59話目
おじさんは私の拘束を解こうと、両手を動かそうとする。けど、私は絶対に逃げられないようにしっかりとおじさんの両手首を半分ほど握り潰すほど握っていた。
アオイさんは、上着の次は下だと言わんばかりにズボンも破く。おじさんはトランクス一枚になっている。
「アオイさん、さすがに下着まで破きませんよね!?」
「ん? どちらでもいいが・・・。それに、男の裸くらい見た事があるだろう?」
「ありませんよ! それに、見たくありません! 絶対に、下着は残しておいてくださいね!」
「仕方ないな。だが、必要があれば破くぞ」
「ダメですって!!」
私は両手でおじさんを押さえているため、そんなことされたら真向かいで直視することになってしまう。目をつぶればいいかもしれないけれど、意識的に嫌だ。ずっと目をつぶっているのも何か怖いし。
「ふむ? 足が変形しているな。だから、変な歩き方をしていたのか」
アオイさんが言う通り、おじさんのひざを見ると少しえぐれて変形しているようだった。
「再生しないんですかね?」
「そうだな。少し試してみるか。カエデ、そのまましっかりと抑えておいてくれ」
「分かりました」
アオイさんは羽織っていた白衣のポケットから手術に使うようなメスを取り出すと、おじさんの肩近くの腕を斬りつけた。小さな切り傷は、しばらくして完全に治る。
「なるほど。小さな傷は完全に治るようだな。では、大きな怪我はどうだろうか。カエデ、この男の腕を引きちぎってくれ」
「嫌ですよ!? いくら正常ではないとはいえ、何の罪も無いおじさんを大怪我させるわけにはいきませんよ!」
「この男はさっき君に噛みついていただろう? れっきとした暴行罪が適用される」
「そのお返しが腕一本じゃ過剰防衛になるじゃないですか!」
「ほぉ、よく知っているな。だが、この日本の状況で刑罰が適用されるかどうか怪しいし、何より警察に訴える様な理性が残っているとは思えん」
「でも・・・」
「だったら、せめてひざを折るくらいはどうだ?」
「・・・分かりました。おじさん、ごめんなさい!」
私は、変形していない方のひざを足で蹴り抜いて折った。ゴキッという痛そうな音が響き、私は顔を背けて目をつぶる。おじさんはバランスを崩して倒れた。ただ、手はしっかりと握って離していないので、おじさんは倒れきれずに中途半端な体勢みたい。
「どうやら骨折も治るようだな。だとしたら、このひざの傷は何故治らないのだろうな。じっくり見たいから、この男を地面に押さえつけてくれないか?」
「わっ、分かりました」
私は中途半端な体勢のおじさんを手首をひねってうつ伏せに押さえつける。本に乗っていた護身術の知識だけど、まさかこんな形で役に立つとは思ってもみなかった。
「なるほどなるほど、傷口自体はナノマシンで覆われているようだ。これから考えられることは、この男も間接的にナノマシンを獲得したという事だろうな」
「え? このおじさんも治験者だったんですか?」
「いや、ナノマシンは君達4人だけしか飲んでいない。だから、恐らくだがこの男はアヤヒ君か、アヤヒ君の分裂体か分からないが、どちらかに足を食われたのだろう。その時に、アヤヒ君のナノマシンが体内に入り、この様な状態になったのだろうな」
「え、そんな事あるんですか?」
「もし、この男がアヤヒ君の親戚の様に、ある程度遺伝子情報が近いならば、そう言う事もあり得るかもしれん。副作用として正常な意識を保つことが出来ないというところだろう」
「じゃあ、治す事は出来ないんですか?」
「研究データが何も残っていないから無理だな。それに、開発する施設も無い。こうなると、この様な状態の者がどれほどいるかだな。どれくらい遺伝子情報が似ていればこうなるのか分からんが、遠い親戚ですらナノマシンの影響があるとしたら、かなりの被害が見込まれそうだ」
「そんな・・・」
私が寝ている間に、日本の状況は思ったよりもヤバイ状況になっているのだと思い知らされました。




