別に責めたいわけじゃ無くて、ただ事実確認がしたかっただけですよ」
「ふむ・・・。とりあえず、今は実験を続けたい。今度は脳を破壊したら生命活動が終わるのかどうかだ。心臓が再生したところを見ると、脳であっても回復する可能性が高いが、回復するのが先か、死ぬのが先か、それを確認したい」
「分かりました。私は、少し離れた所で待っています」
私は、さっきの事を反省し、今度は距離を取って耳を塞ぎおじさんを視界から外す。さっきは近すぎたんだよね。
「実験終了だ。もうこっちを向いていいぞ!」
アオイさんが大きな声で私に話しかけた。だけど、すぐに振り向くわけには行かない。
「アオイさん、確認ですけど、私が見ても大丈夫な感じでしょうか!」
「ああ、大丈夫だ! 見た目は変わっていない」
「分かりました!」
私はアオイさんが言ったことを信じて振り返る。確かに、おじさんの見た目はそれほど変わっていなかった。
「えっと・・・生きてますよね?」
「ああ。やはり、脳も再生するようだ。だが、一度脳が破壊されたせいか、動かなくなったようだ。ちなみに、私が破壊した脳の部分は――」
「あーー、あーー、あーーーっ、詳しい話は聞かせなくていいですって!」
「そうか。まあ、結果は私が知っているからいいか。とりあえず、この男は今のところ動き出す様子は無い。このまま放置しておけば、おそらく餓死するだろう」
「餓死って結構きつい死に方じゃ無いですかね?」
「本人の意識は無いから実際はどうか分からんが、脳自体は戻っているはずだからこれ以上治しようはどちらにしろ無いがな」
「そうですか・・・。じゃあ、拘束はそのままですか?」
「ああ。―――いや、今後も必要になるかもしれないから文鎮は回収しよう。とりあえずガムテープと結束バンドで十分だろう。自力で解く知能は無いはずだからな」
「分かりました」
アオイさんが文鎮を回収したので、私達はその場を離れることにする。このおじさんがどうなるのか、出来るだけ考えないようにして。




