53話目
「さて・・・どうしたものか・・・」
アオイさんは、静かに椅子へ座って考え込んでいる。私は、さっきのアオイさんとユカリさんの事が頭から離れず、何も考えることが出来ない。
「おっとすまない。私が話さなければならない事だな。今後の予定を立てるにしても、何をするかをまず決めないとな」
「何をするか・・・ですか?」
「そうだ。現状、カエデと私は薬の効果で老化する事も無ければ何かを食べる必要も無い。エネルギーは全てナノマシンが賄ってくれるからな」
「そういえば、お腹が空くことがありませんね・・・。もう、美味しいご飯を食べる事が出来ないんですか?」
「食事を摂る必要は無いが、食べる事自体は出来るだろう。ただ、味覚はどうなっているかは分からんがな。少なくとも、研究所には食べ物は無いから試せないが。とにかく、私達はある意味、ここで永遠に生きることは出来る」
「ここで、永遠に・・・」
私は改めて研究所内を見る。何も無い、壁だけの世界。お腹が減らず、成長する事も無い体にされ、楽しみも何も無い場所で永遠と生きる・・・考えるだけで嫌な人生だ。
「まあ、そう言う事が出来るというだけで、私はそうするつもりは無いがな。そんなつまらない人生を送るためにこんな研究を始めたわけじゃ無いからな」
「そうだ、これはアオイさんが作った薬なんですよね。だったら、元の体に戻る事も可能なんですか?」
「ふむ、今の体に何か不満が? 人間の三大欲求である空腹、睡眠、生殖が不要だ。 ほとんどの人間が望む不老不死に成れたのだぞ?」
「私は、それを望みません。普通に、美味しいご飯を食べて、寿命で死ぬ事が出来れば十分です」
「ふむ・・・。私は、元に戻ることなど考えていなかったから、そんな研究は行っていなかった。よし、では目標の一つにカエデを元の体に戻すという事を入れよう」
「できれば、ユカリさんとアヤヒさんも元に戻してあげたいです」
「それは、彼女たちが望むならいいだろう。それには、まずはアヤヒ君とユカリ君の本体を見つけ出さなければならないが」
「そうですね。どこいるか分かりませんが、必ず探し出してあげたいと思います」
「であれば、嫌でも外で活動しなければならないぞ。カエデはともかく、耐久力に関しては私は普通の人間だから、もしアヤヒ君に襲われるようなら君に助けてもらわないといけないが」
「私がアヤヒさんと戦うんですか?!」
「戦いと呼ぶかは分からないが、恐らく君の体ならアヤヒ君に食べられることは無いだろう」
アオイさんは、私の腕を撫でて硬さを確かめているみたい。実際、コンクリートよりも硬い私の皮膚なら、もしかしたらアヤヒさんの噛みつきに耐えられるかもしれない。実際にどうなるかはやってみないといけないけど、少なくともアオイさんよりは戦闘向きだろう。
「分かりました。何かあれば、私がアオイさんを守ります」
「うむ。私が居なければ、元の体に戻る事が不可能になるからな」
「そうですね。・・・ところで、出発は明日の朝ですよね?」
「ああ、そのつもりだ。夜でも目が見えるとはいえ、日がある方が良く見えるからな。まあ、少しでも早く出発したいなら今からでもいいが?」
「うっ、もう少し落ち着いてから行きましょう」
今までの本能か、やはり活動は明るい時にという感じがして、夜に動き回ろうとは思えません。でも、睡眠の必要が無い体って、夜がすごく暇なんですが・・・。




