60話目
「さて、もう少し詳しく実験しておきたい。もし、この様に襲われるのであれば、倒し方を知る必要がある」
「えっと・・・それは、このおじさんを殺すという事ですか・・・?」
「どちらにしろ、このまま野放しにすれば誰かが襲われるだけだろう。幸い、先ほど見た限りではガラスを割る様な力は無いようだ。あくまでナノマシンの再生力を得ただけの人間という感じだろう」
「確かに、このまま手を放したらまた噛みついてきそうですけど・・・」
「ふむ。少し待っていろ」
アオイさんはコンビニへ入っていく。私はおじさんが逃げないようにしっかりと抑えつけている。おじさんは叫びながら暴れるけど、力は完全に私が上の様で、拘束を解かれる心配は無さそうだ。
「コンビニには色々な物が置いてあって便利だな」
アオイさんは、かご一杯に色々なものを入れて戻ってきた。
「お金はどうしたんですか?」
「ん? 当然払っていないぞ。店員も居ないしな。もし、これで訴えられるようならきちんと支払うから安心しろ」
「訴えられるまで払わないんですね・・・」
「どちらにしろ、今は現金を持っていないからな。電気が来てなくてカード類も使えなさそうだし。これだけの期間、誰も訪れていないという事は、もうこの辺りに人は残っていないのだろう」
「それで、何を持ってきたんですか?」
「とりあえず、君の拘束の代わりになりそうな物を持ってきたぞ」
アオイさんはそう言うと、かごから文鎮と結束バンドを取り出す。
「これで肘と膝を拘束する」
アオイさんはおじさんの肘に文鎮を当て、結束バンドでがっちりと固定する。さらにガムテープを取り出し、ぐるぐる巻きにした。それを足にも同じように処置し、さらに両手両足をガムテープで拘束する。
「よし、これで動けないだろう。もう手を放してもいいぞ」
「分かりました」
私はそっと手を放すと、おじさんは暴れるが、アオイさんの予想通り引きちぎったりする力は無いようだ。
「さっき、カエデの攻撃で首が回っても死ななかったから、どの程度の攻撃が有効なのか調べる必要がある」
「べ、別に攻撃したつもりは無いんですけど・・・」
「まずは、うるさいから口をガムテテープで塞ぐ。そして、鼻をつまんで苦しむかどうか見るぞ」
アオイさんはガムテープをおじさんの大きな口にべたべたと貼りまくって塞ぐ。そして、鼻をつまんだ。おじさんは、顔を頑張って動かしているけど、次第に動きが弱くなって、しばらくすると動かなくなった。その時点でアオイさんは手を放す。
「し、死んだんですかね・・・?」
「いや、意識を失っただけだろう。とりあえず、窒息死はするかもしれないという事が分かったな」
アオイさんはおじさんの手首の血管で心拍数をみているみたいで、おじさんの生存を確認している。
「ゾンビと違って手足を折っても再生する代わりに、首を絞めて殺す事はできるってことですよね・・・?」
「ああ、そうだな。だが、君や私みたいに呼吸を必要としない個体が居るかもしれないから、もう少し色々と試すぞ」
「わ、分かりました・・・」
私は、実験体にされるおじさんを可哀そうだなと思いながらも、自己防衛のために必要だと自分を納得させるのだった。




