6話目
「とりあえず、飲み物を持ってきたんだけど、どっちがいい?」
未可子は、冷蔵庫に入ってた麦茶とスポーツドリンクのペットボトルを机に置く。他にビールやお酒も入っているが、今は出すべきではないと判断した。
「えっと、そっちの飲み物はどんな味なんですか?」
「スポーツドリンク? 飲んだことない? 説明はしづらいから、実際に少しだけ飲んでみたらどうかしら」
未可子は、会議室に置いてあった紙コップにスポーツドリンクを少しだけ入れてカエデに渡す。カエデは、まずは匂いを嗅いでみる。今まで嗅いだことのない匂いで、味の予想がつかない。紙コップを傾け、少しだけ唇に含む。
「あっ、確かに味の説明はしにくいですね・・・。でも、少し甘くて飲みやすいです」
「気に入ったなら、ペットボトルごと飲んでいいわよ。私は麦茶でいいから」
のどを潤していると、未可子の持っている携帯が鳴る。着信音は、デフォルトの音楽なのか単なるピピピピピというアラームの様な音だった。未可子は携帯の通話ボタンを押して、耳につける。
「ピザが届いたみたいだから、取ってくるわね」
「はい、楽しみです!」
同時に、カエデのお腹が「ぐー」と鳴り、早く食べたいとせかす。未可子はクスリと笑って、「すぐに持ってくるわ」と少し駆け足で取りに行った。数分かからず未可子はピザ等を持って戻ってくる。すぐに机において蓋を開ける。
「うわー、すごい良い匂いですね! これがピザなんですね」
「カルビピザよ。夜に食べるには少し重いかもしれないけど、若いから問題無いでしょう」
学校給食では絶対に出ないピザは、カエデにとって生まれて初めて食べる物になる。チラシでは見た事があるが、注文した事は無いし、5年生までに食べた記憶も無い。恐らく、父も母もピザが好きではなかったのだろう。
「た、食べてもいいですか・・・!」
「当然、いいわよ。あなたの為にとったんだから。ああ、手は拭いた方が良いわよ。手づかみで食べる物だし、手もすぐ汚れるからウェットティッシュを持ってくるわね」
未可子は、再び隣の部屋へとウェットティッシュを取りに行く。未可子自身も久しぶりに取った出前のピザなので、事前準備の様なものは頭から抜けていた。ただ、カエデにカロリーの高い食事を摂らせようという事で頭がいっぱいだったのだ。あのガリガリの体を見たショックが大きかったのかもしれない。
未可子がウェットティッシュを持って戻ってきた時には、カエデはエサを前に待てを言い渡された子犬のように、ピザを凝視して涎を垂らす寸前だった。
「さ、どうぞ」
「はい、いただきます!」
カエデはさっそくピザを一切れ持ち、パクリと食べる。濃厚なチーズと、分厚いカルビは、空腹のカエデにとってはすごく美味しく感じた。初めて食べる物ではあるが、もうクセになりそうだった。
「食べられるだけ食べていいわよ。ほら、こっちもどうぞ」
未可子はカエデにポテトも勧める。カエデはポテトは食べた記憶はあるので、ポテトをパクリと気軽に食べる。誰にもとられまいと、次々と料理を口へ運ぶ。余れば未可子も食べようかと思っていたが、その心配は杞憂だったようだ。そのまま、カエデはすべてを腹に収めるのだった。




