52話目
アヤヒさんが、私達の方へと走ってくる。私は、あまりの恐怖に逃げる事すらできずに、立ちすくむしか無かった。そして、アヤヒさんが一瞬力を溜め、飛び掛かる。
「ひっ!」
私は目を潰り、アヤヒさんに噛みつかれる姿を幻視する。でも、すぐにブチッという音が隣から響いた。私はすぐに目を開けて何の音か確認する。
「ユ、ユカリさん!」
隣を見ると、ユカリさんの腕がアヤヒさんに噛みちぎられていた。ただ、傷口からは血が出ていなくて、それどころか傷口がうごめいていて、すぐに腕が再生していった。
「グルゥゥゥ」
「ユカリさんの腕を・・・食べてる・・・?」
一方、ユカリさんの腕を噛みちぎったアヤヒさんは、その緑色の腕にかぶりついて食べていた。ユカリさんの腕には骨が無いようで、まるで果実の様に残さず食べられていた。私とアオイさんは、それを黙ってみているしか無かった。動いても、話しても襲われそうだったから。
アヤヒさんは、ユカリさんの腕を食べ終わると満足したのか、そのままどこかへ走り去っていった。
「あれは、アヤヒさん何でしょうか・・・?」
「恐らく、あれも分体かもしれないな・・・。もし、本人であればもう少し人間味があるはずだ。ただ、その場合は単体で増えていることになるんだが・・・」
「そうだとしたら、私達が他のアヤヒさんにも襲われる可能性があるって事ですか?」
「そうなるな。今回はたまたまかユカリ君を襲っていたが・・・」
アオイさんはユカリさんの体を確認している。今はすっかり元に戻っているけど、再生にエネルギーを使ったからか、静かにうつむくだけになっていた。
「このユカリ君は動けないようだから、もしかしたらあのアヤヒ君は分かっていてここへ食べに来ているのかもしれないな。全身に、微妙に噛み傷が見られる。いくら再生するとはいえ、全く同じ見た目にはならないからな」
「ユカリさんは大丈夫なんでしょうか。このまま、ずっと食べられ続けるなんて可哀そうです」
「それは私にも分からないな。現状がどうなっているのか全く分からない。それに、もう暗くなるから、どこかへ身を隠した方がいいだろう。暗くても見えるが、この状況を少し分析したい」
「分かりました」
私達は、一度研究室へと戻る事にした。なんだかんだで、研究室は安全が確認されているので安心できるのだ。出入口を一度簡単に壊したコンクリートで塞ぐと、一番近くにある部屋へと移動した。




