58話目
私は、倒れたままのおじさんに駆け寄る。すでに手遅れかもしれないけど、良心的に無視できる状況じゃない。
「おじさん、大丈夫ですか!」
自分でやっておいて言うのも変だけれど、とりあえず状態だけでも確認しておきたい。救急車が来てくれるかどうかも分からないけれど、呼ぶべきだろうか。さっきの状況を見るに、普通の状態じゃないことは分かっているし。
「カエデ! 離れて!」
「バハァ!」
「キャァ!」
アオイさんの声に反応したのかは分からないけど、おじさんが急に私の手を掴む。そして、首が徐々に元に戻ってきた。死んでなかったのは良かったのかどうかは分からないけれど、私はまだ殺人を犯しては居ないようだ。
「アアァ!」
「え・・・ちょ、待って!」
おじさんの口がメキメキと音を立てながら大きく開く。これは、獣状態のアヤヒさんと似たような感じだ。
「放して!」
私は腕を振るけど、おじさんは体ごと振り回された状態でも腕を掴んだままだ。そして、そのまま私の腕に噛みついてきた。
「痛っ・・・くない?」
「ギ、ギギ・・・」
おじさんの歯は、私の腕の表面を貫通していなかった。こうなったら、もうこのおじさんを普通の人として対応するより、化物として対応する事にする。
「このっ、放せ!」
「ギャウッ!」
私は反対の手でおじさんを殴る。人を殴った事なんて今まで無かったけど、思ったよりも良心が痛まなかった。見た目がほぼ化物という事もあるけど、もしかしたら私自身も自分を人間じゃないって思い始めているのかもしれない。
さっきよりも強めに殴ったからか、おじさんの頭が凹んでいた。けれど、それすら徐々に治っている。
「カエデ! そいつを捕まえておけるか?」
「分かりません! けど、やってみます!」
私は、少し怖いけどおじさんを捕まえるために近づく。さっき噛みつかれても痛くなかったので、思ったより恐怖は無い。私が近づくと、おじさんの方が逃げ出そうとしたけれど、動きが遅いのでそのまま両手を掴む。
「アオイさん、捕まえました!」
「よくやった! 私が確認するからしっかり捕まえていてくれ」
「分かりました!」
アオイさんは、おじさんの背広を破り、そのままYシャツも破いて上半身を裸にする。
「うえぇっ! アオイさん、何してるんですか!」
「ん? いや、普通に体の状態を見たいだけだ」
「でも、勝手にそんな事していいんですか?」
「どう見ても意識が正常じゃ無いのは分かるだろ? それに、こう見えても私は医師免許を持っているんだぞ?」
「え? そうだったんですか?」
私は、アオイさんは研究者だと思っていたけど、実は医者でもあったみたい。だからと言って、見ず知らずのおじさんを裸にしていいのかどうかわ分からないけど。




